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生まれも育ちも。

 



「ねぇ…カイはどんな風景を見せてもらったの?」


「ん〜ライトは本当に生まれたばっかりだったみたいで、契約したその洞窟の風景だけだったよ」



 カイルザークの精霊、ライトは本当に特殊。

 シシリー(わたし)の周囲の精霊たちは、どうにも変わった子達ばかりだったので、何が普通なのか…わからなくなりかけるのだけど、ライト(このこ)は契約の時がとっても特殊だった。


 可愛らしかった妖精から、まるで蝶が羽化するかのように、目の前で精霊化が進み…気づけば、カイルザークと契約が完了していた。


 精霊化の瞬間なんて、貴重すぎて。

 一緒に行動していた研究員たちが初めて見る、夢とも現ともつかない光景に呆然としてしまい、はっと我に返った瞬間『記録に残したかった!』と、膝から崩れ落ちるくらいの衝撃で。

 ──とても素敵だった。



「セシリアは?いっぱい見えた?あれ?でもセシリアは一瞬だったよね?」



 そうだった、セシリアとしてルナと再会した時は、シュトレイユ王子もその場にいたもんね。

 再会早々、やらかしてくれたわけですが。



「あ〜…夜空が見えたよ」


「それだけ?……2人もいるのに?」


「うん、それだけ。双子だからってわけじゃないんだろうけど、この子達、今こそ別行動を普通にしてるけど、当時はお互いにべったりくっついて、絶対に離れなかったみたいだから。2人で同じ風景を見てたんだろうね」


「そっかぁ…楽しみ!」



 頬を興奮で上気させて、うっとりと笑んでいる。

 本当に楽しみなんだなぁ……。



(王城に、お友達の精霊や妖精がたくさんいるみたいだし、案外あっさりと契約できそうな気はするよ)



 その時の風景が、素敵なものでありますように。



 ……まぁ、実際は、楽しい風景だけじゃないんだけどね。


 私が実際に、その『お気に入り』の景色を見せてもらったのは、シシリーの時だ。

 セシリアとしてルナと再会した時は、再契約という形だったからか、契約を上書きしただけみたいだったからか、そういう光景は見ていない。


 ちなみに彼らの、お気に入りの景色たちは……。


 ──生贄として捧げられた人々が、その命の絶える瞬間に見上げていた、月の綺麗な夜空、だ。


 それもいろんな境遇での、何人もの最期。


 それがどんな風に印象的で、どうして2人の力の源になっているのか、最初は理解できなかった。

 生まれたばかりで、妖精的な気質が強かったから、無邪気という興味からの残酷さからだったのか?

 もしくは、死にゆく彼らを憐れんだのか。



 そして、彼らの生まれた場所は、龍の寝床だった。


 契約直後に『細工に使えそうな龍の素材、いっぱい落ちてたし、今度連れて行ってあげるね!』と満面の笑みで誘われた。


 素材は欲しいけど…もちろん、丁重にお断りした!



(素材集めをする前に、シシリー(わたし)が龍たちの素材にされてしまうわ……)



 そもそも寝床ってことは、不法侵入ですよ?!

 自分の寝室どころか、私室だって覗かれたくないと思ってるのに。

 他人の…まぁ、人じゃないけど。龍だって見られて嬉しいわけがない。


 龍だよ?

 この国にも龍、いるでしょう?

 意思の疎通ができるレベルの、生き物な訳ですよ。


 まぁ龍にも色々いて、意思の疎通が全くできない上に、ひたすら攻撃的な種類とかもいるんだけどね。

 龍とは名ばかりの単なる蛇みたいなやつとか、本当に色々……。



(そんな中での、ルナとフレアに見せてもらった、生まれた場所にいた龍。どう見てもメアリローサ国の守護龍のような、とても立派な龍だったのよ)



 ……大慌てで『精霊(ルナとフレア)と契約の際に、あなたのお部屋が見えてしまったかもしれません。ごめんなさい』と(したた)めたお手紙を、ルナとフレアに持たせた。



(そういえば、契約してから初めて、2人にお願いしたお仕事が…これだったね)



 頼んでしまったものの、無事に帰って来れるかどうかと、2人の事が心配でしょうがなくて。

 まぁ帰ってきたら、帰ってきたでその出立(いでた)ちに脱力して。



(焦ってたから、気づかなかったんだけどさ。ルナとフレアが生まれて育って、精霊となるまで、そこにいたわけだからさ……龍とは顔見知りなんだよね)



 満面の笑みで、両手にたくさんの荷物を抱えて、2人は帰ってきた。


 シシリー(わたし)のお手紙を携えて、意気揚々と龍の住処へと帰宅(・・)して、龍に『ごめんなさい』をするどころか『人間と契約した!』と……シシリー《わたし》の事を、たっぷりと自慢して帰ってくるというね。

 恐ろしく心臓によろしくないことを『全力で』やらかしてくれていた。


 そして、たくさんの荷物…お土産を持って帰ってきた。


 龍は『契約のお祝い』と称して、たくさんの稀少な素材を、ルナたちに持たせてくれたのだそうだ。



(部屋を覗いちゃった上に、お祝いまで貰ってしまって、本当に申し訳ない……)



 ……その素材を持って、当時の担任だったディオメド導師(せんせい)に報告と相談に行ったら、さらに驚かれて…また急いでお礼の手紙を書く事となった。


 その『お祝い』としていただいた素材の全てが、魔道具(マジックアイテム)作成のための、最高級の素材だったからだ。



『こんなものが高額取引されてるなんて、変なの〜』



 なんて、当時のルナとフレアは、けらけらと笑っていたけど。

 まぁ私も、素材を見た途端に、すっと顔色が失せて、あわあわと始めるディオメド導師(せんせい)を見るまでは、同じような感覚ではあったのだけどね。



(いつも飄々(ひょうひょう)として、つかみどころがなくて、そして、とても穏やかな導師(せんせい)が取り乱す様子に、何か悪い事でもしてしまったのかと、血の気が引いていったのを覚えてる)



 ちなみにね、とても分厚くて丈夫な革の袋の中に、無造作に放り込まれていた素材たち。

 本来なら、1個1個、布張りの木箱に入れて保管されているような、本当に希少な素材だったの。



(当時のシシリー(わたし)は初等科だったもんなぁ。前世(にほん)でいう年長さんから1年生くらいだからね。価値なんて……わからないよなぁ)



 わかってたら、ごめんなさいの手紙も、お礼の手紙も、ちゃんと導師(せんせい)に添削をお願いしてから出してたのに。



(今思うに、とても優しい龍だったのだと思う。幼稚園児の文字なんて、正直、みみずがのたくったような文字だから。ほとんど読めない。そんなお手紙に、ちゃんとお返事をくれて、お祝いまでいただいてしまって)

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