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ご帰宅ですよ。

 



「……リアーっ!セシリアー!」



 私を呼ぶ声が聞こえて、多分、この声はカイルザークで、カタカタと揺れているのは、馬車に乗っているから…かな?


 父様の抱っこが心地良過ぎて、もう少し寝ていたい。

 抱かれている温もりと、間近で聞こえてくる心音とが、本当に心地よい子守唄になっている。


 ぐりぐりと顔を擦り付けるように、位置を胸と腕の隙間に移動する。

 うん、こっちの方が寝やすい……。

 とても落ち着く、植物系の香りが鼻腔をくすぐる。



「…完全に寝ぼけてるなぁ……すまない」


「かまわない。公爵邸までの…護衛も、兼ねている。なんなら…部屋まで運ぼう」



 父様の声と少し嬉しそうなルークの声。

 ……ルークの声の方が近く、大きく、直接響いてくるんだけど。



「おとしゃま…とかっ。ははっ。完全に寝ぼけ…あ、また暴走とかしないよね?!」


「うなされている様子はないから…大丈夫だろ」



 セグシュ兄様と父様の声……やっぱり少し遠い。

 ぼんやりする頭を総動員して考える。



(えぇと……私は誰に抱っこされているんだろう……)



 徐々に復帰して来る五感とともに、冷や汗がだらだらと……。

 ありったけの勇気を総動員して、ギリギリと音を立てそうな勢いで胸と腕との間に押し付けていた顔を、あげる。



「おや、おはよう?」


「おひゃ……おはようご…」



 だめだこれ。

 目の前、私を覗き込むように本当に間近に、とてつもなく整った優美な顔があった。


 いつも通りの棒読みではない、優しげな声で、口角も少し上がって嬉しそうな表情で……琥珀色の瞳が覗き込んでいた。


 思いっきり動揺して、噛んだし。


 いやいやいやいや……ちょっと待って?!

 確か食事中に寝てしまったときに抱っこされて、そのまま…帰りにみんなで馬車に乗って龍の離宮へ寄ったはず。



(何度か声をかけられた気がしたけど、どうにも眠くて反応ができずで、寝直してしまったのだけど)



 だからこそ、特に失礼なことも、何もしていなかったはず……してないよね?!


 そこから今度は、今度こそは、帰宅の途についた。

 はずなのに、なんでルークが同行してるんだろう?



 状況がいまだに理解できずに、呆然としていると、父様のため息が聞こえた。



「セシー……『父様』はこっちだぞ…?食事中に寝てしまって、ハンスに抱っこされて、そのまましがみ付いて離れないから……」



 って事は、最初っから父様に抱っこされたわけじゃなかったのね?!

 てっきり父様か、セグシュ兄様に抱っこされたのかと思ってたわ……。



(勘違いとはいえ……思いっきり、ルークの胸にすりすりしてたわ…何してんの私)



 ちょっと疲れたような父様の声。

 いや、うん…ごめんなさい。

 でも、私も頭を抱えたい。


 子供としての感覚が優先されてるとはいえ、何してるんだ私……。


 くすくすとカイルザークの笑う声がして、振り向くと、カイルザークは母様の膝の上にいた。

 ちなみにエルネストは父様に抱えられたまま熟睡しているように見える。


 どうやら私は父様に抱っこされていると勘違いした上に、寝ぼけてガッチリしがみついて、ルークをお持ち帰り(!)してしまったようだった。



「まだ……寝てると良い。疲れてるんだろう?ルナもフレアも消えたし、少し、体温が高い……」



 そう耳元で囁くと、背をぽんぽんと叩くように撫でられて、どうにも眠さが戻ってきてしまった。


「ありがとう」言うのが早いか、意識が飛ぶのが早いか、不思議とすとんと眠ってしまった。


 完全に意識が途切れる前に、ルークが父様と母様に「体調を崩しているようだ」と、話しているのが聞こえた。







 ******







(頭痛いよ……)



 ひどく喉が渇いて……人恋しい。

 直前まで、団体行動が多かったからかな?


 ……楽しかったんだろうなぁ。とか、自分のことを他人のことのように考えてみたり、どうにか気を紛らわそうと頑張るのだけど、だめ。

 寂しい。


 どうにもユージアに会いたい。



(どうしてだかわからないけどって……そうか、養成所へ行ってしまったから、余計に会いたくなっちゃってるんだね)



 熱っぽい頭でぼんやりと考える。



 確か、ユージアが帰ってくるのは、休暇だと夏期と冬期に1週間ずつ。

 修了という意味では、平均では1年から2年ほど。

 よほど優秀であれば稀に半年で修了する者もいるらしい。


 ただ、就職先が決まってる状態での履修だと、その家の格によって難易度が上がる。


 ……そう、ユージアの場合は、難易度が上がるパターン。

 だって、その家の格が……王家の次に高いとされる、公爵家だから。

 適当にして修了させちゃったら、学校としての威信にも関わっちゃうからね。



(風邪薬欲しいなぁ……)



 現世(こっち)の世界での風邪薬は、得体の知れない漢方のような物が多い。

 信用できる薬師さんからの入手ができないなら、むしろ飲まない方がいい。

 ……俗に言う民間療法がまかり通っているから。


 魔法薬で、効くやつ開発してよ!って思うところだけど、そもそも魔力の高い者って滅多に風邪を引かないから、この風邪の辛さを知らないんだろうね。

 ちゃんと聞くような薬って聞かないし、開発も進むどころか、そもそも開発されてすらいないんだと思うよ。


 まぁ、そこはとりあえず我慢するよ。


 もう一つ困ってるのが……どうにもこうにも…どうしても人恋しい。



(寂しい……!でも、とにかく寝なくちゃ。早く治さないと……)



 じわりと涙で視界が滲む。



ここ数日が目まぐるしく、そして何より色んな人たちと代わる代わるだけど接触があって、多分、楽しかったんだと思う。

だから、ただ自宅のベッドで寝てるだけが、本当に寂しい。


本当は寝てたくない。


なんでだろうね?不思議なんだけど、子供って風邪引いてても体力が有り余ってるのか、眠くない。

確かに身体は発熱で体温が上がっているのだろう、発汗しているし、視界も頭もクラクラしているのだけど。



(というか、いつも以上に遊んでいたい)

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