考察・解析・調査…結論?。
ぞくりとするような色味をもった言葉に、食事の手が止まる。
ま、食べてるのは私だけなんだけどさ。
ルークの説明から父様の眉間のシワが徐々に深くなっていく……。
はじめに…と説明されたのが、ユージアとセシリアが放り込まれた時の『監獄』の環境。
こちらはユージアと一緒に囚われていた水の乙女との視界共有や、もちろんユージアと私からの聴取からの情報が、すでに父様や国王への報告が行き、情報共有が完了しているのか、さらりと説明された。
(まぁ、文字通りの監獄だったって事ですよ。しかも無駄に厳重な、ね)
そして先日、私とカイルザークがうっかり入場成功してしまった『監獄』の環境。
こちらに関しては、当初の想像とはまったく違った様相をしていた。
だって、石造りの監獄!って感じの内装じゃなくて、貴族の館風だったんですもの。
これで『監獄』とか呼ばれてるのは、おかしい!と思えるほどに、とても清潔感に溢れて、そして美術的な価値もあるんじゃないだろうかと思えるほどに、威風堂々とした作りになっていた。
「随分、景色が違うようね……?」
「そうだ、まったくもって違う。つまりだ『避難所』のように、使用者の意思によって『演出』されているモノだという事だ」
母様の言葉にルークが軽く頷く。
「演出とは……?」
「こういう事だ」
父様の言葉にルークは軽く手をあげると、シュトレイユ王子が寝ているベッド周辺を残して、それ以外のサロンの内装が一変した。
木と漆喰の、なんて言うんだろう。そうだな、カントリー風と言ったら良いのかな?
木の柱部分には装飾や飾り彫りなどの加工が一切されていない、今までの部屋の雰囲気とは真逆とも思える、素朴な内装に変わる。
「これは…また…すごいな」
「今までの『避難所』は王族が使うことを前提の装飾にしていたが、これは『街の宿屋風』とでも言えば良いか?」
シンプルなしかし、清潔感のある内装だが、レオンハルト王子には見慣れない環境のようで、少しそわそわしている。
「なんか落ち着く……」
「わかるけど、今は落ち着いてる場合ではないと思う…」
妙に安心しているエルネストに先ほどまで、怖いほど真剣な顔になって、ルークの説明を聞いていたカイルザークがたしなめていた。
でも、カイルザークもちょっとだけ安心したような表情になってる。
「同じように、この『避難所』でも似たような『監獄』は作れる」
ルークがそう説明しながら、またもや軽く手をあげると、壁紙どころか今度は窓枠すら姿を消す。
代わりに一斉に現れたのはごつごつとした荒く積み上げられた石造りの壁。
そして、爽やかな明かりを差し込ませていた窓の一切がなくなった代わりに、不安げに揺れる魔石光の小さなランプを模した照明のみになって、部屋全体が一気に薄暗くなる。
「……セシリアとユージア、ゼンナーシュタットが放り込まれていた『監獄』はこの内装だった」
石造りの隙間からちょろちょろと地下水が染み出している様子や、不衛生な水溜り、そしてでこぼこの石の壁や床に所狭しと生えるどす黒い苔のようなもの……。
あまり見たくもないものまで綺麗に再現されていて、思わず顔をしかめてしまった。
(……そう、確かにこの内装だった)
視界の端で守護龍アナステシアスが小さく頷いたのが見えた。
そういえば、事あるごとにゼンナーシュタットを回収していく彼だから、ゼンから同じように報告を受けてたのかな?
(あの子、赤ちゃんって言われてたけど、しっかり話せてたもんね)
ちなみにエルネストとカイルザークは、この監獄の内装を見て、反応…2人ともが能面のような、表情を作る事すら忘れて、ひたすら何かを考え込んでいるように固まってしまっている。
そして、真正面で大きく目を見開いたままフリーズしてしまっているレオンハルト王子。
そんなに衝撃的な内装だったのかしら……。
凛々しい王子様!な外見が台無しになってるよっ!
おーい、戻ってこーい!
あまりの反応に心配になって、レオンハルト王子に向かって小さく手を振ってみるが、まったく反応がなく……。
両手で手を振り始めたところで…突如、ルークに頭をがしりと掴まれるように撫でられたので、私の動きが止まる。
その様子にソフィア王妃が気づいたのか、くすりと笑う。
そして、レオンハルト王子の背を軽く叩きながら、顔を覗き込む。
……うん、レオンハルト王子が再起動した!
やっぱり衝撃的だったのかな。
でもこれ、この内装が演出だとわかれば、色々と利用法があるなと楽しくなってしまう。
ほら、ハロウィンパーティの会場に、もってこいじゃない?
お化け屋敷とか、最高だよね?!
いろいろな使い方が浮かんできて楽しくなっていると、向かい側のレオンハルト王子は徐々に頬を赤らめて俯いていくのが見えた。
……衝撃的を通り越して、怖かったのかしら?
「そして今回、カイルザークとセシリア、ルナが入場に成功した時の『監獄』はこの内装だ」
そんなルークの声とともに、手を軽く振ると、今度は貴族のお屋敷風の内装に変わった。
窓の一切ない、ジメジメとした不衛生極まりない薄暗い石造りの内装から、一気に擬似窓がたくさん現れる。
豪華なシャンデリアや部分照明がふんだんに使われている、清潔感・高級感あふれる内装へと変わっていった。
突如差し込む擬似窓からの自然光に、目が眩みそうになりながらも擬似窓の外を凝視すると『監獄』で見た窓のように、窓の外には美しい貴族の庭園が広がっていた。
昼を過ぎただけあって、日差しは随分と高くなっているようだけど。
「似てる…と、いうかこれは、そっくりそのままだね」
カイルザークの言葉に反応するようにルークがうなずいた。
「セシリアの腕輪を『管理者』と認識した以上、この古代の魔道具が魔導学院産ということははっきりした。だが、魔導学院産であれば確実に『監獄』のような使い方を想定した施設は、制作の許可がおりない。絶対に」
造られるはずのないモノ。
いや、造ってはいけないモノ。
倫理規定というのだろうか?特に相手が人間である場合を想定した魔道具作りに関しては、厳しくルールが設定されていた。