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帰還しまして、お昼ご飯です。

あまりにも短すぎたので、やっぱり足しました。


 


 眼だけ爛々と、揺らめく炎のように赤く光る。

 漆黒の闇に浮かび上がるような瞳。



『セシリア、さま?』


「ああ、いや、ごめん!とっても嬉しそうだったから」


『はい、嬉しいです。とても。なので、代表してお礼を』



 そう話しながら、みるみるうちに身体が縮んでいく。

 我に返ったのかしら?

 仔犬の姿になっても、しっぽは千切れんばかりにぶんぶんと振られ続けている。


 闇の妖精たちの『宝』は、瘴気と分離させて回収……までは、ルナやヘルハウンドたちが頑張っているのを見ていたでしょう?

 ああやって、ひとまず回収された後に、闇の妖精たちによって、もともと在った地方毎に、きっちりと分けられて返還されたそうだ。


 中には、かなり長く行方不明だった『宝』も在ったようで、文字通りの大喜び、そしてお祭り気分、と言ったところなのだそうだ。

 ……まぁ、新規で『宝』として振り分けられてしまった者たちも多かったわけだけど。



『セシリア様が心配されていた子供たちは…説明した通り、ほとんどの者が新たなる生へと旅立ちました。残った者も、そうかからずに旅立つでしょう』



 子供たち。

 子供って言っても、セシリア(わたし)よりずっと年上のお兄ちゃんたちだけど。

 ……そう『籠』や教会の犠牲者たちだ。

 なんの罪もない子たち。

 ユージアが見送り続けた子たち。


 来世では幸せに……そう願うしかない。

 今世でも幸せでいて欲しかった。

 どうして、命まで搾取されなくてはならなかったのだろう。


 全てを助けることが出来ないのはわかってるけど、それでも助かって欲しかった。

 今度こそ、絶対に幸せになって……。



『誰かを故意に傷つけた者は、いずれ自分が虐げられる身になる。悩まなくて良いです……絶対に許しませんから』



 子供をあやすような優しい声で語りかけていた口調が、突如冷たくなって、ゾクリとする。

 見た目は小さな仔犬なのに、やっぱり中身はヘルハウンドなのだと、自分に言い聞かせる。


 今度こそ幸せにね!なんて、次回にしか願えない幸せとか、なんだかとっても虚しくなるよ。



『そろそろ…お時間のようですよ?』



 仔犬が耳をぴこぴこと動かした直後、館中の時計の鐘が鳴り始めた。

 集合の合図だった。







 ******







 このタイミングで風邪をひいた。最悪だ。

 それとも、ここ数日間の無理が祟ったのだろうか?



(身体がダルい。喉がすごく痛い。鼻が詰まって苦しい)



 鼻は詰まってるくせに、鼻水は垂れてくるからタチが悪い。

 鼻水が出てるってことは多分、熱も出てるんだろうな。


 それでも昨日はちゃんと、お出迎えに来てくれてたユージアに『お勉強、頑張って!』って……別れ際には『行ってらっしゃい』って言えた。

 多少のハプニングはあったにせよ、王城……龍の離宮での立ち居振舞いもうまくできたと思ってる。


 ユージアがいないのが寂しい。みんながいないのが寂しい。


 父様も母様も、兄様たちも……全力で可愛がって甘えさせてくれるから、嬉しかったのになぁ。

 どうして私は今、一人なんだろう……。







 ******







 ……あの後『避難所』から、お昼ちょっと前に軽くお茶をしてから、王城へとみんなで戻った。

 戻った先には、守護龍、王様と王妃様、父様と母様、そしてルークと……。



「セシリア!お帰りっ!!」



 ゼンナーシュタットが私の姿を見つけると、目の前へ飛び込んできた。

 嬉しそうに黒目がちなアメジストのような瞳をきらきらと輝かせた、真っ白でふわっふわの、大きな猫の姿の霊獣。



(……ユージアは、さすがにいないか。お勉強中だもんね。頑張ってると良いなぁ)



 そう思いながら、辺りを見渡していると、奥のドアが小さく開き、息を切らしながら走ってくる緑の髪の人物……。



「ユージアっ!!」


「お…お待たせっ…しましたっ……!…はぁ…いきなり、今すぐ来いっ…て、無理だからね?!」



 ルークに向かってぶつぶつと文句を言っているのが見えた。

 どうやら、養成所の寮で休憩中にいきなり現れた風の乙女(シルヴェストル)によって、強制的に王城へと呼び出されたらしい。


 会えたのは嬉しいけど、ルークに振り回されっぷりが酷かった……。



 そんな2人を呆れた顔で見ているうちに、レオンハルト王子とシュトレイユ王子は王様のもとへ走っていくと、今まで起きたことを身振り手振りで、必死に説明を始めていた。


 エルネストは恐る恐る……父様と母様のもとへ近づくと……猛烈な勢いで母様に抱きしめられていた。



「お帰りなさい!みんな、よく頑張ったわね」と。



 エルネストの後ろで、こっそりと隠れるように移動していたカイルザークも、残念。

 がっしりと、父様に捕獲されてしまっていた。


 真っ赤な顔のエルネストと、遠い目をしているカイルザークと…でも、カイルザークの口元はこっそりと口角が上がって、しっぽは嬉しそうにゆるやかに揺れている。


 そんな姿を見ながら、昼食会が始まったのだった。



「一緒にいられなくてごめん。でも次は絶対、一緒にいたい」


「次って……もう、こういうことは懲り懲りだよ」



 こんな騒動(こと)がそうそう簡単に起こってたまるか!と、軽く憤慨しつつ、ゼンナーシュタットを撫で返す。

 相変わらず真っ白でふわっふわで、気持ちが良い。



「うん、でも、次こそ(・・・)は絶対に一緒に」


「わかった!心配してくれてありがとう」



 きらきらとした笑顔だったはずのゼンナーシュタットの声が、何故か強く思い詰めたような色になっていた。



 食事が始まると、ユージアは会話もそこそこに、ご飯を一気に詰め込むと、早々に寮へと帰って行ってしまった。

 本当はもうちょっといて欲しかったのだけど、午後からの授業にどうしても出たかったらしい。



(意外……かなり熱心に頑張ってるんだなぁ)



 今まで、飄々とした態度が多かったユージアだけど、意外にも真面目で……養成所へと帰ってしまったのは悲しいけど、目標に向かって一直線に頑張る姿勢は、とても好感が持てるものだった。

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