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お姉さん。

 



 まぁ、私の気分がすでに、七五三なのだけど。


 ドレスの袖先がフレアになって広がっているのが可愛くて、腕を上げ下げしたり、胸元がリボンで編み上げになっているのは可愛くて触ったら、少し緩んでしまって注意されたり……楽しくてしょうがない。



(可愛いなぁ。ドレス嬉しいなぁ)



 ……こういう服、実は初めてなんだよね。

 日本で転生していた前世では、ウエディングドレスを着たけど…それ以前の更に前の前世達は、残念ながら着飾る様な立場には居なかったし、そういう機会があったとしても、基本的には制服着用で間に合っちゃってたし。


 動きにくそうだし、コルセットとか苦しそうだしさ……。

 あんまり良いイメージがなかったのよね。

 それでもこうやって着飾らせてもらうと嬉しいものだね。



(これで食事とか、うっかり汚したら泣いてしまう)



 あ、これから食事か……。


 この袖、絶対に何かくっつけそうだ。

 でも、そうか。そこそこ成長したから、自分で大人の椅子に座れるし、食事も頑張れば普通程度には食べれるはずだ。

 マナーは……自信ないなぁ。



「さぁ、出来ましたよ~。正餐室(せいさんしつ)へ参りましょうね」


「せいさんしつ?」



 お着替えセットと、化粧品やらアクセサリーやら、手際よく片付けて、にこりと笑顔で部屋の外へ誘導されていく。

 いつもならセリカがしてくれている事なのだけれど…今日は、母様の専属メイドの後ろに控えて、彼女の手伝いと、これからの動きを教えてもらっている感じになっている。



「いつもお食事をされているお部屋ですよ。皆様お揃いの様ですので少し急ぎましょうね」


「あ、食堂の事ね!」



 手をぽん!と納得。と思ったのだけど、周囲は少し不思議顔。

 あれあれ?とセリカを見ると、同じく母様の専属メイドにも不思議な顔で目配せをされていて、首を横に振っていた。

 うん「食堂」はセリカに教わった言葉じゃないよ。



「食堂は……。セシリア様、食堂というのはこのお屋敷では、使用人しか使いません。正餐室(せいさんしつ)とはまた別のお部屋となります」



 あ、はい、食堂じゃないんですね。

 ずっと食堂だと思ってたよ。

 だって食べる所でしょう?

 前前世(むかし)の学園で食事をとっていた部屋も、食堂だったはずだし、食堂ってつまりダイニングだよね?

 って事は、正餐室(せいさんしつ)もダイニング?



(あれ……そもそもダイニングってなんだっけ?)


「食堂、という言葉自体も、どこで知ったのかしら?セシリアはお利口さんなのね。あとで、お話が楽しみだわ」



 ふふふっ。と母様が楽しげに笑っている。

 なんかその素敵な笑顔とともに囁かれる言葉が、ピンポイントに何かの的をえている様な気がして、最近得体のしれないものに見えて怖いです。

 のほほんとした、優しさからだけの笑顔じゃないよね?きっと。


 これはちょっと……王城でもだけど、いつも以上に言葉遣いを気をつけないと、無意識に墓穴を掘りまくりそうな予感。

 浮かれてる場合ではないかもしれない。







 ******







「父様、皆様、おはようございます」



 カーテシーをして…背筋を曲げない様に…笑顔で顔を上げる…っと。

 多分出来た!

 笑顔がドヤ顔になっていそうな気もしなくはなかったけど、ちゃんと出来たよ!



(大人の身体!前世(ひさし)ぶり!)



 そう思いながら、顔を上げた先を見渡すと、父様とセグシュ兄様……そして、表情に「動揺」というものを持ち合わせていないんじゃないのかと常日頃思っていた家令すらも、ぽかんとした、呆気?びっくり?鳩が豆鉄砲をくらってしまったかの様に、表情どころか、時すらも、止めていた。



「セシー……かい?これはまた一気にお姉さんになっちゃったね」


「起きたら、この姿でした。お姉さんに見えますか?」



 一早く復帰した父様に……これは褒められたのかな?にこり、と笑みで返事を返しておく。

 まぁ、でも、ちょっと……じゃない、見事に眉間がしわしわだ。これは、困ってるよね。



(振り回しまくってしまってごめんなさい、と言いたい所だけど……)



 ここのところのトラブルって、基本的に私が引き起こしたというより、巻き込まれてるものばかりだから。

 今回も、起きたらこの状態だったから、自分ではどうしようもなかったから!

 ……子供らしく、この状況を楽しむ様に、にこにこしておくことにした。



「素敵なお姉さんになったね、セシー。……僕より、背があるんじゃないかな?」


「えっ…?あれ?」



 セグシュ兄様が、呆れ笑いを浮かべつつ私の隣へと並び立つ。

 兄様との視線が同じ高さでびっくりなんだけど!って事はつまり身長近いよね?



「少しだけ、セグシュの方が高いわね?これくらい」


「……頑張らないと、抜かされそうだね」


「えへへ」



「これくらい」と母様が親指と人差し指とで、見せてくれている。

 いやいやいや……兄様、まだまだ成長期でしょう?

 これから伸びますよ!


 セグシュ兄様は成人したての15歳だから、まだまだこれから伸びますよと。

 もともと、大体165以上、もしくは170センチになりそうな高さに見えてたんだよね。

 そこから考えると、今の私は160センチと少しあるくらいになるのかな?

 かなり背の高い感じがする。



(……これだけ身長あったら、ヒールのある靴じゃなくても良さそうだよね?)



 ヒールのある靴は苦手なのですよ。

 私の席はセグシュ兄様の席の隣、と言ってもかなり間が空いてるんだけどね。

 席に着くと、ちゃんと大人の椅子!そしてちゃんと座れるのが嬉しい。


 座って前を向くと、正面にはエルネストが座っていた。

 怯えの色が混じる警戒の眼差しで、私を凝視している。



「エル、おはよう?」


「……おはよう」



 ……挨拶したら、思いっきり目を逸らされてしまった。

 私、怖いかな?


 確かに異常事態だけど……って、あれ、ユージアがいない。

 あ、使用人だから、食堂で食べるのかな。

 一緒ならよかったのになぁ。


 あれ?じゃあエルネストは使用人じゃないんだね。

 どういう扱いで、ガレット公爵家(うち)で暮らすんだろう?

 貴族ってこういうの細かくて、面倒だよね。


 そうこう考えてる間に、食事が始まり、父様と母様の仲良し会話をBGMに気づけばお茶まですすんで。

 うん、やっぱり手や腕が長いって便利だね!

 いつものカトラリーと食器、食事との格闘が嘘の様だったよ!



「父さん……セシーをこのままお城に行かせるの、凄く怖いんだけど」


「俺も不安なんだが、初日があれで、今日も駄目ってわけにはなぁ……。まぁ、ユージアと同じ様なものだから」


「……そうなんだけど。ユージアはしっかりしてるからなぁ」



 にこにこ、うきうきとしているとてもご機嫌な私を眺めながらセグシュ兄様が父様に呟き、父様は頭を抱える様に唸っていた。


 あ、そうか、中身が幼いって意味ではユージアも一緒なんだね。

 でも父様も兄様も、そんなに心配しなくても大丈夫だよ!

 私はそこまで幼くないよ!多分…ね。

 ……今日の登城が、ものすごく楽しみでしょうがないのは事実だけど。

 ちゃんとお行儀良く出来ますよ。




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