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愛でる。

 



 エルネストの抵抗は意外に長く続き、背中をぽんぽんと叩きつつ、がっしりと抱き抱え続けていたら、徐々に抵抗が弱くなってきて。

 ついに諦めたか!と思ってたら寝てました。勝利。


 しかし、そんなに全力で抵抗するほど嫌だったのかなぁ。


 それとも、セシリア(わたし)はお母さん体型と言うにはかなり細身だから、安定感がなかったんだろうか?



(4歳……あ、もしかしたら、魔のいやいや期なのか!)



 あれって女の子はとにかく言葉の発達が早いから、ちゃんと理由をつけて教えてあげるようにすれば、聞き分けが良いから子だと、3歳くらいであっさり卒業しちゃうもんなんだけどね。

 男の子って結構長引くんだよね。

 うちの息子たちの時も、ずっと生意気が続いて、ゲンナリしてた時期があったわ確かに。


 見た目はまだまだちっちゃくて可愛いのにね。

 言ってることが生意気すぎて、どんどん体力と精神力が削られていくんだよね。

 それでも、甘えてくる時はしっかり甘えてくるから、これがまた可愛くって許しちゃう。



「……可愛いなぁ、柔らかくて温かい~」



 思わず、寝てしまって脱力しているエルネストの手をふにふにと掴むと、頬に当てる。

 小さい子って眠くなったり寝てしまうと、熱があるのかと思うくらい体温が上がるんだよね。

 もう、感触が幸せすぎる。


 無防備な上でのあまりの可愛さに、髪を撫でたり、頬擦りしたり、全力で幸せ感触を満喫していると、向かいの席に座っているユージアがなぜか遠い目をしていた。



「セシリアって、小さい子好き?」


「うん、大好き!」


「それ……王子様たちにやっちゃダメだからね?あと……僕にもしないでね?」


「ダメなの?」


「「絶対ダメ!」」


「可愛いのに……」



 どうやらダメっぽい。

 ダメ!って注意の声だけ、父様まで言ってるし。


 今の私だからできる、子供たちの幼児という限られた期間の感触、すごく幸せなのになぁ。

 育児って大変だけどさ、こういう幸せ感があるから、なんとか乗り越えられる。


 ……そう考えると、こんなに小さくて可愛い盛りの幼児(エルネスト)を孤児にしてしまった環境、ならざるを得なかった環境だったのかもしれないけど、我が子の手を離さなければならなかった彼のお母さんのことを考えてしまうと胸が痛い。


 こちらの世界では、地域にもよるが貧困で酷い時にはそれこそ餓死者がいとも簡単に出たりもするし、怪我も病気も簡単に治せるものではないから、流行病であっさり、両親に先立たれると言うこともままある。



(獣人は差別されている地域が多いからなぁ……)



「生活していけなくて手放した」と言う言葉をよく前世(にほん)で聞いていたけど「生活していけない」という事が直接死につながるレベルではないのに対し、こちらの世界での同じ言葉は、本当に死に直結する。

 生活保護みたいな保証もないからね。


 どんな状況で孤児になったかは聞いてないけど……もし、生活再建のために、子供の命だけでも助けてもらうつもりで孤児院に預けたのなら、両親といつかは再会…できるといいなと思う。



 完全に寝てしまい、くたりと脱力中のエルネストを抱き直して、淡い藤色の髪に、おでこに、頬を寄せる。

 柔らかくて温かくて、なんとも言えない幸せ感。



(髪の毛、綺麗に切ってあげたいな)



 髪も、自分で切るしかなかったんだと思うのだけど、段差ができてたり、ざんばら感のある微妙な長めの髪型なんだよね。

 ふわふわで気持ち良いことには変わりないけどさ。


 ……これくらいの子のスポーツ刈りも髪が柔らかいから、触ると面白い感触で、これはこれで好きなんだけどね。


 そう思って頭を撫でていると、突然ぴょこりと大きな耳が飛び出した。

 けもみみ!完全に熟睡しちゃったのかな?

 昨日の朝も、寝てる時は隠していなかったし。



(猫……よりは犬っぽいけど、ずいぶん大きな耳だなぁ)



 子供だから、大きめなだけなのかな?

 音を拾ってるのか、ぴょこぴょこと向きが変わる様は猫の耳みたいなんだけど、形状は犬っぽい。

 触り心地は……最高です。



 ふと正面の父様を見ると、またもや頭を抱えていた。

 幼児を愛でてるだけですよ!

 ダメではないはずだよ?


 まぁ、昨日まで自分よりお兄ちゃんだと思ってたエルネストやユージアが可愛く見えてしまうのことがダメだったんだろうか?


 でも、可愛いものは可愛いんだからしょうがないよね。



「そういえば……ねぇ、ユージアって、小さくなれるの?昨日の朝、寝てた姿が小さかった気がするの」


「あぁ~見られちゃってたのかぁ……『小さくなれる』んじゃなくてね、あれが人間としての僕の今の本当の姿なんだって。ハンスイェルク……僕の父親に切れかけてた魔法を直してもらったら、小さく戻っちゃったんだ」


「エルフの子供が無事に育つようにと親が子にかける魔法で、成長とともに消えるのだそうなのだが……ハンスイェルクの話によると、魔法の修正をしたところ、ユージアの外見が攫われてしまった当時まで戻ったそうだ。『服従の首輪』を着けられた時点で、心の成長が止まり、身体だけが成長してしまっていたので、魔法も中途半端に切れかけていたのではないかと言っていた」



 さらりと父様の補足が入る。

 ……えっと、あれだね、外見が大人だとやっぱり、無意識に大人として接してしまうんだろうね。

 まぁ、正直、父様の補足は分かりやすかったけど、中身が本当の3歳児だったら理解難しいと思うよ。



「じゃあ、私と一緒なのね……私は自分では戻せないけど。ユージアは戻れるのなら、戻ったほうがいいんじゃないの?」


「……戻ったら、セシリアに捕まるでしょ~?まぁ、あそこまで小さいとセシリアの従僕としてのお仕事ができないし、魔法だって覚えていかないといけないし、そのための練習だってしなくちゃいけないし……で、今までの姿に、魔力の制御の練習も兼ねて戻してるの。エルフなのに魔法を使えないまま大人になっちゃった☆とか、色々と困っちゃうからね~」



 悪戯っぽく笑ってるけど、そうね。

 エルフは基本的に魔法全般に適性があるから、あるのに使えないってのは困っちゃうよね。

 でも、小さなユージアも捨てがたい。


 そう思いつつ、抱えてるエルネストをいいこいいこしてると、むずがゆかったのか私の胸に顔を押し付けるようにすりすりされた。



「エル可愛い……」


「頼むから、王子達には襲い掛からないでくれよ……?」



 ぽつりと祈るように父様の、小さな独り言が聞こえた気がした。

 襲うとか……しませんよ?

 もしかしたら、全力で愛でてしまうかもしれませんが。




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