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とりあえず、落ち着いて。

 


 私とルークは、ここでの出来事を知らないから……まぁそれでもルークなら率先して探索の手伝いに動くかと思ったのだけどね。


 倒木となってしまった聖樹の成れの果てを視界に入れた途端に、茫然自失となってしまったので、父様に『少し休憩しとけ』と、放置されていた。



(聖樹をエルフはとても大事にするから…しょうがないよね)



 ルークに抱っこされてるとはいえ、少し肌寒い。

 風が、冷たく刺さるものになってきていた。



(まだ春だもんなぁ『避難所』では季節先取りみたいに、梅とかシラスとか食べちゃったけど、王都近辺はそこまで暖かくなってないんだよねぇ)



 多分、時刻的には3時のおやつの時間を過ぎたくらいかなぁ。

 春のうちは4時になると一気に冷え込んで、5時には日没で真っ暗になっちゃうんだよね。


 ルークは切り株となってしまった聖樹の根本まで近づくと、その場にそっとひざまずく。



「形あるものは…いずれ消えてしまう。理解しているが…こうも立て続けに起こると……流石に、辛いな」



 間近にあった端正な顔が、悲しげに歪み始めると、顔がどんどん近づいてきて……。


 これは泣き虫ルーク発動だろうか?



(うーん、魔導学院に飛ばされた時に、散々目撃してしまったけど、それでもやっぱりあまり見かけるような表情ではないからね。ルークってばどんな表情でも絵になるほどに綺麗だから…思わず見惚れてしまう)



 って、ちょっと待って?!

 みんなが周囲を探索中とはいえ、泣き顔を見せるのはよろしくないよね。


 いや、その前に、感情に任せてぎゅーっとされて泣かれたら…私、窒息するんじゃなかろうか?!


 現に私の頭を支えていた腕が、ホールドするように後頭部を押さえて、引き寄せるように力が入り始めているし、ルークの悲しげな美貌も近づいてくる。



「ルーク!ルーク!よく見て?根本!ユージアも『再生しようとしてた』って言ってたでしょう?この聖樹()は生きてるから!悼む前に応援してあげてっ?!」



 これはやばい!と、必死に肩に手を伸ばして、ぺしぺしと叩きながら、もう片方の手で、絶賛接近中のルークの顔を抑える。


 指差した先には、あの時、小さな芽になるのかな?と思っていた膨らみがあった場所から、しっかりとした枝が…新芽がいくつもいくつも、芽吹いていた。

 これから盛夏に向けて、一気に成長するだろう勢いをしっかりと、持っているように見えた。



「ルーク…大丈夫だから。ほら、立派な新枝(シュート)がいくつも出てるじゃない。……ね?この聖樹()は大丈夫。ちゃんと勢いがあるから、絶対に枯れない」



 大丈夫大丈夫…。と、子をあやすように肩をぽんぽんと…ってこれ、ユージアがセシリア(わたし)に良くやってたやつですよっ!



(子にあやされてる大人って、どうなの?!)



 ルークは涙を(こら)えているのか、しばらく目をぎゅーっと瞑って、頬を私の額に押し付けたままだったが、なんとか持ち直したのか、ゆっくりとまぶたが上がっていく。


 吸い込まれそうなほどに綺麗な琥珀色の瞳が間近に……ってやっぱり目尻に涙が見えた。

 思わず指で拭ってしまったけど、本当なら、思いっきり抱きしめてあげたい。

 ……寂しいのは、わかるから。



「大丈夫だから……泣かない。今は、一人じゃ無いでしょう?」



 今までの生活にプラスして、カイルザークやユージアだっている。

 これから、いくらでも友人なら増やしていけるんだ。


 前向きな発言をしつつ、でも、喪失感はどうしようもないんだよね……。

 そばにいた人ほど、辛い。

 旅立つ側も未練だけど、遺される側も辛いんだよ。



(……見送った後は、辛かったもんなぁ)



 辛い辛いばかり言ってる場合じゃ無いってわかってたけど、それでも辛いんだもの。

 もういないって分かっていても、どこに行っても、すぐに気配を探してしまう。

 この癖がどうしても抜けなくて、その度に、もういない事を思い知らされて……。

 ……勝手に傷ついて。



「なんで、セシリア(キミ)まで泣きそうになってるんだ?」



 覗き込んだ状態のまま、きょとんとしているルークが見えた。

 黒い艶髪がさらさらと流れ込んでくる。



「…なんか、色々思い出しちゃって……見送る側は、辛いなぁって」



 うっかり涙ぐみそうになって、鼻の奥がツーンとなってしまった。

 もう!つられて前世(むかし)のことを思い出しちゃったでしょ!



「理解できるなら…置いて行かないでもらいたいものだ」


「そんな無茶な……」



 ふっと淡い笑みを浮かべると、額にキス……とりあえず少し離れようか?

 そもそもエルフであるルークに『置いていくな』とか言われても、無理な話だからね?!

 明らかに寿命の長さが違うでしょうに……。



「キミさえ、そばにいてくれたら…それでいいのに」



 いや、そんな切ない顔で言われましても。

 いいよいいよ〜って寿命をどーんと伸ばせるわけでもないし、どうしようもないのですが。



「そばにいるじゃない」



 少なくとも、今はそばにいるよ?とルークの頭を撫でてみる。

 ……私の手が届くほどに近いんですよね。


 艶々さらさらの黒髪、そして端正な顔に浮かぶのは、なぜか思いっきり呆れた表情で…あれ?



「……キミが、色々と読めない子だったのを…失念していたよ」


「うぶっ…!?」



 それはそれは大きなため息のあと、ぎゅっと抱きしめられてしまった。

 ぎゅっと…キツイです。

 後頭部に回された手でしっかりと胸に顔を押し付けられて、身体も腰に回された腕でぎゅ〜っと。


 うん、やっぱりユージアと違って胸板厚いなぁ。

 しっかり筋肉ついてるって感じだ。



(ユージアがぎゅってしてくれるのも好きだけど、ごりごりと洗濯板っぽく肋骨に触れてしまうのがね…ちょっと気になってた)



 ……って、それどころじゃないっ!!

 窒息するっ!

 締まってるからね?!


 軽く命の危険を感じて、じたばたと、もがき始めるとクスクスと笑い声が振動として伝わってきた。



「さて、このままだと、聖樹の心配どころか、聖樹に心配されてしまいそうだ」



 笑いながら、抱き締めから解放される。

 ちょっとくらくらしつつも、久しぶりに自分の足で立った気がする。



「聖樹はルナから餌をたくさん貰ったようだから…そうだな…消化不良にならないように、強めの浄化の魔法を」



 そう言うと、杖を手に呼び出して、浄化の作業に入ってしまった。

 相変わらず魔法の手際がいい。


 周囲の空気が、風も虫たちも、息を潜めて静まり返るような不思議な感覚を覚えながら、私は切り株となってしまった聖樹の様子を、じっくりと見るために近づいた。

 艶のある照り葉をこれからたくさん茂らせるのだろう、新枝(シュート)の側面にはたくさんの葉の赤ちゃんのような突起がある。


 探索が終わったのか、遠目にフィリー姉様と守護龍アナステシアス、そして父様がこちらへ向かってくるのが見えた。



「……セシリアには、魔法の代わりに歌ってもらおうかな。聖樹は歌が大好きなんだ」



 これで帰宅かな!と、思っていたらなんとも予想外な無茶振りをいただきました。

 私、歌ったこと、ないんですけどっ!?



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