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加害者席は別室だそうです。

 


 エルネストが厳しい顔つきで1箇所を凝視している。


 確か、被告人席だったと思う。

 今、座っているのは…教会関係者、ということになる。


 でも、実際、そこにいるのはオレンジ色を基調とした官服を着た、この裁判所のスタッフのような人が数人、座っているだけだった。


 今日の内容的には、教会が加害者、子供たちが被害者という感じで大人たちの話が進んでいるので……と思ったのだけど、教会のローブ姿は誰一人いなかった。



「あれ……司教とか聖女の人は、いにゃいの…いないのねっ!」


「ああ、そうだね。今日はいない。代わりに代理人がいるだろう?ふふっ」



 噛んだ…っ!

 でも、もう気にしないもんねっ!

 呪いのせいだもん!しょうがないんだもん!……多分。


 ……なんかもうね、恥ずかしい!とか反応するのも、面倒になってきちゃったのよ。

 呪いだろうが成長が遅かったのだろうが、いずれは消えるんだから、もう、気にしないことにした。

 スルーよ!スルーするのよっ!!


 ぐぬぬ…と思ってる間に、ユージアが口を開く。



「ゼン、あの代理人ってどういう意味があるの?」


「ん〜、双方が揉めない工夫。かな?」



 ゼンナーシュタットの反応に、さっきの仕返し!とばかりに、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるユージア。



もちろん(・・・・)くわしく教えてくれるんだよね?」


「あぁ…そうだな。今回の件に関しては、被害者も多いが、加害者も…とても多いんだ。そんな状況で、お互いに顔合わせなんてしてしまったら……」


「暴動みたいな意味で、大惨事?」


「そうだな、それと今回は被害者席に『王族の子ども』がいるから、特に。だ」


「顔バレ…か」



『お偉いさんの特別待遇ってやつ〜?』と嫌そうに眉をひそめるユージアに、

『おまえだって、そのお偉いさんの仲間だろ』と…大袈裟なまでにため息をついて、呆れ顔で言い返すゼンナーシュタット。


 どっちもどっちな気がするけどね。

 ただ、どんな立場であれ、被害を受けた子供たちへの匿名性は、守られたほうがいいと思う。

 逆恨みされた場合、逃げようが無いからね……。



「ま、簡単に言えばそんなところではあるけど。まぁ、捕まった原因がこんな子どもだってわかったら、王族云々じゃなくたって報復されそうな気がするし、そもそもの調書すら、相手が大人ではないと分かった時点で、誤魔化されかねないからね。……同じ場所にいては、いけない事になってる」


「でもそれじゃあ不公平になったりしないの?」


「ならない。この場に完全にいないってわけじゃないから。この建物内の別室で待機してるからさ。相手が反論すれば、それをそのまま、あの代理人が喋るよ」


「ああ、そこの音が聞こえる穴みたいなやつがあるのか」


「そうそう……流石にお茶やお菓子は、出ないけどな」



『これこそ御貴族様の特権だぞ?』と笑いながら、焼き菓子を口に運んでいくゼンナーシュタット。


 まぁ貴族やお偉いさんの特権で、裁判の内容自体が捻じ曲げられるような国だったら、正直、先は長く無いと思う。

 腐敗しまくってるっていう話しだものね?


 ユージアは、少しほっとしたような、不満があるような…なんとも言えない表情になると、紅茶のポットを用意し始める。



「はいはい…じゃあ、御貴族様なゼン様、お紅茶のおかわりはいかがですか?」


「……砂糖多めで」


「…やっぱ、子供味覚なんだね。可愛いっ!」


「甘いほうが旨いじゃないかっ!あんなに(にが)っぽろいものを、好んで飲む意味が、僕にはわからない!」



 ユージアは一瞬、きょとんとすると『そんなもんかなぁ』と笑いつつ、ゼンナーシュタットのカップを下げて、新しく準備をしていく。

 慣れた手つきで、カートからカップとソーサーを取り出すと、それぞれを人数分、きれいに並べていく。


 ……使用人の養成所を、短期間で修了したユージア。

 なんだかんだ言っても、習うべきところは、冗談でもなくしっかりとマスターしてきてるんだなぁ……。

 裁判の内容を聞きつつだけど、あまりの手際の良さに目を奪われてしまった。



「じゃ、2匙ね…「3か4匙だ」…へっ?!」


「ゼン…?そこまでとか…それ、紅茶じゃなくて、単なる砂糖水だから!」


「そうかな?でも、ユージアの淹れる紅茶はうまいと思う」


「……それは腕じゃなくて、ここの紅茶が高級品なだけだよ!ていうか、ゼンの場合は…ほぼ砂糖の味じゃん、それっ!」



 子供味覚…じゃあきっと、レモンを出してあげたら、もっといっぱい飲んでくれるんじゃないかな?とか、こっそり思ったり。


 確かに、大人になっていくうちに、紅茶の苦味が美味しくなるようになっちゃうのよねぇ。

 お砂糖たっぷりが大好きだったのに、気付けば甘いのは苦手になってて。

 あれって、大人になった証拠なのかしら?







 ******







「僕は…今、どういう状態なんだ?本当に…僕は、公爵家(ここ)に居て…いいのか?」


「良いの」



 今までずっと、必死に階下の声に耳をすましていたエルネストが、ふらりと戻ってきてソファーに深く座り込むと、そのまま(うずく)まってしまった。


 エルネストのあまりの顔色の悪さに、私は反射的に『良いの』って答えてしまった。

 裁判官の読み上げるエルネストへの仕打ちが…状況の説明が、あまりにもひどいものだったから。



「僕は、死んだことになっているのなら…」



 そう、教会で難病発症とされて、王都へ搬送中に病死という報告の後、裏帳簿上のエルネストの扱いは『物』へと変わった。

『聖女への献上品』という名目で。


 街の教会の書類上では『王都の教会へ搬送・引き渡し』をしてしまっているので、それ以上の書類への記入は、管轄外だから、しない。


 そして『王都の教会』はエルネストを引き受けるはずだったが『死亡しているので引き受けようがない』と、そもそも引渡しの書類に『死亡のため引き受けられず』と記載して、追跡終了になっているのだ。


『籠』へと連れて行かれた、他の子供たちもみんな、同じような手口での受け入れだったようで、その嘘の死亡の報ですら、親元には届いていなかったという。



「うん、エルは死ななかった!助け出された!…だから、ここにいるんじゃないのかな?」


「ユージア……また漠然としすぎ。それを言うなら…あれだ、エルネスト。カイは出生地不明、保護者も不明だ。連絡のとりようもない」


「そう…なのか?」



 ゼンナーシュタットの説明に、はっと顔を上げるエルネスト。

 朱に近いオレンジ色の瞳が涙で(にじ)んでいた。

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