魔法…今も昔も難しい。
「王子たちもセシーも、潜在的な魔力は高いみたいだからな……普通は、魔力の放出から習うんだが。王族の子は基本的に魔力の操作から習うんだ。今の会話からも、理由は……わかるだろう?」
父様を見つめながら、ゆっくりと頷く王子たち。
ちなみに『魔力の放出』というのは、身体を巡る魔力を、実際の魔法として使うこと……つまり、レオンハルト王子の場合で言えば、魔力を炎として具現化させること。
さらに今回の件で言えば『小さな炎で良かったのに、うっかりガスバーナーの威力の爆炎を出しちゃった!』ってところかな。
そして、この火力を調整するのが、文字通り『魔力の操作』ね。
(つまり……シシリーも魔力操作が苦手だったのに、セシリアはそれに輪をかけて、苦手な状態になってるってことなのよねぇ)
……まぁそうか。
父様が言う通りに『潜在的に魔力値が高い』のであれば、つまりそれって、キッチンのガス台に例えたら、超火力まで使えるコンロってことになる。
ただし、操作ができないってことは……火力調整のつまみが壊れた状態のコンロだから、点火したら…って、怖すぎだからね?!
それでも、どんなに頑張っても、蝋燭の炎しか出せないガス台よりは、ずっと高性能だもんね。
実用という意味では、危なすぎて使えたもんじゃないけど……。
「だが、魔力操作の訓練が終われば、改めて放出も練習する。そのどちらも上手く使いこなせれば、さらに高威力の魔法に挑戦できるようになるからな」
高威力の魔法かぁ……。
(そうね、魔法が使えるようになると、まず目指すのはそこかなぁ)
最初は、火ならなんでもいい。出せればいい。
次は、高火力が出せるようになればいい。
最終的には、繊細な調整の効いた火……つまり、花火とか、火で生物を形取るとか。
美しいと思えるものを作り出せたらいい。
(美しいものを作り出せるという事は、残酷なものだって、いくらでも作れるという事)
その辺の倫理も同時に、みっちりと叩き込まれた記憶がある。
「もちろん、エルにカイ、ユージアもだ」
悪戯っぽい笑みを浮かべた父様が、隣に座っていたユージアの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ゼンは?」と、聞きそうになって、思いとどまった。
ゼンナーシュタットだけ、呼ばれなかったのが不思議ではあったのだけど。
(よくよく考えたら、人化するどころか、人の姿をそっくり真似できちゃう時点で、操作が苦手って事は無いよね)
人化と、人の姿を借りるのはで、似ているけど全く難易度が違うから。
例えばだけど、自分の手にネイルアートをしてみる・模様を書き込んでみるのが、人化。
姿を借りる…つまり、変身は、手にぴったりの手袋を作るという事。
手に対してのカバー力が違うよねぇ。
模様を書くだけじゃなく、すっぽりと全てを覆いこまなきゃいけないから。
しかも、相手をそっくりそのまま真似ないといけないからね。
間違えないように作るには、集中力と、観察力が必要になる。
******
「さて、そろそろ時間だが…話、聞いていたか?」
ルークの声に、全員揃って首を横に振った。
「だよなぁ……エルの料理、美味しかったもんなぁ」
みんな、食べるのに必死だったからなぁ。と、父様が眉間を抑えつつ、苦笑する。
ルークは無表情のまま……うん、これはムッとしている、と思う。
とりあえず、相手に良い印象を与えない表情になりそうな時は、無表情になる癖があったもんね。
「……あの食材、鮮度を保てての入手が可能なら、だが。……コック長に頼めば公爵家の食卓にも出せると思う。後で相談してみよう」
「「やったー!!」」
エルネストとユージアが喜んでるのはともかく…カイルザークも喜んでる!と、思ったら、そうか。
魚料理だったもんねぇ。それと野菜。
肉じゃないから、嬉しかったのかな?
「良いなぁ…僕も…」
エルネストたちの声に、シュトレイユ王子が寂しそうにぽつりと呟く。
すると、ルークが無表情のまま、シュトレイユ王子に視線を向ける。
「レイ。公爵家が出来て、王家にできないことはほとんど無い」
「ほんとっ?!」
「ああ、本当だ」
ルークの言葉に、ぱっと、大輪の笑顔の花が咲いた。
シュトレイユ王子の、嬉しそうにきらきらと輝く瞳が、可愛らしい。
そこまで、嬉しかったのかな?
「僕も頼んでみるねっ!!エル、OKが出たら、お料理を教えに来てね!」
「えぇっ……。あれは…大衆料理だから…」
「美味しければ、大衆料理だって、食卓にのぼるぞ?」
大衆料理だから、貴族の食卓には…。そう言おうとしたエルネストに、レオンハルト王子が呟く。
「そう…なんだ…?」
「王族をなんだと思ってるんだよ。普段からご馳走ばかり食べてるわけじゃないんだぞ?」
「いや……ご馳走だけかと…」
「それは無い……」
「「えっそうなの?!」」
「お前ら……」
ごめんなさい。私も、毎日ご馳走かと思ってたよ……。
ある意味、衝撃の事実で、みんなしてびっくりしていると、レオンハルト王子に、思いっきり深いため息をつかれてしまった。
「まぁ……確かに食材は良いもの使うが、郷土料理もでるし、軽食だって…出るぞ?」
「……知らなかった」
「騎士団の遠征はもちろんだが、災害や、大きな事件があったときにも、隊に加わって活動するのに、王族だけ違う食事にするわけにはいかないからな」
なるほど…と、思わず頷く。
まぁ、毎日ご馳走じゃ、メタボな王族になっちゃうか。
それにしても、小さいのに理由をそこまでしっかりと理解してることにもびっくりだね。
レオンハルト王子ってば、まだ4歳だよ?えらすぎる。
不意に、ごほん!とルークから、あからさまにわざとらしい咳払いが聞こえて、子供たちが揃って、びくりとする。
「……もう一度だけ、説明する。しっかり聞くんだ」
「「「はいっ!」」」
さぁ……今度こそ、裁判を見届けるぞ!