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side ユージア お風呂。

 



「異種族婚の場合、呪をかけて、他種族の皮を被せて…育つ。これなら里の外でも狂わずに済む」



 里が襲撃を受けて、人攫い達に捕まって…『ハズレ』と言われて。

 当時の記憶が蘇る。

 他にも子供達がいたはずだった。彼らはどうなったのだろう?……考えたくない。

 自分の状況考えるとどうしても、脳裏によぎってしまう。



「これが、ユージアが…里の襲撃時に…すでに姿が…変わっていたのは…ユージアは聖樹に守られていても、影響を受けてしまうほどに弱くて、里にいながらも呪をかけねば生きていけなかった…からだ」



 ……エルフは、人攫いに捕まるとその容姿から、ほぼハズレなく全てが良質な商品となる。

 だから、そのエルフに紛れ込んでいたと思われた、人の姿をした俺を見て『ハズレ』だと言ったのだろう。

 いろいろ思い出してしまって顔色が悪くなっていたのだろうか?

 気遣うように肩をぽんとアルフレド宰相に叩かれて、顔を覗き込まれる。



「──さて、そろそろ時間だ、ユージア君には、王宮内にゲストルームが準備されているから、そちらで晩餐会の準備をしておいで。私達は離宮に一度戻るから、また後でね」


「セシリアも一緒に参加するからね。またよろしくね」



 ふわりと笑みを浮かべて、アルフレド宰相とクロウディア様が退室していく。

 続いて退室しようとすると、気づいたクロウディア様に部屋へ押し戻された。



「もう少しだけでいいから、お話、聞いてらっしゃい」



 あ、いや、もう充分です。むしろ2人きりとかいろいろ危険すぎて嫌です。

 ちょっと泣きそうになりながら、大人しくソファーに戻る。



「ユージア……里にいた者達は、すぐに救出…されたんだよ……アデルも無事だった。お前の…妹も」


「妹!?いたの?」



 そもそも妹の存在を知らない。

 記憶が混乱しているのだろうか?忘れてしまったんだろうか?



「あの時、アデルは……妊娠中だった。避難中にユージアと…はぐれたそうだ。お前…以外は、里の者は全員無事に戻ってきた。お前だけ……見つけられなかった」


「生まれたのが、妹なの?」


「そうだ。その後、弟も生まれたが、アデルは…ずっとユージアの身を案じていたよ」



 母さん(アデル)は人間だった。教会と『隷属の首輪』に囚われていた期間の長さを考えると、もう……。



「ずっとお前の身を案じ、無事を信じ、日々の祈りに乗せてその呪に魔力を送り続けていたんだ」



 さっき、クロウディア様の所で涙は流し切ったはずなのに、またじわりと目が熱を持ち始め、思わず俯いてしまった。

 すると、こつんと、おでこに指と魔力を含んだ熱を感じた。



「一時的にではあるが、元に、本来の姿に……戻る魔法を、教える、が……呪も魔法も…その姿、大切にするがいい」



 熱に驚き、顔を上げると、

 寂寞の色を湛えた琥珀色の瞳が、こちらを真っ直ぐに見つめていた。


 本当は、聞きたい事がいっぱいあったんだけどね。

 母さんの事とか、妹と弟の事とか……言葉が出なくて、頭を整理していたら時間が来てしまったのか、扉がノックされる。



「ハンスイェルク様、失礼致します。ユージア様をお迎えにあがりました。ご案内いたしますのでご準備をお願い致します」


「……じゃあ、また後で」


「…また」



 父はエルフだ。

 所在さえわかっていれば、まぁ急がなくても、また機会があれば色々聞けると思うし。

 今は、自分の意思(きもち)を優先させてもらおう。


 今は……セシリアのそばにいたい。

 彼女は、彼女の周りは温かいから。


 ──僕もその中の1人でいたい。







 ******







「ユージア様、こちらになります」



 声とともに扉が開かれ、部屋に案内される。

 とても豪華な……これ、1人で使う部屋なの?やたら大きなベッドがあったり、他にも従者用の部屋だろうか?繋がりにいくつかの部屋も用意されていた。


 最初に案内されたのは寝室、の奥にある浴場だった。

 無駄に広い脱衣所には、上等な着替えが準備されており、晩餐用のスーツのようだった。


 湯浴みが準備されていて……すっと、嫌な予感がよぎる。



「では、失礼致します」



 やっぱり!?

 背後両サイドから女性の声が聞こえて、服を脱がそうと手が伸ばされる。



「いや、補助はいらない……自分でできるよ?!」


「申し訳ございませんが、ハンスイェルク様からの御指示ですので」



 あ…あのクソ親父……っ!

 どんな指示を出したんだ……。

 そう思っている間にも、抵抗虚しくローブもシャツも脱がされて、ベルトへと手が伸びてきていた。


 ベルトだけは死守!と思った瞬間に、ものすごい力で両腕を真上に引き上げられ、固定される。

 そこには何も存在していないのに、手枷でもつけられたかの様に、空中に腕が固定されて動かない。



『あら、幼生なのに一丁前に恥ずかしがるのねぇ』



 白いドレスの風の乙女(シルヴェストル)が浴場から漏れ出る湯気を集める様にして姿を現した。

 メイドたちはその姿を確認すると、軽く一礼し、作業に戻る。

 そう……両腕を拘束されてるのを良いことに、あっさりと、ベルトを外され、脱がされてしまった。下穿きまで。



「だっ!大丈夫だからっ!1人で入れるよっ!」


「時間もおしてますので……むしろ諦めてください」



 にこやかに満面の笑みを浮かべた2人のメイドに切り返される。

 こういうことは諦めたくないですっ!いや、諦めちゃいけないと思う。


 裸にされた途端に、腕の拘束が外れた感触があり、ダッシュで湯船に飛び込もうとすると、またもや風の乙女(シルヴェストル)に拘束をされて……結局、全身をメイド2名に丸洗いされている。


 高貴な人のお風呂ってこれが当たり前なの!?

 貴族って、1人でお風呂すら入れないんだろうか?

 これ、毎日とか、どんな苦行ですかっ!



『そんなに恥ずかしいの?耳まで赤くなってる!幼生のくせに!やだ可愛い!』


風の乙女(シルヴェストル)…君は何しにきたの?まさか君も父さんの指示とか?」


『そうねぇ…不自由しないように手伝ってやれ、とは言われたわね』



 公開処刑…もとい、入浴風景を何かに座るような姿勢で、ふわりと宙にとどまって楽しげにこちらを見つめている。

 ……って視線が合わないんですが、なにを、どこを、見てるんですかね。



「……で、堂々と覗きですか」


『やだー!見るならもっと大人の方がいいわぁ。そうね、ハンスイェルク様とアルフレド様は内勤なのに意外と……』


「いや、いい、いいから。そんな意外性は要らないから……」



 思わず遠い目になる。

 オッサンのハダカ事情を聞かされても、まったくもって嬉しくない。


 風の乙女(シルヴェストル)は形の良い頰をぷくーっと膨らませて抗議!というような表情になる。



『聞くならちゃんと最後まで聞きなさいよ~!……そういえばさっき、すごく珍しくて綺麗な獣も見たわね~ユージアみたいに逃げ回ってたから、少しお手伝いしてきちゃった』



 えへへっと笑い、褒めて褒めて!という顔でこちらを見ている。

 ……誰が褒めるかっ!

 そして、風の乙女(シルヴェストル)にお手伝いされちゃった獣って……うん、聞かなかったことにしとこう~



『ま、元気に帰ってこれたようで何よりだわ!…お風呂恥ずかしくて困ってるなら、またお手伝いしてあげるから、いつでも呼んでね♡』


「……絶対に呼ばないっ」



 そう、言うだけ言うと、風の乙女(シルヴェストル)は、にこりと笑って、周囲の湯気を派手に吹き飛ばして姿を消した。



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