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禁呪に禁忌に龍に竜で、どうしよう。

 



「……それでも、その精霊(ライト)の言う通り、生きて、いるんだろうな。『仮初の命』あたりで」



 生きてる!生きてない!の堂々巡りになりつつあったところで、父様がポツリと『他にも方法があるぞ』と独り言のように囁いた。

 その言葉を聞いた途端に、ヴィンセント兄様が汚いものでも見てしまったかのように、顔を顰めている。


 セグシュ兄様とフィリー姉様はきょとんとして父様を注視していたので、多分、知らないのだろう。


 ヴィンセント兄様は、治療院の仕事関係で知っていたのだろうか?

 母様に至っては、にこやかな笑顔を崩さずに、しかし小さく一つうなずいていたので、ヴィンセント兄様同様『仮初の命』に関しての知識があるようだった。



「仮初の命、ですか?」



 レオンハルト王子が真剣な面持ちで、父様を見つめていた。

 シュトレイユ王子を助ける手段の話で出てきているものだから、一つの単語も聞き逃さないようにと、見ていて痛々しくなるほどに真剣に。



「そうだ。これも禁呪で禁忌となっている術式の一つだが……」


「禁忌を使った時点で、生身の身体を捨てているのだから、それはもう、人ではないのですけどね。禁忌の呪法で術者の意識は遺されるから『生きている』と誤認されることになるのよ」



 紅茶を片手に、さらりと説明する母様。

 禁忌や禁呪と言われている魔法に関しては、その時代ごとに解釈も利用法も変わるからシシリー(むかし)の知識で通用するか怪しいところだったのだけど。



(でも、基本的に『倫理的にどうなんだ?』と思うことが、禁呪にされているのは、いつの時代も変わらないからさ、つまりはそういう事なんだろうね)



 ……人の命や人体を材料に使った魔法を禁呪としている。

 それは、シシリー(わたし)の死因のようなことも、シシリー自身には何の利も無いが、それでも魔法であれば禁呪だ。

 あの時は、とにかくその場にいたカイルザークや、子供を助けたいと必死で、精霊(フレア)に『自身を捧げてしまった』というのが実際だから、グレーな感じで禁呪ではなかったのだけど。



(って、父様はさっきからずっと、私の目の前にひたすらお菓子を持ってくるのだけど、さすがに食べきれないからね?!)



 それでも、勧められると思わず受け取ってしまうので…カジカジと小さく端を齧りながら説明を待ってみる。



「……まぁ、簡単に言えば、そうだなぁ……うーん…うん」


「ヴィンセント兄様、説明しようとして失敗しないでくださる?」


「小さい子に説明するのって、思ったより難しいんだよ!」



 ジト目になりつつフィリー姉様がため息を吐くと、手にはめられている指輪を子供たちに見えるように腕をあげると、口を開く。



「そうねぇ…ここに指輪があるわね?禁忌の呪法で私の魂を…この指輪に封じ込めるの。そうすると、私の身体が死んでしまっても、この指輪として、私の意識は生き続けるわ……でもそれって、人なのかしら?そういう感じの禁呪よ」



 あぁ……と、思わず唸りそうになった。

 これは『隷属の首輪』の魔法も併用すると、ある意味、不老不死になれるものが作れる。


 装着した者の意識を操ったり、乗っ取ったりするのが『隷属の首輪』だ。

 その司令塔が主人となる人ではなくて、首輪本体の中に主人となる人格が存在する。


 シシリーが(むかし)、そんな魔道具(マジックアイテム)を見たことがある。

 俗にいう『呪われたアイテム』とか言われたりするわけですが。

 今世(いま)も稀に、古代の魔道具(アーティファクト)として、出土することがあるのだそうだ。


 確かにそれなら、ゾンビあたりが『仮初の命』を装着していたら……死んでるけど、生きてる状況になるのかな?



「と、なると……早急に『監獄』への再入場が必要になるんだが」



 父様や兄様たちが、ちらりとシュトレイユ王子の眠っているベッドへと視線をやる。

 ひたすら眠り続けているシュトレイユ王子。そばには心配そうに見つめ続けるソフィア王妃。


 普通の呪い部分の効力を何とか抑えてあの状況だから、戦力が足りないから後日、と先延ばしにして良いような状況ではないのは明白だった。


 ただ、問題もあって……。



「魔物化していたのが、高ランク変異してるんだろう?それは私たちで倒せるのかい?」



 そう、どう考えても倒せそうにない魔物に見えた。



(できれば闇の妖精たちが『宝』と呼んで、縁のあった者たちから今も大切にされている存在を、本来眠る場所へと返してあげたいのに、出来そうにない)



 早く早く!そういう気持ちは強くあるのに。


 あの時のメンバーは子供だけだった。

 それを理由にしたとしても、ここにいる大人たちを総動員したところで、無理なものは無理だと思う。

 そう確信できてしまうのが辛い。


 今は一部、先に返すことができた宝たちを、妖精たちが大事にそれぞれの場所へと移動させている所だからと、こちらの手伝いに来てくれているヘルハウンド…今は黒い子犬の姿だけど。彼にもこのまま放置になってしまうようでは、申し訳ない。



「あれは…無理かな。ルナが簡単にのみ込まれそうになってたくらいだから。あ、ライトは特に無理だからね」


『〜〜〜〜っ!!』



 肩を竦めながら、カイルザークにさらりと否定されたライトは、地団駄でも踏むように悔しそうにソファーで足を強くパタパタと振っていた。



「父様……大型の地の竜のような形態をしていました。室内なので逃げ場もないし、人間では、厳しいと思います」


「……竜か、竜ね…。こっちにも龍、いるだろ。頼んでみるか」



 そういやメアリローサには、守護龍がいるんだもの、頼める…のかな?

 シシリー(むかし)の守護龍も……まぁ、メアリローサの守護龍ではなくて、かつての中央公国の守護龍だけど。


 大掛かりな魔物討伐の際には、必ず同行していたと聞いたことがあった。

 ただ、交戦的ではない龍だったようで、率先して戦うということはなかったらしいけど。


 それでも国を護るために同行してくれていたんだ。



「怪獣大決戦…!」


「セシー……怪獣じゃ無いからね。ふふっ」



 おっと…思っていたことが口から出ていたようだ。

 龍と竜の戦いだもの。激しいんだろうなと、思わず口から出てしまった言葉。

 父様にしっかり聞かれて、笑われてしまった。


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