表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
385/462

辛いのですよ。

 


 そういえば……うちの息子や孫たちも、親に怒られつつ、布団に押し込められて、寝ると治るパターンと、押し込められても余裕で暴れてけろりと治る、もしくは案の定だけど悪化するパターンがあったな……。


 前世(むかし)の事をつい昨日のことのように思い出したり、ふっと我に返ったりと、今の状況を考えているのに、前世での息子の幼い頃の顔が浮かんだり……頭の中の情報がごちゃ混ぜになってくる。



(いやいやいや……今の私(セシリア)まだ幼児だから!息子はいないから!今いるのは息子じゃなくて、兄弟たち、父様母様だからっ!)



 そういえば、セグシュ兄様がまだ滞在中だけど、一応、彼も病み上がり…と言うか、怪我を治したばっかりだからね。

 これで風邪までもらった困るという事で、隔離されてしまっている。



(婚約者のデビュタント間近だもんね……流石にうつすわけにはいかない…ていうかその打ち合わせのための休暇だったんだもの!)



 エルネストもカイルザークも……実は隣の部屋にいるんだけど、私の部屋には立ち入り禁止になってる。



(病原菌扱いだよね……しょうがないんだけどさ)



 馬車での帰宅中に、ルークにも指摘されていたけど、何故かルナもフレアも姿を現さない。


 契約主(あるじ)の体調が悪い時は、負担にならないように、もしくは魔力の供給が足らずに、実体化することができなくて、姿を現せなくなる。

 ……まぁ、暴走中の精霊()たちだし、ただ単に、どこかへ遊びに行ってるだけなのかもしれないけど。



 こちらの子供は特に、こんな、なんでもない簡単な風邪で亡くなってしまうことがある。



 回復魔法とか、便利な魔法がある世の中なのにね。

 ……前世(にほん)より薬も治療法も原始的で、致死率が高いんだ。


 それにしても…辛い。

 鼻は、かみすぎてひりひりするし、それでも常に鼻水がたれていて、呼吸するたびに、ずぴーっと音がする。

 鼻水は垂れてるくせに、詰まってて呼吸はできないし、まぶたも、ものすごく腫れぼったい。

 浮腫んでるのか、視界が狭くてまぶたがしっかり開いている気がしない。


 いよいよ熱が上がってきてしまったのか、ふわふわと……意識が朦朧としてきている。

 そんな中、ドアの向こうから、会いたいと思っていた人の声が聞こえたような気がして、必死に耳をすます。



「久しぶり。元気だった~?」


「……一応ね。相変わらず鼻が良いな」


「ん~。何のことかな?僕は呼ばれた(・・・・)の。良いでしょう~?」


「僕は…見舞いに来たんだ……それ良いな。僕もつけようかな」



 ドアの向こうから、人の気配と話し声が聞こえてきた。

 ……ユージアと、誰だろう?よく通る綺麗な声だ。


 そもそも、ユージアには当分会えないはずなのに。

 寂しすぎて、夢にまで見ちゃったのだろうか?



「キミの場合は必要ないでしょ?何、アホなこと言ってるの……」


「繋がりが……欲しいな…」



 軽く、小さなノック音とともに、ドアが開かれたのだけど……。



「あぁ…これはユージアは入室禁止だな」


「えっ……」



 ばたん、とユージアを締め出すようにドアが閉じられてしまった、と思う。

 朦朧としすぎて、はっきりと確認できなかったけど、しまったドアの前に立っているのは、1人しか見当たらなくて、しかもそれはユージアではない。



「開けて〜っ!!」



 ユージアの叫び声と、どんどん!と、ドアを叩く音が何度か響いたが、急にピタリと音が止む。

 それを確認したかのように、小さく頷くような仕草をしたあと、踵を返すと、ユージアと同じくらいの背格好の子が、こちらに近づいてくる。



 耳が音を拾うのを拒否し始めていたのだけれど、近づいてくる音にはかろうじて、気づけた。



(いくらお見舞いだからって……こんなぼろぼろの状態は誰にも見せたくないんだけどなぁ)



 ぼんやり思いつつ、ベットからせめて上体を起こそうと、腕に力を入れてみるが…起き上がれない……。

 そうこうしているうちに、ベッドの真横まで来られてしまった。



「セシリア、お見舞いに来たよ……起きたいの?無理しちゃダメだよ?」


「おみまい…あり…がと……」



 視界の間近でさらさらと蒼銀の髪が溢れる様子が見えると、さっと背に腕が回されて、上体を起こしてくれていた。

 お礼と、挨拶をしなくちゃ……と顔を上げるとやっぱり見たことがない…そして、とても綺麗な子だった。


 天使のような、いや、一瞬本当に天使のお迎えが来ちゃったかと……素で思ったくらいに綺麗な男の子だった。

 そんな男の子が、私の顔を見て、嬉しそうに微笑んでいる。



「お薬、飲めるかな?」


「あとで…なら。のど…が、いたくて……」



 声、出てるのかな?伝わってる…かな?


 喋ったつもりなのだけど、口からは、かすれて空気のような音しか出ていなかった気がする。



(喋るのも辛い、というか喉が酷く痛くて、水を飲むのも辛いんです……)



 それを必死に伝えたかったのだけど、首を振ろうにも頭はくらくらで動かせなかった。


 というか、こんなぼろぼろな姿じゃなくて、もっと元気な時に会いたかったです……。



「ねぇ、これからどんどん辛くなっちゃうから、今飲もうね。お水準備するから……」



 そう言うと、サイドテーブルに置いてあった水差しに近づいて行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング参加してみました。
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ