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これからの戦いは。

 


『セシリア・ハノン・ガレット、エルネスト・ガレット』


『ユージア・スガラル・スルーズヴァン』



 順に名前が呼ばれて、部屋に案内されてゆく。

 貴族だろうが、平民だろうが、ここでは敬称無しで呼ばれるらしい。


 そして、ユージアの名前、ちゃんと聞いたのは初めてだなと…思ったり。



(……敬称無しのくせに、高位な順から呼ばれるって聞いてたけど、本当なんだなぁ)



 周囲をきょろきょろと見渡しつつ、案内をしてくれている官服の背を追って歩く。



 朝食の席で「僕がついてるから、大丈夫だ」と、家族の前で胸を張っていたエルネストは、すでに緊張でガチガチで。


 こっそりと振り返ると、顔どころか耳まで真っ赤にさせて、光の加減によっては赤くも見える鮮やかなオレンジの瞳には、じんわりと涙が滲んでいるような状況で、なけなしの勇気を振り絞って、ここにいる。といった、悲壮感すら感じる。

 ……不謹慎かもしれないけど、可愛いかも。


 ユージアに至っては、鼻歌でも歌い出しそうなほど軽やかに、足取りも軽く最後尾を歩く。

 うっかり目が合ってしまい「大丈夫だから」と、言わんばかりに、小さく首を傾げながら…にこりと微笑まれてしまって、慌てて正面に向き直る。



 司法関係の庁舎によくある、無機質な部屋から露骨な格子を入れられた窓のある、真っ白な廊下を歩いてゆく……わけもなく。


 美しい紋様の描かれた壁、規則的に見える柱には、ただそこにあるだけで芸術品としての価値すら見出せるような飾り彫りのされた、豪華な廊下を歩いている。


 もう片側の壁面はライブラリも兼ねているようで、天井付近までびっしりとはめ込まれるかのように、たくさんの本が収蔵されていた。

 そして、横に無駄に広いこの廊下には、所々に小さなテーブルセットが置かれている。


 ざっと見ただけだけど、ここの本たちは全て司法関係のものばかりで、過去に起きた事例集や、その判断と歴史的な背景やら……うん、私だったらここで1年くらい(こも)れそうな、とても興味深い書籍だらけだった。



(きっと司法関係者にしても、情報の宝庫なんじゃないかな……)



 私たちは今、前世(にほん)でいう、裁判所のような、王城の中にある司法関係の機能が集められた、棟の廊下を移動中だ。

 前世(にほん)で当たり前にあった、家庭裁判所や地方裁判所……最高裁判所そういうものの、全てに相当する場所だ。



 今日、セシリア(わたし)は、ここに証人として召喚されている。


 召喚といっても、魔法とかじゃないからね?!

 事件の関係者として……正式に証人として呼び出されたって意味だからね?


 同席にはユージアとエルネスト。

 ……ああ、ゼンナーシュタットも来てるよ。

 あの時、こっそりと借りた、レイの姿で。



(中身はゼンだってわかっているのだけど、それでも、何か久々に会えた感じがして、ちょっと嬉しい)



 シュトレイユ王子の姿を借りたゼンナーシュタットの、アクアマリンのように輝く青い瞳は、なぜか上機嫌で。

 癖毛がちで麦の穂のような、とても柔らかそうな淡い金髪はふわりと風に遊ばれている。



(レイの外見はきっと、シュトレイユ王子をそのまま成長させたものなのだろうけど、今更ながら雰囲気は別人だわ)



 なんで、あの時、初対面だった本物のシュトレイユ王子を見て、泣いてしまったのか。

 王子には全く関係なかったのに、申し訳ない気持ちになる。


 まぁ……ゼンナーシュタットが自分の人化を使えばよかったのに、未熟だったからなのか、うっかりシュトレイユ王子の姿を借りてしまったのが、いけないんだけどさ……。


 ちなみに、私たちがいる席は『証人の席』になるらしくて、少し場所を離れるのだけど別の席にはルークと父様、母様にセグシュ兄様が見える。


 あの席は、騎士団や治療院等、そういう国の命で動いていて、今回の件に関わった人たちの席だ。


 ……セグシュ兄様に至っては、被害者であり証人じゃないのかな?と、思うのだけど、セグシュ兄様がいるのは騎士団員の席だ。

 騎士団員の一員として、出席することにしたのだろう。


 今回、裁かれるのは国家転覆の疑い。


『疑い』と言ってるけどほぼ確定だよねぇ。



(今回は防げたけど、一歩間違えたら王家がなくなってたかもしれないのだからね?!)



 そう考えつつも、同時に思った事もあって。


 よく、物語なんかで『悪い王さまをやっつけて…』ってくだりがあるけど、内部にそんな反乱分子的なスパイを抱えていたとしても、生半可な策では『王家の血筋を根絶やしに』は、成功しないんだなってこと。


『避難所』とかあるし?

 そんな古代の魔道具(しせつ)があるなんて、聞いてないよ~!ってなりそう。



「な…なぁ、僕は、ここにいても良いのか?場違いになってないか?…あ、あれはなんだ?」


「ああ、あれはね…あそこは実は覗き穴になってて……」


「ええっ!?…じゃっ…じゃあ、あれは?」


「あそこには人が立つんだけど……」



 エルネストはひどく上ずった声で、周囲の席やギミックのように見える、欄間(らんま)のようにも見える隙間とかを順に指差して……って、ユージアはなんで、ここの施設の機能を知ってるんだろう?

 ……もしかして、ここにも教会の関係で忍び込んだことがあったりするのかしら?



「……証人、だよな。俺…なにを答えたら良いんだ」


「エルっ!落ち着いて?素の言葉が出ちゃってるよっ?!」


「お…お、おう!」


「……あははっ。エルもユージアも…一緒になってパニックになってないでよ。僕たちは『証人』だよ。悪い事をして呼ばれたわけじゃないんだから、ここに立ってるだけでも良いんだよ」



 レイの姿をしたゼンナーシュタットが、ふわりと笑いながら優しげな声で「まぁ、喋ってくれた方がありがたいけどね」と、囁きながら、赤かった顔がいつの間にか蒼白に、ガチガチに固まってしまっているエルネストの背を、優しくぽんぽんと叩いている。



 その様子を見ていると、私にまで緊張がうつってきそうな気がして……どうにか気を紛らわせる手はないかと思案する。


 その思案こそ、良い気分転換になっていたのだけど。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  400話、おめでとうございます!  毎回、必ず感心させられる表現があるので、楽しみにしています。細部が面白いです。
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