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調達。

 



 食堂へは、迷わず向かう事ができた。

 やっぱり懐かしさでいっぱいだね。

 そういえば、学園内の衣類とか書類なんかを見て思ってたのだけれど、保存状態がすごく良い。良すぎる。


 紙なんかは劣化するほど湿度管理が難しくなるのに、変色も割れもないというか、劣化を考えるレベルでは無かったし、むしろ準備したばかりと言った状態だった。

 学園内のシステムが非常時モードだし、何か保護の魔法的なものが作用してるのかな?


 案の定だけど、食品は無事で…冗談で言っていた通りに1000年モノのサンドイッチを食する機会を手に入れてしまった。


 3人分のサンドイッチとコーンスープ、フルーツの盛り合わせを注文すると、食事カートに乗せられた状態で目の前に現れた。



(懐かしいを通りこして、これは驚愕だわ)



 スープを少し味見してみたら……ただただ懐かしいだけで、匂いも味も特に異変は無かったし大丈夫そう。

 そして、注文した料理を載せたカートは、自動で部屋へ向かって移動を始める。


 ついでにこれ、部屋からも注文できたんだよね。

 まぁ異常がなければだけれど。

 ……腐敗どころか、とんでもない料理が部屋まで運ばれてきても怖いので、直接確認に来たわけだけれど。


 部屋の前に着くと、カートはゆっくりと止まり、ドアに付けられたベルがカランと鳴った。


 ドアを開けようとすると、ドアがゆっくりとほんの少しだけ開き、その隙間から小さな手と緑色の頭が見えた。

 その表情はひどく怯えていて……。



「あ、ユージア、起きちゃったの?」


「……セシリア?…お、おかえり」



 私の声に気づいたのか、大きくドアが開く。

 そこには……金の瞳を大きく見開き、大量の涙を溜め込んだ幼子…いや、ユージアがいた。

 今にも泣きそう、というか泣いてたよね?



「寂しかった?ごめんね」


「……そうじゃない!なんなのここ!」



 私の姿を確認すると、ユージアがドアから転がり出すように飛び出てくる。

 ソファーのそばに置いておいた初等科の制服を着けていて可愛らしい。

 ていうか、初等科のサイズでも袖をまくって、着てる時点でかなりぶかぶかなのだけど……。

 やっぱり見立て通り、3歳か4歳の小柄なタイプで……身長90センチ後半ってところかな。


 なんだろう、もう、どんな仕草や格好を見ても、小さなユージアには可愛いという言葉以外が出てこない。


 脚にぎゅっと抱きついて来たので、そのまま抱き上げてドアを大きく開くと、カートが動き出して応接のテーブルの横まで進んでいく。

 ユージアは勝手に動く食事の載ったカートを凝視したまま、怯えているのか私の首にしがみついていた。



「ん?食事は……確保できたんだな。制服、あったぞ……?」



 ドアの前で首を傾げながら、ユージアの様子を不思議そうに見ているルーク。

 抱っこを嫌がってたはずなのに、がっしりと私にしがみつくように抱っこされてるからね。



「ルークも戻って来たし、ご飯の準備もできたから、とりあえず食べようか?」



 応接のソファーで作った、即席の子供用のベッドは解体されて、起きたユージアによって元の位置に戻されていた。

 ひとまず応接のテーブルの上にサンドイッチとスープと果物とを置いていって……あ、小皿も欲しいなと思ったら、カートに3人分の小皿も一緒に置かれていた。

 ついでに水差しとグラスも。

 なかなかに準備が良い。


 じゃなかった、学生の時(むかし)はこれが当たり前だったんだよなぁ。

 メイドこそいなかったけど、かなり恵まれてたよね。



「2人ともおかえり……で、なんでこんなところでゆっくりしてるの、色々とちゃんと(・・・・)説明して?」


「こんなって、あ……ユージア、部屋覗いたね?……親子揃って乙女の部屋を無断侵入するとか、言語道断ですよ?」



 まぁ、自分の身の安全を確保するという意味では当たり前か。

 隣の部屋がラスボスの部屋だったりしたら、ゆっくりしてられないもんね。



「……あれが乙女の部屋とか…ない。怪しすぎだから!」


「乙女、ね…ふふ」



 ルークの反応も……というかあれか、汚部屋…じゃなかった、ルークも学生時代に自室に研究資材を運び込み過ぎて怒られてたし、あ、ルークの自室ってのは寮ね。

 そういう意味では、想像ついたのかな?



「あぁ……そこの開かずの間…か?気になるな」


「開かずの間って……ひどい。大事な部屋なのに」



 開かずの間扱いだった。

 いや、開くよ?

 普通に使える状態の部屋よ?

 足の踏み場は……ある意味、有って無いけれど、汚れてはいないはずよ?

 ゴミは落ちてないもん。


 フルーツを口に運びつつ、くすくすと笑ってるルークは、放置でいいや。

 今度、今のルークの自室をユージアと暴きに行ってやる。

 きっと似たような汚部屋(!)に違いない。



「起きたら1人だし、ていうかあれ何!?すごい怖かったんだけどっ!」


「アレを見ちゃいましたか……」


「見ちゃいましたよ……」



 ものすごく泣きそうな顔で訴えるように聞いてくるユージア。不謹慎かもだけど、可愛い。

 ……全部の扉に酷く警戒しているところを見ると、一番最初に一番やばい扉を開けたんだと思われる。

 危険察知という意味では、感が鋭い子なんだろうなぁ。優秀だ。



「何を見た?」


「なんか変なひ…「黙ろうか」…はい」



 笑いつつ興味津々に、ユージアから様子を聞き出そうとするルークを阻止して、とりあえず話を戻したい。

 シシリー(わたし)の部屋を暴きに、ここまで来たわけではないんだからね?


 サンドイッチもあらかた片付き始めていたので、お皿を少し端に避けて……魔力を込めて『地図』と呟くと、世界地図が浮かび上がる。

 まぁ、世界地図と言っても、記載されているのは学園を中心とした大陸部分だけなのだけれど。



「……とりあえず今いるのはココ。ここは、メアリローサ国はこの地図だと右下の……ココ。王都はここら辺かしらね?」


「死の森?……もしかして迷宮内?」


「迷宮内とも言うかな?正確には魔導学園内だが」



 ユージアの表情がみるみるうちに青くなっていく。

 そうなんだよなぁ。

 今ではここは死の森と呼ばれていて、文字通り、入ったら命の保証はない。

 高ランクの冒険者ですら、神経質になるくらいに事前に装備や準備を整えて出発して、中央の外角にある城下町の壁にすらたどり着けないほどの魔物の数と強さ。


 昔は大陸一、大きくて立派な国があったんだけどね。

 大陸の真ん中に位置していたこともあって、周辺国から様々な商品や文化が運び込まれて、本当に賑やかで素敵な国だった。

 ……ま、私は学園内に研究で引き篭もってたから、外出なんて滅多にしなかったけどさ。

 素れでも、街のあの賑やかな喧騒は見ていて飽きなかった。



「ユージア、ひとまず落ち着こう。魔導学園内(ここ)には魔物はいない。それと位置的には死の森のど真ん中の地下にいる」


「ど真ん中って……帰れるの?」


「まぁ、死の森といえば、高ランク冒険者でも踏破が出来てない未知の領域だからな。まぁ、地上に出ない限りは安全だ」



 大国があった跡地というか、時代の経過を考えると遺跡化してるよね。

 それなのに『城跡』じゃなくて『森』と呼ばれる理由、それはそもそも魔物が多過ぎて、城下町にすらたどり着けていないからだった。

 そして、大国を覆い隠すかのように大きな森が全てを飲み込んでいるから。



(手前の森が広大過ぎて、近づけないってのもあるか)



 そう、その広大な森を抜けないといけない。

 高ランクの冒険者が、この国の城下街まですらたどり着けないような高難易度の地域から。

 出発の向きは逆だけど、そんな高難易度の中心部から脱出しないといけない。



「朝のうちに森を抜け切りたいから、昼をゆうに過ぎた今から出るのはまずい。ここで装備を整えて一泊してから帰る事になるな」


「ここに泊まるの……えぇ…」



 ユージアが困惑、というかなぜか泣きそうになってる。

 そんなに嫌がるとか、何を見たの……。

 そこまで変なものは置いてなかったと思うんだ。




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