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表の顔と裏の顔。

 



「なぁ、結局のところ教会は何をしてたんだ?」



 徐々に、緊張から回復しつつあるエルネストから、ちょっと声が裏返りつつの質問が聞こえる。

 緊張が強く、見方によっては(おび)えてるようにすら見えてしまう。



「ん〜…まぁ、ありとあらゆる悪事。かな?」


「ユージア…もうちょっとわかりやすく。詳しく(・・・)説明できないの?」



 ぴくりと、ユージアのポットを持つ手が止まると、ちょっと考えるような素振り(そぶり)で小さく息を吐くと、ポットをカートの上に戻す。

 エルネストと向かい合わせになる席に座ると、顔を覗き込むようにして、説明を始める。



「ええと、そうだなぁ。教会といえば孤児院や冠婚葬祭、あとは喧嘩の仲裁やら、お悩み相談とか、スラムでの炊き出しとかね。慈善事業って言われる、人に優しいお仕事をしている所の事らしい(・・・)んだけど」


「らしい…って」


「実際は経営している孤児院の子どもを売り捌く(さばく)。冠婚葬祭・悩み相談と称して街中の個人情報を握って、それすらも商品にして。スラムの炊き出しで汚れ仕事の斡旋……ほら、慈善事業を悪用し放題でしょう?」


「ああ、悪用しようと思えばそういう使い方もできるのか……」


「まぁ…ね。で、今日の内容としては、主に子供の誘拐とその後の出来事に…ついてのお話かなぁ」



 最後の方の言葉が少し掠れる。


 子どもたちのその後の出来事…考えたくもないけど、そのほとんどが死亡してるのだそうだ。

 そのことについてはユージアも以前から話してたし『籠』みたいなものが存在してる時点で……。


 事実『監獄』と呼ばれていた、施設の部屋から…たくさんの子供とみられる遺体が見つかっている。


 遺体を見かけた…そして回収していったルナもヘルハウンドも、絶対に話そうとはしないけど『たくさん』と、表現していた。



(数え切れないほどの、数え切れないからの『たくさん』だよ……1人だって許しちゃいけないのに)



 今回は、色々と予想外な出来事が起きたために、私たちは無事だったけど。

 一歩間違えれば私たちも、その中の1人になっていたかもしれないんだ。


 ぞくりと冷たいものが背を走る。


 ……あのタイミングで、転生に気づけて良かった。



3歳児(ちびっこ)で何もできないけど、それでもみんなの未来を変えることができたのであれば、それで良い)



 そう、思わずにはいられない説明が、ユージアの説明と重なるようにして、下階の音を拾うスピーカーから聞こえてくる。


 待ちくたびれるほどに長く、こと細やかな説明はきっと、ルーク渾身の作だろう。

 裁判官によって抑揚無く読み上げられる、本来なら小難しくて眠くなってしまう、意味不明の言葉の羅列(られつ)になりがちな説明が、まるで吟遊詩人の冒険譚でも聞いているように、するすると頭に入ってくる。


 そして……その丁寧な説明は、目を覆いたくなるような内容すら、容易に、そして鮮明に、頭に浮かんでしまう。

 まるで、その場に居合わせてしまったかのように。


 現に、一般の傍聴席……裁判が開始した直後は、たくさんの街の人たちでごった返していて、口々に裁判官や騎士団へと向かって罵声が浴びせかけられていたんだけど、開始から1時間程度で、女性も男性も口元を押さえて気持ち悪そうに、嘔吐(えづ)きながら、どんどん退場していく。



(でもね、街の人たちが怒っていたのもわかるんだ。教会という今まで自分たちの信仰してきた神様が、いきなり邪悪!という判断で閉鎖・解散させられてしまったようにしか見えないんだもの)



 それがどうだろう『それはでっち上げた罪だ!』『教会を陥れようとしている!』と叫んでいた街の人たちまでもが、信仰心すら無くしてしまうほどに、弁明の余地すら見出せないまでに、完璧な証拠と説明をあげていく。








 ******







「ほら、僕は暮らしていた里が襲われて、里ごと誘拐されたし。エルは…お世話になるはずだった乳児院から、売り飛ばされちゃった☆」



 小さく首を傾げながら、にこりと(おど)けて見せる。

 明るいエメラルドの髪がふわりと揺れる。


 大人たちの説明を聞きながら、ユージアの説明を聞いてしまうと……まぁ的は射てるんだ。

 射てるんだけど……なんだかとっても、軽い。

 わざと言ってる部分もあるんだろうけど、果てしなく軽い。



「なぁ、子供の親たちは…っ?…親は来てないのか?!」


「ん〜うちの変態親父なら来てるけど。他の親は……来てないかな。そもそも売っちゃった子だから、それはもう、親じゃないよね?」


「……っ!」



 焦るように階下の席を見渡し、何かを探し始めるエルネストに、ユージアは冷たく答える。



「ユージア…言い方。親はどんなことがあっても親だよ……。ただ、その親が消息不明だったり、そもそも存在していないことが多いんだ」


「存在…していない?そんなっ!」


「帳簿が……でたらめなんだ。…それに『売った』って事は『生活に困って』という理由がほとんどだからさ……」



 ユージアが言いにくそうに、説明をしていく。

 帳簿って、裏帳簿とかいうやつだよね?

 取引のミスがないように帳簿(きろく)は必要だけど、公には出せない帳簿(きろく)



「ユージアの言う通りだ。それと。なんとか消息を探っても、生存していない事が多い」


「……お、俺の親はっ…!」


「エルの場合は…ガレット公爵家が、身元(おや)になってる。カイもだけど」


「いや…っ!お…僕の親は……」


「ごめん。エルネスト、その話もね…あとで話されると思うから。今は、待とう?」



 ゼンナーシュタットはエルネストの頭をポンポンと撫でると、優しく諭していく。

 その言葉に、ゆっくりと顔を上げる。



「ユージアは、知ってるのか?」


「…うん。調べるの、手伝った」


「そっか……ここで聞けなくても…あとで教えてもらえるか?」


「必ず。僕よりは親父か、エルの今の父様と母様に教えてもらった方が、詳しくわかると思うよ」



 ユージアの口元が、何故かむずむずとしているのが見えて…本当は話したくて仕方がないんだろうな!というのは理解した。

 でも、我慢してる感じがわかって、ちょっと感心する。



「先に、言っておくね。エルネスト。ユージアも、キミの今の父様母様も、仕事上、キミの両親のことを知ってしまったけど、キミに話さなかったのは、守秘義務というのがあるからなんだ」



 ゼンナーシュタットが、優しげな笑みを浮かべながら、焼き菓子が盛られたトレイを取り替えていく。

 ……なんだかんだ言いつつ、食べるの早いよっ!




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