探索。
一つ目は寝室。
……こりゃダメだ。生活感バッチリだった。
ここも部屋としては、ボルドーの絨毯敷きの黒檀の家具で統一されていて高級感がある。
執務や応接としても使えるように、照明もちょっとしたシャンデリアだったりするのに、そのシャンデリアの金具部分にフックをくっつけて、ぶら下げてある大量のアクセサリー類ってどうなの……。
まぁそのアクセサリーも実用品であって、お洒落目的のものではないのだけどね。
いつも着てたローブと、私服がそのままサイドチェストに被せるように置かれていた。
起きたらすぐ着れるように。
ヘビロテなんて表現どころじゃなく、着やすいものを着やすい順にきていたので、ダメになったら、初めて次の衣類を準備するといった、お洒落からも程遠い生活だったために、本当に実用的なものしかない。
(今見ると、まさに独身女性の汚部屋って感じだった……まぁいいや、ついでだし着替えて行ってしまおう)
動きやすさ重視の私服だったので、タイツのように柔らかく動きやすいズボンの上に丈の長めのフィッシュテールチュニックに上にロングのベストを着て、ローブを羽織る。
一見してミニスカートのようにも見えてしまうのだけど、パンツルックです。
そして、お尻がまるっと出ないので暖かいんですよ。
……予備の杖も見つけた。
使えるかな?
私のメインの杖はきっとシシリーと運命を共にしたのだろう。
本当は使い慣れていたメインの杖があると嬉しかったんだけどね。
「それとこれだ」
サイドテーブルに置いてある、宝石箱から青いリボンを通してある小さな銀色の鈴をいくつか取り出すと、ローブの隠しポケットに仕舞い込む。
(結果的に私が使うんだけど、生前に開発して、死後に役立つとは、なんとも言えないわ……)
そのほかに見られたくない衣類(!)を、簡易のクローゼットの中に無理やり押し込んで、お片付け完了!
さてさて、次の部屋は確か炊事に使ってたんだけど……そう思いながら寝室を出る。
目があったルークに更に笑われた。
「お待たせっ!」
「懐かしい……が、少しむ「黙りなさい」」
ルークの言いたいことはわかってる。
セシリアはシシリーの時より、出るとこ出ていて、脚やらウエストには全く無駄な肉がない。
そんなモデルのようなセシリアが、一般的な体型のシシリーの私服を着てるんだ、胸が無駄に強調されるようにきついし、動きやすさ重視のズボンは少し緩い。
指摘されると悔しい……ん?
あれ、今はセシリアなんだから喜ぶべきなのか?
なんとも微妙な顔をしていると、ルークの笑みはすでに爆笑になっていた。
「こっちは寝室だった。あっちも見てくるね」
「……ごゆっくり…ふふ」
笑いすぎて声が震えてる。
何か納得いかない。
寝室と並びにある部屋を指差して、ドアを開けた。
******
さて、二つ目の……炊事場に使っていた部屋。
そーっと開けた隙間から覗き込んでから、するりと入室する。
……小型のシステムキッチンのようなシンクがあって、なぜかベッドが真ん中にどーんと一つ置かれて……あ、そうだ。
うん、ベッドがキッチンに置かれていることがおかしいわけじゃない、これ、来客用だわ。
来客時にここに置いたまま使うか、私の寝室とここは壁を外すと繋げられるから、私のベッドとこのベッドを並べて使うかしてたやつだった。
(この部屋はキッチンがあるから、飲み会会場として使うのに重宝してたんだった)
風呂は……共同の大浴場と、すぐそばにシャワールームがある。
使えるかな?
使えるなら、共同の大浴場を使いたい。
(龍脈は生きていたし、水脈が生きていれば、使えるはずなんだけど)
炊事場として使っていた部屋には、キッチンとベッドしかなかったので、敢えて壁を外さずにこっちをルークに使ってもらおうかな?とか考えつつ執務室へ戻る。
「ただいま。こっちはゲストルームに使ってた部屋だった」
「ゲスト……?泊らせるような相手がいたのか」
ルークがあからさまに訝しげに反応する。
私に至っては、なんかもう、乾いた笑しか出てこない。
旧知の友人だと思っていた相手に、何故か浮気を問い詰められている気分だった。
「稀にね。この部屋で飲み会をして、酔い潰れてげろげろいってる後輩…というか出席者全員?」
みんなでそのまま酔い潰れるまで大騒ぎをして、朝まで騒げる人は騒ぐ。
昼ごろ…というか夕方かな?にお開きになるといった感じだった。
「なるほど……好い人でもいたのかと思ったが」
「ルークと一緒に研究してたあの頃と、全く同じ生活をずっと続けていたのに、そんな人いるわけ、というかできるわけがないじゃない……」
好い人、ねぇ。
そもそも恋愛ごとどころか、異性への興味すら全くなかったのに、出来るわけがない。
……と言いたかったのだけど、あの頃すでに『花』だったとしたら、案外何かあっても良かったのかもしれない?
だって、人間以外にはモテモテだったって事でしょう?
しかし何度思い返しても、そんなそぶりを見せるような相手はいなかったし、そんな好意を寄せてくるようなものもいなかったと記憶してる。
「……番に出会っても気づかないくらいだからな、気づかないうちに案外いたのかもしれないなと思ってね」
「その番にすら、心当たりがないんだけどね」
自分の番。全く記憶にございません。お手上げです…と言わんばかりに肩をすくめてみせると、ルークは何故かとても楽しそうに笑う。
その笑顔に一瞬惹かれ、動作が止まってしまうわけなのだけど。
やっぱり、ルークの笑顔良いなぁ。
さっきの、世の女性ならころりとおちてしまいそうな、切ない顔よりずっと好きだ。
表情豊かになったなぁ。
……なんて、全く関係のないことも同時に考えながら、帰る算段をそろそろ考えないとなぁとか思っていると。
「シシリーの番には、会ったことがあるし、そもそも君のよく知る人物だったと記憶しているのだが……」
いきなりの爆弾発言ですよ。
それすごく知りたい事だからね?
はっとなってルークを見つめると、見惚れるほどに素敵な笑顔を浮かべていた、その玲瓏な美貌に、楽し気に意地悪な色が一瞬にして広がっていくと、今まさに何かを思い出したかのように大仰しく芝居がかった動きで手を打つ。
「そういえば私は、他人の番を『花』と知った上で狙う、狡い者だったね。ならばわざわざ私の恋敵を手助けするのは嫌だなぁ……うん、ここは何も教えない方がいいのだろうね」
にこにこと笑う。それはもう満面の笑みで。
うん、良い性格にもなったのね……。
ほんともう、どうしてくれようね。