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side ユージア。その行動力。

 


「なぁ、聖女だってのは本当か?」


「ん〜どうなんだろう?確かに魔法を使ってたけど、どうも極限状態で使ってたからで、本来の力とは違うって言われてたと思うよ?」



 お互い、課題のノートを書き写しながらの会話なので顔を上げずに、ひたすら声だけでの会話ではあったが、様々な話が聞けるので楽しかったのだけど、今日は僕の身の上話的な日なのだろうか?


 まぁ、国を傾けたいならまずは、イメージがマイナスになるように情報操作をする。なんてのは世の常なのだそうだけど。

 今回狙われているのはセシリアや魔力持ちの子供たちだから、少しでも彼らが辛くならないようにと考えてみた。


 街にデマを流している教会側の暗部もいるわけだし、こっちもちょっと対抗して「内緒だけどね、本当は…」と、こっそりと『それなりに本当の事』を話しちゃってもいいよね?

 ……情報通に『内緒』と言って流す情報ほど、実は一番広がりやすい情報だったりするらしいし。



「極限状態…そうか怖かったよなぁ…。3歳だっけ? 貴族じゃ、歩く赤ん坊みたいなものじゃないか」


「街の子だったら、少しだったら1人で行動し始める時期ではあるけどさ」


「それだって街の馴染みがいる範囲で、周囲の大人たちが見てる前だけでだろ?」


「まぁな。1人で逃げ出したってのもすごいけど、こんな行き倒れを助けたんだろ?冷静というかなんというか、行動力のある子なんだな」



 行動力、というか判断だよなぁ。と、笑う。

 言われてみれば、セシリアの思考パターンはセシリア時自身が生まれる以前の記憶を持っているらしく、少しおばちゃんっぽい言動や行動が多かった気がする。

 見た目は可愛らしいのに、何故かすごく残念な方向に。



「そういうもんか?」


「そういうもんだぞ?うちの妹とか、4歳だが……臨月の母が腹が張って身動き取れなくなってた事があって……傍で、ただただ号泣してるだけだったぞ?」



 あまりにも悲鳴の様に泣き続けるものだから、近所のおばさんが様子を見にきてくれて、母は無事だったんだけどな!と笑う。



「まぁ…泣いて助けを呼べただけでも、偉いんだけどな。行き倒れってくらいだから、動けなくなってたユージア君を1人で助けたんだろう?よくそこまで考えが行ったなって、感心する」


「……だろうね。助かって、帰宅した当日に夜泣きで魔力暴発させて、屋敷の屋根を吹き飛ばしてたよ」


「それは…っ!」



 これは、本当に申し訳ないことをしたと思ってる。

 あ、うん、助けてくれたことはすごくありがたいし、嬉しかったけど、今考えたら相当怖かっただろうし、その後の出来事も。


 過去の夢に(うな)されたと言ってたけど、その夢自体、思い出すきっかけを作ってしまったのは僕だと思ってる。

 怖い体験をしてしまったから、怖い記憶を思い出してしまったのだと。



「その後も激しく泣いててさ、あれは激しかったな……って、どうしたの?」



 カリカリとずっと聞こえていたペンの音がピタリと止まっていた。

 顔を上げてみると、それぞれがなんとも言えない顔をしたまま固まっていた。



「……いや、公爵家、良いなぁって思ってたけど、俺、その子の専属は無理だと確信した」


「え…可愛い子だよ?」


「可愛くてもなぁ……それは、命がいくつあっても足りなさそう」



 なるほど!そういえば魔法って…使える人は少ないんだっけ。


 僕もまともには使えないけど、周囲は魔法ありきの人ばっかりだったから、気にもしたことがなかったような……。

 この認識の違い、気を付けないといけないなぁ。


 「だよねぇ…僕の場合、逃げ足の速さを見込まれての、雇い入れっぽいし」



 移動力、素早さに関しては褒められてたし、これも嘘じゃないはず!

 自分でも自信を持っている事なので、ちょこっとだけ胸を張れる。

 ……移動も潜伏も得意だったから。



「ああ、確かに逃げ足は早いよなぁ。あれは一芸と言っても良いと思う」


「えぇぇ『芸』なのあれ……」



 自慢できる、雇い主に『長所』としてアピールできるものを!と講義でも先生が強く言っていたので、大事な事だと思う。

 けど、それを『芸』と言われるとなんか……技術ではなくて、なんだろう…お酒の席とかで人の目を楽しませるようなモノのように聞こえてしまって、ちょっとがっかりな感じがした。



「俺、というか、普通の人には無理だと思うし」


「そうだな。天井走るとか、少なくとも俺には無理」



 初回の講義の時の事だね。

 緊張しながら講師の顔と名前を覚えつつ、ノートを開いて…と、廊下の騒がしさに、振り向くと、いきなり騎士団の襲撃だもんなぁ…。

 なんとか逃げ出せたけど。


 咄嗟に避けようにも、左右にはそれこそ他の受講生がいたし、他に避けれると思った場所が無かったからの天井だったのだけど、周囲にはどうやら驚きの行動だったみたいだ。



「振り上げられた剣を見て『逃げてくれ!』とは思ったけどさ…受け流すとか、()なすんじゃなくて、姿が消えたと思ったら、天井に張り付いてるとかさ…ビビったわ」


「あれくらってたら、大怪我じゃ済まなかったしなぁ。無事でよかった」


「……代わりに、まともにくらってた机が真っ二つだったけどな!」


「机を真っ二つにした後、そのまま剣を受けた床も、大穴開いてたろ…ヤバかったよなぁ」



 当時の状況を思い出してしまったのか、あわあわと少し顔を青くさせながら、一気に喋りだす。


 あの襲撃は完全に僕1人をピンポイントで狙っていたようで、養成所の被害は、僕の使っていた机と、そこの床、そして理由も話さずに突撃してきた騎士団に、目的や理由を聞き出そうとした警備の人間が気絶させられていたくらいだったそうだ。


 ちなみに、騒然となった教室で、講師は襲撃にも全く動じずに一言。



『ユージア君は(すで)に公爵家の使用人です。仕えている主人がトラブルに巻き込まれた時、この様に使用人も巻き込まれることが、ままあります』



 これだけ言うと、何事もなかったかの様に講義を続け切ったそうだ。


 ……少しは生徒の心配をしてあげてっ?!



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