全く記憶にないんですが。
そんなふうに証言されるような威力を、再現できる気がしないからだ。
寝ぼけている中だからこその火事場の馬鹿力だったのだと思う。
『こないで…こないで……』
震える声で呟きながら、手に魔力が集まり出したところで、ルークと守護龍が同時に私の腕を掴んだのだそうだ。
『いいぃぃぃぃやああああっ!!』
落ち着かせるために、睡眠の魔法を込めて掴んだ。
落ち着かせるために、抱き上げようと掴んだ。
前者の腕を激しい火花で弾くと、後者の腕の中におさまる。
と、いう事で私は守護龍の腕を弾き、ルークに抱きかかえられていた。
抱えられた時、私は守護竜の魔法がかかった状態で、ぐっすり眠ってしまっていたようだった。
その直後に、私を中心に転移の魔法陣が展開し……遅れて駆け寄ってきた父様を巻き込んで『監獄』へと強制転移した。
そもそも転移した先が『監獄』だと知ったのも、父様と行動を共にしていた水の乙女に知らされたからだった。
……そこまで説明すると、私へと視線を向けてくる。
(うん、全く記憶に無い。私が知ってるのは『監獄』へと転移した後に目を覚ましたところからだ)
父様たちに敢えて説明はしないけど、守護龍の腕を弾いたのと魔法陣を出現させたのは多分どころか確実に、この腕輪の力だろう。
そうでもなければ、私よりずっと魔力のある生き物である龍に、無意識の状態で抵抗できるわけがない。
「子供たちへの被害は無し。……敢えて言うなら、私たちが大型の魔物のねぐらに放り込まれたくらいかな?」
父様が軽く肩を竦めながら笑って話している。
いや、笑い話じゃないからね?!
「怪我どころか、全く気づかずにぐっすりでしたよ!」
「それはとても良い事だぞ?こっちは、いきなりボス戦だったからね」
被害は、私が放った魔法で絨毯や床が焼け焦げた程度で、そこら辺は…時間経過で勝手に修復されてしまったらしい。
ありがたい。
「大冒険だ!」と目を輝かせているシュトレイユ王子を、レオンハルト王子が嗜めている。
冒険物語、男の子は大好きだもんね。
「だって、2人の魔術師団長と守護龍でしょう?ああ、すごいなぁ!『龍と王子』みたいだ!」
「龍と王子?」
シュトレイユ王子がうっとりとしながら目をきらきらとさせて、守護龍アナステシアスを見つめている傍で、カイルザークが『龍と王子』に反応していた。
「ああ、そういう絵物語があるんだ。カードゲームにもなっているから、今度遊んでみるか?」
「是非!」
レオンハルト王子がカイルザークへと説明をしていた。
そうそう『龍と王子』の絵本は知ってる。
絵本であれば、ね。
(昔からあるお話らしいんだけどね、簡単に言ってしまうと、王子様が自分の国を守護してくれる龍を探して、大冒険をするお話なんだ)
貴族の間ではそれがカードゲームになっているっていうことも、セグシュ兄様から聞いて知っていた。
ただ、昔からと言っても、魔導学園のあった、そう、シシリーが生きていた時代では聞いたことがないんだよね。
(案外、昔でもないのかもしれないね?)
囚われの姫様が出てくる。とかいう展開は全くなくて、純粋に剣と魔法の出てくる冒険物語だから、女の子よりは男の子に好まれる内容なんだろうね。
シュトレイユ王子のうっとり具合を見ていると、前世での特撮や戦隊ものみたいな位置のお話なのかもしれないなと思った。
「ま、実際の龍は……戦闘には参加しないんだけどね」
「ステア…なんで?戦うの嫌い?」
父様が軽く肩を竦ませて笑う。
シュトレイユ王子には予想外だったのか、大きく目を見開くと、悲しそうな表情になって守護龍へと向き直った。
……そうそう『龍と王子』に出てくる龍は、王子を背に乗せて竜騎士のようにして移動や戦ったり、人化して王子と共に勇猛果敢に敵に立ち向かっていくんだ。
まさに良き相棒、と言った感じに。
「随分な誤解が…確かに私は平和主義だけどねぇ。戦うときは戦うよ?……今はその時じゃないってだけだよ?」
「ああ、今はその時じゃない。王子、龍はね、我々がピンチの時にしか、動かないんだよ」
「そうだね。極端な話だけど、私が全てのことに口を出したら、なんでも簡単に進む代わりに、私がいないと何もできない子たちになってしまっても良いかい?」
「それは嫌だけど…」そう返事をしつつもやっぱり納得がいかないようで、曇ってしまったシュトレイユ王子の表情は晴れない。
『龍と王子』の、背を安心して任せられる相棒といった位置どりの龍が、よほどお気に入りだったのか、しょんぼりが止まらないようだった。
「ま、そういう事だよ。龍は力も魔法も人よりはずっと強い。知識も豊富だ。手を貸してもらったら心強いだろう。反面、それに慣れてしまったら、私たちは龍の助けなしでは何もできなくなってしまう」
「……それは、私の望むべき状態じゃあないからねぇ」
「つまりだ、逆に言えば、我々ではどうしようもなければ、助けてくれる」
守護龍の態度が冷たいというわけではないんだよ。と、説明しているのだけど、まだシュトレイユ王子には理解が難しいようで、一度曇ってしまった表情は、なかなか元には戻りそうになかった。
でも、実際のところで、すべてにおいて龍が手伝ってくれるって、それは平等な立場ではない気がするんだよね。
だって『手伝って』くれているんでしょう?
それって平等であるとするならば、王子は龍に何を『手伝って』あげたらバランスが取れるのかな?
「どうしようもない状況……」
「できれば、そんな状況には、なりたくないものだがね」
完全に俯いてしまったシュトレイユ王子の隣で、ハッとした表情になったレオンハルト王子の呟きに、ルークが答える。
なりたくないよね。
つまりそれって、全滅一歩手前とか、そんな状況の事でしょう?




