たまにはまったりしてもいいよね。
食事をしながら、ヴィンセント兄様が今日の予定を説明する。
事前の説明通り、帰宅はお昼…というか昼ちょっと前になるらしい。
お腹空いちゃわない様に、ちょっと多めのおやつが出るらしい。
それまでは自由!というか、それぞれに割り当てられた個室の探検をすることになった。
ただ、残念な事にエルネストとカイルザークは戸籍上は公爵家の子になっているのだけど、星詠みのクロウディア様の血をひくわけではないので、個室は割り当てられていないようだった。
つまり『おまじない』を使っても『避難所』に単独では入場できないらしい。
追加とかできればいいのにと思いつつも、嫁入り道具だものね。しょうがない。
思ってたより、条件がシビアだった事に、2人にはちょっと申し訳ない気分になったのだけど、当の本人たちは『そんなに部屋いらない』と気にした様子はなかった。
(まぁ公爵家の自室も広いもんねぇ。一般の感覚で見たら、あの部屋だけで充分満足だよ)
とりあえず端っこで、小さくなっていたい時があるくらいに広いから。
という事で、レオンハルト王子とシュトレイユ王子との2人で、エルネストを両端からガッチリと腕を組んで、王子たちの部屋へと強制送還されていった。
カイルザークはそんな自由時間開始と同時に、大きなあくびを連発させると、サロンの奥に2台だけある、いつも出したままにしているベッドに潜り込み、早々に寝てしまった。
課題の疲れから、回復しきっていないらしい。
私はと言えば……。
「うーん。部屋割りどうしようね……?」
個室だよ!と割り当てられた部屋に入ってすぐのところに、座り込んで唸っていた。
(分けたくないわけじゃないんだ、部屋はあげるつもり)
でもね、常に一緒にいたい双子に、常に一緒に居れない個室を与えてどうするのさってお話でね。
それはつまり完全な個室にしてはいけないんじゃないかな?って思ってね。
部屋割りで頭から煙を出していた。
「よし!決めた!再配置するから、一度部屋から出てね!」
もう、あからさまにワクワクと期待に目を輝かせて、こちらを見つめている、2つの視線が痛いっ!
個室入り口のドアの位置を、中央に移動させて、左右に個室を作った。仕切りは壁板の入っていない本棚。
飾り棚みたいな感じだね。
その棚の切れ目が、部屋の出入り口になっている。
ちなみに扉はつけていない。個室だけれど、せっかくのお部屋なんだから、共に相手の気配が分かる様な構造にした。
……で、奥には共同の、というか私の部屋。
構造としては2人でのシェアハウスっぽい個室の配置にして、共有スペースにあたる部分を私の部屋にした。
ま、棚に荷物が置かれるまでは、二人の個室の壁はスケスケで、ほぼ有って無いようなものだけど。
「……こんな感じで、どう?」
『『最高!』』
再配置が終わって、中を覗いた2人。
またもや同じ驚きと、言葉がハモっている。
どうにも、嬉しすぎると、個性を意識する余裕すら無くなってしまうらしい。
正直なところ、ずっと一緒にいたのに、シシリーの時では見る事の出来なかった2人の、心の底からの『嬉しい!』を見れたような気がして、ちょっと複雑な気分になる。
シシリーの時はひたすらに、暴走状態の2人の行動に頭を悩ませ続けていたのに。
今やむしろ、とても優秀な立ち回りのできる、立派な精霊になっちゃってる。
(いつのまに成長したんだろう?きっかけは?何があったのだろう?…いろいろ考えてしまうよ)
共有スペースにはちょっとしたキッチンとトイレまで設置されていて……まぁ、二人利用シェアハウス風って言っても、ものすごく広いからさ……。
彼らの個室だってパッとみた感じで50畳はあるんじゃないかなぁ。
ソファーセットにベッドに…と個人のものの他に、ゲストルームを作っても余裕そうな広さだもの。
一応私の部屋!という事で置いてあるソファーにばふっと倒れ込む。
表面が革製なのが不思議なくらいに柔らかく、深く沈み込む。
革地のしっとりとした心地よさに、意識が遠のきかける。
(……このまま、時間になるまで寝てようかなぁ)
とりあえず部屋は、寝る場所さえあれば良い私としては、あまりにも広すぎると逆に気疲れしちゃうんだ。
ここにいていいのかな?とか、自分が凄く場違いな気がしちゃって。
そうそう、一応、個室!として明け渡したスペースの中で、ルナもフレアもうろうろしてみたり、どこからか持ってきたのか、小物を飾りはじめたりしている。
『セシリア様…『宝』の回収が完了いたしました』
突然、耳元で声が響き、びくりとすると、目の前には大きな漆黒の犬が首を垂れるようにして、覗き込んでいた。
「…はっ…びっくりした…!」
……飛び起きたつもりなんだけど、ソファーに深く沈み込んでいた身体は、もがくとさらに沈み込み、手足だけが上に持ち上がったような状態になっていた。
『何してるの…ですか…?』
「起き上がれないの……」
深く沈み込んでしまって、寝返りもできずに、手足を上へあげてバタつかせていると、硬い物に触れたので、掴むとそのままクイっと引っ張りあげられた。
ヘルハウンドの爪だった。
が、勢い余って、コロリと床に転がり落ちる。
『すみませんっ…!』
「ん?大丈夫。起こしてくれてありがとう!」
仔犬の姿ではなく、ヘルハウンドの姿のままで現れたのは、何かわけでもあるのかな?と、思いつつ、その立派な姿を眺めてしまう。
(あ……これ、ルナとフレアと同じだわ、嬉しすぎて仔犬になるの忘れてるだけ……)
あり得ないほどに尻尾がブンブンと揺れていて、目もまんまる。
何も言わなくても、嬉しさでいっぱいなのが一目でわかってしまう空気を纏っていた。