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頑張った結果だから。

 


 少し長めの明るい緑の髪が、さらさらと指の間を流れる。

 ……親子揃って、髪…綺麗だよなぁ。とか、慰めるついでに、そのさらさらの艶髪の感触を堪能してたとか、そういうところはひとまず内緒で。



「ユージアも、エルと一緒だねぇ。頑張ったから、今、ここにいるんだよ。ここを守るためにも、同じ被害を増やさないためにも…もう一踏ん張り、だよ」



 私の声に、ぴくりと頭が動くと、少しだけ顔を上げたユージアと目が合う。

 エメラルドの艶髪の隙間から見える金色の相貌。

 やはり少し泣いてしまっていたのか、目の縁が赤くなっている。



「いっぱい頑張ったもんね。大丈夫、えらかったもんね。みんなわかってるから、大丈夫」



 にこりと笑って頭を撫でていると、背中を押される衝撃があって、あれ?と思ってるうちに、ぎゅっと抱きつかれてしまった。

 私からだと、ユージアの頭を抱え込むような格好になっているのだけど。

 ……違うな、抱きつかれたんじゃない、抱え込まれてるっ!



「わかった…でも、もうちょっと。そのまま……そうしてて…?」



 何とか抜け出そうと身体を捻ってみるけど、ぎゅーっとホールドされていて、逃げられない…この体格差。

 まぁ、ユージアが落ち着くなら良いけどね。

 頭も、撫で放題できるし。



「……ユージア。絵面的にそれは、どうかと思う。せめて、縮め」



 開き直って、頭を撫でていると、ゼンナーシュタットの物凄く不機嫌な声が飛んできた。

 そんなに絵面が悪かったかな?



「ヤダ。着替え、持ってきてないもん」


「じゃあ、終了だ。……そろそろ昼休憩終了だ。再開するから離れろ」



 ふん!と息を吐く音が聞こえる。

 絵面云々はともかく、気分を害するような状況になっているのなら、ひとまず離れなければ!と思って、わたわたしていると、余計に強くぎゅっと抱きつかれてしまった。



「いや……このままで…あっ!……。セシリア、ごめん!…っ!あはっ」


「……」



 急にユージアが笑い出すと、がっちりホールドから解放される。

 ……思いっきり爆笑されて、だけどねっ!?



「どうした…?」


「いやっ…ごめん。セシリア…あははは」



 思いっきり怪訝な表情で、こちらを見つめているゼンナーシュタットと、それに釣られて他のみんなもこちらを気にし始める。いや、気にしなくて良いから。


 ……しゃべったら許さん!


 無言でユージアを見つめ返すけど、ツボってしまったようで、ひたすら笑い続けている。

 さっきの涙はなんだったのよ……。私の優しさを返せっ!



「セシリア、どうしたの?」



 何も言わず首を横に小さく振って、席に戻ると食事の続きを始める。

 ゼンナーシュタットは、とにかく心配なようでこっちを見てたけど、言いません。

 教えません。



「いやぁ……ぎゅってしたら、セシリアのお腹が鳴った!」



 おい…こらっ…!


「ぶふっ!」とか「げほっ」と吹き出したり、むせこんだりする音が聞こえた気がするけど、気にしない。

 もう、気にしない。


 ユージアも、気にしてあげないっ!!

 許さんっ!







 ******







 かららん、かららん、と金属製のベルが鳴り響く。


 横に広目の楕円形で、一見するとクマ避けのベル、もしくはカウベル……えっと牛の首についてる大きいベルね。

 形状的にも見た目的にも、そっくりで思わず笑ってしまって、みんなに不思議な顔をされてしまったのだけど。


 クマ避けのベルは、前世(にほん)では愛用の品でした。

 本当に懐かしい。

 金属製のはずなのに少し低めの、木琴のような音がするんだ。

 そしてよく、響く。


 独身時代に住んでいた場所が、季節になると野生動物の宝庫になるので、実は熊とも会った事がある。

 むしろ目が合った。



(……それで熊がびっくりしてしまっていたら、きっと私の命はなかったんじゃないかな?と、今も思ってる)



 あの時は、お隣の家までが車で10分とかいう、ど田舎なのを良いことに、熊避けのベルをカラカラ鳴らしながら、片手に小さなラジカセをイヤホン外して、ジャンジャン音を流しながら、当時のお気に入りの曲を熱唱しながら『ぼりぼり』と呼ばれるキノコを収穫してる最中だった。


 この時期は、その他にハタケシメジやヤナギタケが採れたりしたんだけど…この日は『ぼりぼり』が欲しかった。


 あ、そうそう、稀にね、なめこも取れたんだよ。

 売ってるなめことは、ずいぶん見た目も食感も違うのだけど…しかも倍以上大きいし。


 (ただ、なめこがたくさん取れる時期になると、そろそろ雪の時期に入るから……寒くて、森の奥まで行きたいとは思わなかったなぁ)



 生えている場所によって色や形状がバリエーション豊かすぎて、見分けるのが面倒だし、買った方が安いしで。

 しかも、ヌルヌルだからね……採るときも必要以上に表面を汚さないようにと、しまう場所とか大変なんですよ。



(……その分、意を決して…収穫してきた時は、バター焼きにすると絶品なんだけどね。歯応えも食感も、全くの別物に感じる)



 ベルをじーっと見つめていたら、またお腹が空いてしまった。

 こっちでもキノコ、探してみようかな。



 裁判再開のベルを見てニヤニヤしちゃったけど、再開です。


 さっきまでの簡単なあらすじ説明みたいなものが読み上げられたあと、いよいよ『籠』についての説明が始まった。



「ああ、ここにいたのか。レイ、ハンス(・・・)先生が呼んでる。戻ろう」



 説明に耳を傾けていると、背後にある出入り口から、数人の護衛と見られる大人を引き連れた明るい金髪の男の子が入ってきた。

 レオンハルト王子だ。



「レオン兄様っ!あれ…?ハンス…先生なの?……ねぇ、どこに戻るの?」


「行くぞ!」



 誰とも目すら合わさずに、真っ直ぐに進んでくる。

 シュトレイユ王子ではなく、レイの姿をしたゼンナーシュタットへと向かって。




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