武器。
「ただいま。じゃあ、ルーク、さっきの鈴の音をイメージ、もしくは『来い』と考えて手を開いてみて」
そう言った直後に、ルークの手には剣が現れた。
隣の部屋のベッドの上にあるはずの、私の鈴を付けたルークの剣。
いきなり手の上に、剣が現れるから、その重量でぐらつくかな?と思ったのだけど微動だにせず。
しっかり剣が扱える程度には軽々と持てるまでに、鍛錬してるんですね。
勤勉というか…頑張り屋さんだなぁ。
エルフってもともと華奢な体格をしてるから、他の種族よりは筋肉とか鍛えるっていうイメージに程遠いんだよね。
体質的にも筋肉つきにくそうだし。
「これは便利だな」
「え……何それ」
「えっと、それ、しまっておくこともできるから。これなら重くないよね…って事でユージアにはこれ」
ユージアにはスリングショットを渡す。
これにも青い根付の鈴がつけてある。
「魔力を通すってのがいまいちわからないんだけど…あ、変わった!」
白?微妙に水色かな?
とりあえず説明の続きをしたかったのだけれど、ユージアが期待の眼差しで目をきらきらさせてこっちを見てるので、とりあえず私の寝室にスリングショットを置いてくる。
……まぁ寝室から出た直後に、ユージアの大興奮という感じの声が響いていたので、武器の呼び出しは成功したっぽい。
「うわああ!すごい!本当に来た!すごい!すごいよっ!」
「はいはい……とりあえず落ち着いてね。この道具、便利そうだけど効果に個人差が大きくてね、一定の距離までしか鈴が反応しない人と、遠距離でも余裕で反応する人がいるの。『討伐中に剣が飛ばされてしまった!』もしくは、『剣を落としてしまった』時のフォローっていうのが元々の開発コンセプトだから、呼び出せるからって『普段から剣を持ち歩かない』っていう選択はしないように」
……一応説明はしたけど、ユージアに至っては全く聞いてないな。
大興奮すぎる、ちょっと落ち着いて欲しいなぁ。
「……消えたっ!セシリア!消えちゃったよ!どこ行っちゃったの?」
「もう一度呼び寄せたら出てくるよ。『収納』とか『しまう』イメージをすれば、消える…というか収納されるよ」
「うわっ!出てきた!すごい!」
説明してる側から実践して、大興奮のユージア。
まぁ、魔力低めの戦士や騎士、傭兵に向けて開発した物だから、魔力のコントロールがまだ難しそうなユージアやセシリアでも難なく使えそうで安心した。
「アイテムストレージか?…容量も稼げるのか?」
「あぁ、そんな大それた物じゃないんだよ。小規模な時空魔法で圧縮してるだけだから。流石にストレージクラスまでの改良を行ってしまうと、私の専門外だし」
アイテムストレージとは……アイテムボックスとも呼ばれていて、簡単に言えば、小さなポッケに無限大に色々しまえちゃう。しかも重量とか無視しちゃう。みたいな運搬業にはまさに夢のようなマジックアイテムだ。
「ダンジョンから、小規模なものであれば稀に産出されるみたいだよ」なんてな、都市伝説的に囁かれてはいるけど、実際にダンジョンで手に入れた人はいるのか?と聞かれると、名は出てこない。
ちなみに、一応実在はする。研究の参考にと、見せてもらった事はあるし。
ただ、作成はすごく難しいみたいで、一つの国に一個あればいい方というくらいの希少さ。
部分的に能力を落とした擬似品であれば、いくつかは学園でも作られていたけど、完璧なものまではたどり着けてなかったと記憶している。
「あぁそうそう、一応、形状は鈴ではあるんだけど、一度主人登録をしてしまったら、音は鳴らないから、戦闘中の邪魔にはならないと思うんだけど、どうだろう?」
「優秀だな」
「ちなみに……使用試験で鎧にも有効だったって聞いたから、鎧の瞬時装着が出来るのなら、自分の衣類に鈴をつけたら、一瞬で着替えが終了するんじゃないか?と思ったんだけど、それは無理だった」
「どんだけモノグサなの……」
でも、便利だと思わない?
めっちゃいい考え!とか思ってやったんだけどさ、あれって一個ずつ呼び出さないとダメなんだよね。
一瞬で呼び出すと、一気に重なろうとするから、着る順がおかしな事になる……だけならまだ可愛いとこで、裏表が何故か間違って装着されたり、同時出現した挙句に思いっきり破けたりした。
「私が……学園を離れてからも変わってないようで安心した」
「そこ、安心しちゃダメなとこだと思う……」
ルークがにこりと嬉しそうに笑う。
学園にきてから表情豊かになった……?
普段からこういう人なのだと思いたいところです。
まぁ、私の隣で、何かすごく遠い目をしているユージアもいるわけだけどね。
……って、うん、やっぱり、ユージアの言う通り、ここは安心しちゃダメなとこだね。
嬉しそうにされて、思いっきり微妙な気分になるのも、これまたなんとも言えず微妙な。
「それはともかくとして、セシリアは『私の部屋』って言ってたけど、この部屋って実際は誰の部屋なの?」
「ん?シシリーの部屋だね」
あ、これじゃあ説明にならないのか、ユージアの表情が『???』と、なってしまった。
ユージアはエルフらしいから、縁があれば長い付き合いになりそうだし、むしろユージアが独り立ちするまでは、ちゃんと精神的に成長できるまでは見守りたいし、教えちゃってもいいかな。
ユージアの保護者である、ルークには微妙にバレてるし。
……うまくすればこの2人にメアリローサ国での行動のフォローもお願い……したら代償が高くつきそうだけど、まぁ保険にはなるの…かな?
「魔導学院の上級魔導師で、シシリーという名の人間の女性の部屋だ……学生時代は私の同級生だった」
「あ~。セシリアの事をシシリーって呼んでたもんね。そんなに似てたの?」
「似てない」の意味なんだろうけど、ルークに凄い勢いで首を横に振られる。
まぁ、似てませんよね。
着替えの時も笑われたけど、セシリアのスタイルはモデルさんのように良いもの。
髪も白銀というかうっすらと桜色のようなきらきらと遊色する、容姿もまさに絵本に出てくるようなお姫様!って感じの可愛らしさだし。
って、母様は元お姫様、王族なのだから状況次第では、それこそお姫様として生まれていたのかもしれないわけで。
それに比べてシシリーは……うん、胸とか、ほぼまな板だったし?
背はセシリアよりは高かったと思う……けど、骨格的に太って見えるとかじゃないんだけど、骨張った?筋張った印象っていうのかな?
なんというか、痩せてはいたけど、女性的な凹凸に乏しい体型で、セシリアと比べてしまうと容姿も冴えない感じだったなぁ。
どちらも自分だけど、かなり違う。
「全くもって似てない……けど、まぁ、本人だよ」
とっても不本意だけどね。
まぁ、研究一筋だったしさ、お洒落とは無縁だったし、そもそも興味はなかったけど、でも、そうやって比べられたりすると、コンプレックスでは無かったはずなのに、一気に自信がなくなるのが嫌だな。




