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2話 試験

首飾りを首に掛け、冒険者になるための試験が行われるという王都〈シュスト〉へ急いだ。

 この田舎の村〈マイロ〉からはそう遠くない距離にある。


 今は朝五時。

 試験が始まるのは村に張り出してあった紙によると正午からだが、早めに着いておきたい所である。

 それにしても……腹が減った。

 寝てしまったせいで昨日の昼から何も食えていない。

 ま、向こうに着いたら考えよう。





 「ゼェー… ハァ… ガハッ!!」


 つ、疲れた……

 もう走れねぇ……

 横腹痛ぇぇ……


 「おいアレス!! 最強の冒険者になるんじゃなかったのか!?」


 アローは余裕そうな顔をしている。

 毎日鍛錬を積んできたからだろうか?


 「な、なるよ!!」

 「……仕方ねぇな。金はいるが、馬車かなんかに乗せてもらうとするか」


 アローは近くを通った商人に話しかけた。

 こういう時に頼もしいやつだ。


 「王都まで行くなら乗せていってくれないか?」

 「おう!! 荷台になら乗せていけるぜ。ただし、銅貨十枚寄越しな」


 何とか行けそうだが……

 金がいるのか。飯は試験が終わるまで我慢するしかないようだな。


 



 馬車に乗って約一時間が経っただろうか。


 「ウップ…オェッ…」


 気持ち悪い……

 吐きそうだ……

 早く降りだい……


 アローは呆れたような目をしてこっちを見ている。

 相変わらず余裕そうだ。


 「ついたぞ!! 王都だ」


 馬車が止まる。


 やっとだ……

 この瞬間をどれだけ待ちわびたことか。


 「意外と早く着いたな。歩きなら五時間ほどかかる予定だったんだが」

 「あぁ……」


 五時間だと!? 平気でとんでもないことを言うな。


 「大丈夫か? 顔真っ青だぞ」


 俺は馬車から降りた。

 顔を上げると、久しぶりに見る車酔いが一瞬で覚めるような美しい街並みが目に飛び込んできた。


 レンガ造りの背の高い、白色で統一された家や店が綺麗に並んでいる。その後ろには見上げる程大きなシュスト王の治めるシュスト城。

 木造で二階建が限界の田舎の村では考えられない建築技術だ。


 見わたしたところ、庶民が多いのは変わっていない。王都といっても、町のような役割も果たしているのだろう。


 「ようやく〈シュスト〉に着いたぞ……人生で来るのはニ回目か」


 俺は数年前、父さんの農作物の納品に連れて行ってもらったことがあった。その時は一瞬入っただけだったが。


 「さて、会場は……あっちだな」


 金を払って俺たちは歩きだした。

 試験があるからなのか周りには屈強な男たちが多い。

 アローなら少し張り合えられるだろうが、ヒョロヒョロな俺では太刀打ちできないだろうな……。


 「あそこが会場か?」


 均整に並ぶ建物と建物の隙間の道を抜けた先には、とてつもなく大きな広間があった。


 「人多すぎだろ……」

 「毎年こんなもんなのかもな」

 「名前書いたりとかいらないのか?誰が誰だか混乱しそうだが」


 そこにいたのは……どこを見ても人、人、人だ。

 五百人は軽く超えているだろう。


 「アイツら農民か?」

 「場違いだろ。農民は農民らしく一生耕してろってんだ」


 人の多さに驚嘆していると、コソコソと嫌な言葉が聞こえてきた。

 服装でわかるのだろうか。

 ムカつくが印象悪くなるし騒ぎを起こさないようにしないとな。


 『「「もう十分集まったかなぁ〜?」」』


 !?

 頭の中に声が!?

 若い男の声がする。

 アローも驚いた様子だ。おそらく聞こえているのだろう。

 何らかの魔術か?


 『「「みなさん初めまして。私はノクシャスという者。今回の試験の担当をさせてもらいます。いや、今回「も」か」」』


 喋っている本人は見える範囲にはどこにもいない。

 周りの皆は当然のような顔をしている。

 これが普通なのだろうか。


 『「「現在ちょうど朝7時ですが……今から試験を始めたいと思います。待つのめんどいし」」』


 な!?

 それは無茶苦茶じゃないか!?

 張り出してあった紙に書いてあった時間と五時間もズレてるじゃないか……


 「周りの奴らを見てみろ。平然とした顔で聞いてやがる。たぶん毎年のことなんだろう」


 アローが苦い顔をする。


 「いかに正確な情報を掴むか……もう試験は始まってんだよ」


 言われてみれば自分たちも早く来たはずなのに、すでに会場には数百人もいた。

 知ってたんだ。

 ノクシャスとやらは七時に試験を始めることを。


 てか危なかったんじゃないか?

 もしあの時そのまま歩いていたら……

 そう思うとゾッとする。


 ま、まぁそんなことを考えていてもしょうがない。

 覚悟しないとダメなんだよ。覚悟しないと。

 肝心の試験内容は何かなぁ〜?

 魔術とか剣術の実技試験だったら少々分が悪いなぁ〜。


 『「「試験についてですが、みなさん。まずは会場を移しましょうか」」』


 そう聞こえた瞬間――――


 俺は地面が光ったと思ったら、草原の上に立っていた。


 「ど、何処だここ!?」


 俺はいきなりの出来事に狼狽した。


 隣にはアローもいる。

 確かにあの時俺たち王都にいたよな?


 遠くのほうに小さくシュスト城が見える。どうやらここは俺たちの村のさらに外側のようだ。


 周りには十メートル間隔ぐらいでさっき試験を受けに来ていた人がいる。

 どうやら俺たち以外も飛ばされたようだ。


 『「「いや〜成功しましたね。転移魔術。失敗して何処か遠くにいってしまわないか不安だったんですけれど」」』


 失敗だと?安全を確かめいないのに使ったのか?

 どこまでヤバい奴なんだ。このノクシャスとやらは。


 遠くから「ふざけんな!!」と怒りの声が聞こえてきた。これは想定外だったのだろうか。


 『「「さて、試験内容ですが……簡単なことです。なんと……《鎧》のパーツを集めるだけ!!」」』


 ……鎧?


 『「「もちろんタダの鎧じゃありません。真っ黒の鎧です。もの凄い魔力が篭ってるらしいですし、すぐそれとわかるでしょう」」』


 俺は胸を撫で下ろした。


 なんだ。

 それだけか。

 こんな所に飛ばされるから魔物討伐でもさせられるのかと思いきや、俺でも簡単にこなせそうだ。


 『「「どうです? 簡単でしょう? パーツは十個です。さぁ、すでにライバルたちは動き始めてますよ!!」」』


 俺はアローを見た。

 彼はいかにも「準備万端です」と言いたげな顔をしている。


 『「「私があなたたちに話せるのはこの距離が限界です。最後に、《鎧》を持ってきた者には最大限の「おもてなし」をすることを誓います。それでは各々頑張ってください」」』


 「声」はそれを最後に途絶えた。


 「それにしても……妙に受験者任せなんだな。試験官の一人もいないじゃないか」


 確かに何かおかしいが……

 受験者の知ったこっちゃない。

 人件費かなんかが結構かかるからこういう形の試験にしたんだろう。


 「まぁいい。早速近くの町に行って聞きこみするぞ!! ノクシャスとやらが言った通り、ライバルたちは既に動いてるんだからな!!」

 「おうよ!!」



 こうして俺たちは最強の冒険者の為の第一歩を踏み出した。


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