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晩餐会。

 



 セグシュ兄様のくるくる攻撃は、馬車のお迎えが来るまで続き……2人とも出発直前になって着付け仕直しをする事になり、母様に盛大に怒られた。



(兄様、全力で振り回しすぎです!)



 美人の怒りは迫力がすごいのです。

 というか、ものすごく素敵な笑顔なのに、背後に負のオーラのようなどす黒い怒りが見えて、あれがきっと笑顔で最大級の怒りを表現するってやつなんだろうね。怖かったです。


 着付けが終わって急かされて、離宮の玄関先の、ロータリーになっている部分にはすでに馬車が到着していて、そばには「早く早く」と手招きしてるユージアが見えた。


 お迎えの馬車はとても大きく広く作られていて、離宮専用…まぁそうか、縦にも横にも大きすぎて、王城敷地以外では走れる道がないと思う。

 要人の対応を想定して造られているので、とても豪華な作りだった。



(このまま車体だけ置いて、キャンプとかできそうだわ……)



 あぁでもこの装丁だとグランピングの方が様になるのかな?

 豪華だもんなぁ。

 キャンプとかアウトドアは好きだったのだけど……現世(こっち)では、平民の普通の暮らしが既にアウトドアに近いものがあるし、冒険者にもなれば、アウトドアどころか命を賭けるほどのサバイバルだもんね!

 私は楽しいけど、周囲にウケる気はしない。



「晩餐だって!楽しみだねぇ~♪」


「堅苦しいだけだぞ?」


「堅苦しいって!ゼンはネコなんだから、マナー関係ないじゃん。っていうか、席どうすんの?床?…あ、もしかして入場自体が不可とか!」



 ご馳走と聞いて、うっきうきのユージアとは対照的に不機嫌なゼンの返答が聞こえてくる。


 相変わらず、ゼンとユージアは仲が良い。

 ……そういえば、ゼンってガレット公爵家(うち)ではソファーで食べてたけど、どうするんだろう?



「今回のは、晩餐会という名目だけど、身内の顔合わせだから、あまり気にしなくて良いのよ?」



 母様は相変わらず、のほほんとした笑みを浮かべているが、隣に座っている父様はなんかもう眉間がシワシワになってる。

 今回の件でお仕事いっぱい増やしちゃったらしいので、ごめんなさい。

 しわが溝になる前に、なんとかなると良いんだけど…。



「身内……まぁ確かに身内か。セシリアは初めて会う人が多くなると思うが…今の王家はセシリアにとっては伯父夫婦ということになる……で、王子達は従兄弟だ。1人は魔力測定会で会ってると思うが、セシリアの一つ年上のレオンハルト王子。もう1人は同じ歳でシュトレイユ王子だ」


「レオンハルト王子は魔術師団の研修で何度かご一緒する事があったけど、かなり利発で活発な王子だったよ。シュトレイユ王子は…うーん、あんまり接点が無かったなぁ」



 父様が相変わらず眉間をしわしわにしながら、そしてセグシュ兄様が捕捉をつけて説明をしてくれた。

 ぶっちゃけ名前だけで紹介されても、人となりを覚えるのは下手だから……と思ったけどあれだね、レオンハルト王子は顔真っ赤にしてぷるぷると笑いを……ていうか私の噛み噛み言葉に震えてた子だよね?


 そして、シュトレイユ王子は、まだ会ったことのない子って事で覚えておけばいいのか。


 ん?ちょっと待って?魔力測定会って3歳で受けるんだよね?

 あの時会ったのがレオンハルト王子って事は、4歳じゃん?



「おとしゃま、れおんはりゅ…はりゅとおうじが、しゃんしゃ…いじゃないの?」



 ……噛んだ。人名で噛んでしまった。言い直したけど、さらに噛んだ。

 だめだこりゃ。


 セグシュ兄様が盛大に吹き出してる。

 私の左右では「か…可愛い」と爆笑のユージアと「そういう時は『尊い』と使うらしいぞ」とか言いながら震える毛球。

「あらあら……あなたたちも可愛いわよ?」と全体を見渡しながらにこにことしている母様。

 みんな酷い。1人くらいフォローしてあげてっ!



「警護の関係上、だな。成人前の王家の行事や祝い事は基本的に、一般的な年齢の一つ上で行う事になってるいる。魔力測定会は誕生の儀の他では初めて公の場で行われるから、事実上のお披露目に近いからな」


「そっか、セシリアはシュトレイユ王子と同じ歳なんだね、ゼン~?」


「……ふんっ」



 ユージアがにやりと意味ありげな視線をゼンへと送るが、ゼンは座席の上で頭を尻尾に埋めるように丸まってしまった。

 ……もふりたい。まだその私の目標は叶えられていない。今日の夜こそ頑張ろう!



 そうこうしてるうちに、揺れはおさまり、馬車の扉が開く。

 王宮に入って案内された会場は、魔力測定会で見た薔薇の見事な庭園を真上から見下ろせる、空中庭園を建物沿いに抜けた先にあった。


 薔薇の庭園は魔石のライトアップがされているのだけど、こちらの空中庭園はふわふわと光の粒子が舞いながら辺りを淡く照らし出している。


 そんな幻想的な景色を背景に、首元から白いレースで飾り、肩口から深緑のレースになっているAラインのふんわりとしたドレスの母様をエスコートする父様。

 まさしく美男美女を地でいくような2人が楽しそうに進む様は、一枚絵にして飾っておきたいほどに素敵な光景に映る。

 その後ろにセグシュ兄様が続く。父様譲りの燃えるような赤髪が黒地に青の刺繍のスーツ姿に映えている。



(あれで成人した子がごろごろいるんだから、詐欺だよなぁ~)



 私は、セグシュ兄様から少し遅れて、ユージアに抱えられて移動中である。

 歩けるんだけど……歩幅の関係上、それでなくても遅いのに、庭園に見惚れてしまって度々足が止まるものだから、最終的に捕獲されてしまった。


 庭見るの大好きなんだもの、しょうがないじゃないか……。



「あのひかり、きれいね。ほたるみたい」


「ホタル?あれは精霊だよ。魔力が無くても見れるように可視化されてるだけだよ」



 ゼンが興味なさげに説明してくれた。見慣れてるのかしら?

 近づいてよく見てみたい衝動に駆られながらも、お姫様抱っこの状態では何も出来ないんだよね。



(あとで見にいこう。あれだけたくさんいるんだもの、1人くらい精霊のお友達ができれば、さらに嬉しいんだけど)



 遠ざかっていく庭を恨めしげに眺めながら、心に誓う。

 会場に入ると、すでにテーブルにスタッフがご馳走を準備中で……うん、今日は子供が多いのを意識してるんだろうね、立食式のブッフェスタイルだった。


 部屋のサイドにあるテーブルにご馳走が並べられており、中央の大きなテーブルに運んできて食事、という感じになるのかな?


 部屋に着いたので、ユージアにお姫様抱っこから開放してもらい、父様と母様の側へ行こうと、姿を探してきょろきょろしていると、透き通るように白い肌に艶やかな黒髮のガラス細工のように繊細な美青年がこちらへ真っ直ぐ近づいてくるのが見えた。



「花が、いるな。とても芳しく小さな…。これはこれは……」



 何のことを言っているのか、意味がわからず、きょとんとしていると、青年は私の前にひざまづくようにすると、そのまま興味津々といった風で至近距離まで顔を近づかせて覗き込んできた。

 さらりと溢れた黒髮の間から、ひょこりと尖った耳が見えた。

 エルフの男性とは、珍しい。

 私なんかより自身の方がよほど珍しい生き物なんだけど、自覚がないのかしら?



(エルフの男性だ!久々に見たなぁ)



 種族的には男女問わずどちらを見かけたとしても、線の細い美形なので、目の保養なんだけど。

 街で稀に見かけるエルフは基本的には女性がほとんどなんだ。

 エルフは長命な種族ならではの出生の低さの他に、子供の育ちにくさがあるそうで。


 あ、超未熟児で生まれてくるとか、医療技術のレベルの低さが問題とかじゃ無いんだよ?

 出生率としても男女比が同じくらいらしいんだけど、成人まで育つかとなると、男の子は10人に1人くらいまでに減ってしまうんだって。


 前前世(むかし)、友人の1人にその珍しいエルフの男性がいて、そんな話を聞いたことがある。

 もともと閉鎖的なエルフの里だから、そこから出てくるエルフ自体が「変わり者」扱いされるのはそもそもだけど、それが男性だと……里の外に出ようとすると、さらに敷居が高くなるらしい。



 あまりの珍しさにもっとよく見てみたいと、身を乗り出そうとすると、あからさまに警戒の色を出すユージアに、後ろに隠されるように肩を引かれる。



「ん?…何もしないよ。花はとても珍しいものだからね。まだこんなに幼い蕾なのに見出されてしまうだなんて、難儀な。よし、花の香を…少し抑えてやろう。……咲いてしまったら、抑えようがないがな…ふふ」



 皮肉気に笑みを浮かべると、半ば譫言(うわごと)のようにぶつぶつと呟いて、私の頭に触れると、魔力の流れを感じた。

 その穏やかな、しかし棒読みのような話し口調と、艶やかな黒髪に、私のずっと昔の記憶にあった、同僚であり友人であった先述のエルフの男性と姿が重なり、懐かしさで胸がいっぱいになる。


 異世界に行っていた前世以外では、ほぼ生涯独身だった私には珍しく、異性の友人。

 とても優秀で、当時の私が唯一心を許せる友人だった。

 あ、当時の私とは残念ながら友人の域を超えるような事もなく、ロマンス的な事はもちろん無かったけどね、私にとっては大切な友人だった。

 ……親友、と呼んでも良かったのかな?



「何を!」とユージアが抗議の声をあげようとすると、その声を遮るように、先ほどのエルフの青年が話を続ける。



「お前と同じだよ。ユージア。身体から出ている波長を少し…誤魔化しただけだ。あぁ、そうだった、挨拶がまだだったな……それとも、もう聞いてるかな?」


「……るーく、しゃま」



 エルフの男性の眉がピクリと動く。


 思わず、遠い昔の友人の名を呼んでしまった。マズかったかな?

 だって、髪といい瞳の色といい、表情やしゃべり方まで、とても似てるんだもの。

 でも本当に昔のことだから……。

 ただ、エルフは長命な種族だし、もしかしたら血縁者とかだったら、かの友人の消息というか、その後を知れるかもしれないと思って。

 ……流石に時が経ちすぎているから、再会までは望めないだろうけど…彼の歩いた道を、軌跡を知りたいと思った。


 そう思いながら、エルフの男性を見つめ返すとその琥珀色の双眸に驚きの色を湛え、そして目を細めると淡く妖しげな笑みを浮かべる。



「──ほう、これは懐かしいな。今は(・・)ハンスと呼ばれてるんだが…ルークでもいいよ。ハンスイェルクだ。今は(・・)魔術師団内の技術研究所の所長をしてるよ。あぁ、スルーズヴァン辺境伯という爵位も一応持っているよ。よろしく」



 ……えっと……まさかのご本人のようで。




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