せっかくだから、楽しく美味しく。
「しかし、中々に変わった趣向だね。こういう賑やかなところも、気になるお年頃なのかな…」
「ごめんなさい…」
「野営が…どんなものか知りたくて。でも、僕が思っていたものと、全く違うみたいで…」
「あぁ……セシリアも一度だけ野営、してたもんなぁ。レイも気になったのか」
私が謝っている背後から、シュトレイユ王子の声。
「はい。エルもカイも……ユージアも野営をしたことがあるって。僕だけが知らなくて……」
「それでこうなったのか!まぁこれは、野営というよりは屋外での炊き出しのようだが」
そう言うと、食材が置かれているテーブルに向かって歩き出す。
そのテーブルには、野菜が切り分けられたものや、お肉、魚等が串に刺してあるもの、そして、お肉は塊のまま置かれているものもあって『これは美味しそうだな…』と、覗き込みつつ呟く声が聞こえていた。
「気にしなくて良いよ。怒りにきたわけじゃないんだ。それより、私たちもまだ、ごはんを食べていないんだ。一緒に食べていいかい?」
父様の言葉に、シュトレイユ王子はほっとしたのか、途端に瞳をきらきらと輝かせて、力強く笑うと、手に持っていたお皿を、差し出していた。
「はいどうぞ!これ!僕が焼きました!」
「王子の初料理!…だよなぁ。夫妻にも声をかければよかった」
父様は一瞬目を見開くと、シュトレイユ王子から差し出されたお皿を受け取り、小さく息を吐くと、残念そうに呟いていた。
我が子の『初めて』これは、親にとって一大イベントだからね!
どんな些細な事でも良いの。
失敗したって良いの。
初めての事に、一生懸命取り組んでいるその姿に感動しちゃう。
(とにかく、初めてのことにワクワクしながら頑張っている我が子を、ハラハラしながら見守る事!……心臓に良くないんだけどさ、でも、幸せ)
これが実は、とても楽しい。成長を実感できて、とても嬉しい。
まぁ、あまりに手際が悪すぎると、手を出し、口を出し…と思わずしてしまいそうになるのだけれど。
これはこれで、親への試練なのかもしれない…ね。
「父さまと母さまは…」
「レイ、大丈夫だ。お二人ともご無事だよ。ただ、こんなことが続いてしまって、どうしても忙しい。……寂しいだろうが、もう少し頑張れるかい?」
「はい!みんながいるから、大丈夫です」
……みんながいるから大丈夫!だなんて、面と向かって言われてしまうと、ちょっと恥ずかしいね。
ただ実際、私もみんながいてくれて心強いし、楽しい。
なんのためにここに避難しているのかを、忘れてしまいそうなほどに。
「父さん、レオンに後遺症等はなさそうです。寝てるのは…魔力切れですね」
「よかった…!」
レオンハルト王子はどうやら熟睡だったようで、診察しても反射的な反応はあったものの、声をかけても寝ぼけ程度に覚醒したのち、また眠ってしまったそうだ。
そう説明しながら、父様の隣の丸太に腰かけたので、カイルザークが焼いてくれた串焼き…ほとんど野菜のだけど。を、お皿に盛って渡す。
「兄さま、どうぞ」
「ありがとう!美味しそうだね」
……受け取った時、一瞬引き攣った表情だったのは気にしない。
ほとんど野菜の串焼きだったからかなぁ?
お肉欲しいよね?
これから焼くから待っててくださいよ!
「みんなで準備しました」
「それはすごいね?!これはエルが焼いたのか?」
「はいっ!」
と思ったら、颯爽とお肉のみ(!)を盛ってあるお皿が、エルネストによってヴィンセント兄様の前へ運ばれていった。
ああ、ここに肉魔人がいたんだった。
(そういえばコンロに火を起こしたあと、すごく嬉しそうに、ずっとお肉焼いてたもんね)
同じ獣人なのに、好みが正反対すぎて、様子に笑ってしまう。
(お肉の塊がカウンターに置かれていて、その都度ルナが切り分けてくれていたのだけど、なんかもう、その塊にそのままかぶりつきそうな勢いだったんだよ)
確かに、柔らかくて美味しいお肉だったんだけどね。
自分で食べたいものを串に刺したり、元から刺してあるものを取って焼いたりしながら、食事を楽しみつつ、大興奮でマシンガントークになってしまっている、シュトレイユ王子の話に相槌を打ちつつ……避難中だって事をすっかり忘れたかのように、楽しく食事が進んでいった。
……父様とヴィンセント兄さまから、酒が欲しいとか話してるのが聞こえたけど、聞かなかったことにしとくよ。
って、カイルザークまで『分かります』って顔して頷いてるんじゃないわよっ!
ああ、でも呑むなら日本酒かなぁ?
ワインも良いんだよね。
もちろん、主役はバーベキューだから、酔いが回らない程度になるように、軽いのが良いんだけど、なんなら炭酸飲料や葡萄ジュースで割ってもいい。
意外なところで、甘めの紅茶で割っても美味しい。
うん……私も呑みたくなっちゃうじゃないか!
まぁ、実際は幼児だからさ、味覚がきっと合わない。
不味く感じちゃうんだろうなぁ。
もったいないなぁ。
(そうだ、今度アルコール無しのワインゼリー作ってもらおうっと!)
大人向けに作る場合、アルコールを飛ばしてあっても、お酒っぽい味に仕上げるから、子供味覚で苦手になってたら、あんまり美味しくないゼリーだったりする。
子供向けなら、葡萄ジュースじゃんじゃん入れちゃうから、葡萄ゼリーと変わらない感じするんだけどね。
「でね〜。セシリアがレオン兄さまを泣かしちゃったんだ!」
「…はっ?!」
いきなり衝撃の言葉が、そしてギョッとした視線が二つ……!
私に注目している。
「ななななななな…なにもしてましぇん!」
ああっ…。どうしてこういうタイミングで噛むのさ…。
あ、でも、あの素敵な髪は堪能したけども。
「セシー…。その態度だと、余計に怪しく見えちゃうから、落ち着こうね?」
「ひゃい…」
焦りすぎて、危うく食べてた串を落とすところだったわ……
そんな反応が面白かったのか、コンロから、肉と野菜の量が均等にさしてある串をお皿に山盛りにして、テーブルに運びながら、ユージアがくすくすと笑う。
「あはははっ。セシリアが『頑張ったね』って褒めたら、緊張の糸が切れてしまったみたいで、泣いてしまったんです。もう、号泣。……そのまま、泣き疲れて寝てしまったようで」
「……なるほどね。喧嘩でもしたのかと思ったよ。みんなも遊ぶのはいいけど、大きな怪我をするような事だけはしないようにね?」
ため息をつきながら、疲れたように笑っている父様。
私、喧嘩なんてしませんよ?!
今まで、そんな喧嘩するような相手すらいなかったんだから…そもそも喧嘩の仕方を知らないっ!
あー……なんか悲しくなってきたから、いいや。
うん、でもね、喧嘩はしませんよ。
絶対に。