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姉様的可愛らしさの基準。

 



「そもそもねぇ、弟とか妹って言ったら、少なくとも、可愛くなくちゃダメなのよ!セグシュ、今のあなたは…可愛いかしら?」


「いや……その基準自体がおかしくない?そもそも、野郎に可愛さを求めないでよ!」



 えっと、どうしよう。

 フィリー姉様に、頬をむにむにされたり撫でられたり、可愛がられてるのはわかるんだけど、セグシュ兄様を罵倒しながらというのはちょっと……。

 いいこいいこ!と撫でられても、全く落ち着きません!


 はぁ。と、フィリー姉様のあからさまな深いため息が頭上から聞こえてくる。



「ほらねぇ…。昔はさぁ〜『ねえさまっ!』って目をキラキラさせながら、私の後を追ってくるような、それこそ天使みたいに可愛らしい子だったのに。どうしてこんなに…生意気で、むさ苦しくなっちゃったのかしら」


「いくつの時の話ですか……。人は成長するんです。もう少し、現実を見て?」


「もうちょっと、良い方向に成長すれば良かったのに……」



 ちっ。と、小さく舌打ちのような音まで聞こえてたりして……って、フィリー姉様っ?!


 助けを期待して、ヴィンセント兄様へと視線をやると、残念ながら書類に集中していて、こちらの状況に気付いていないようだった。

 他の子達は!と周囲を見渡すと……そもそも誰も席についていなかった。


 レオンハルト王子はシュトレイユ王子のベッドのそばに置かれているサイドチェアに腰掛けて、じーっと様子を観察しているようだったし、エルネストとカイルザークに至っては、じゃれあいの続きが始まってしまっていた。


 ……ただ、今回は不思議と、エルネストの方が優勢で、ぽんぽんと掴まれては投げられてるカイルザークの姿が見れた。



(少し休憩したとはいえ魔力切れ直後だし、まだ本調子じゃないのかな?)



 とりあえず、このそれぞれにカオスな状況をなんとかならないかな?

 そう思いつつ、フィリー姉様とセグシュ兄様との言葉のじゃれあいに挟まれた格好で遠い目になっていると『避難所』の入り口のドアから、ノック音が響いた。







 ******







「母様っ!」



 サロンの奥、シュトレイユ王子の眠るベッドから、ドアへと向かって駆け出すレオンハルト王子。

 ドアの向こうから現れたのは、真っ青な顔の王妃と、いつものように、にこやかな母様。

 母様は治療院のローブ姿だから、仕事中だね。

 シュトレイユ王子や私の呪いの件での王妃の付き添いといったところかな?無事なのが確認できてホッとする。



「おかしゃま……」



 声をかけようとして、思わず躊躇してしまった。


 ……だって、治療院の装束だったから。

 仕事中だもの、邪魔しちゃダメかな…と、躊躇していると、フィリー姉様の拘束が緩んで背をポンと押された。



子供(ちび)が遠慮なんかしてるんじゃないわよ。セグシュ(・・・・)に先こされるわよ?」


「は?どうして僕?!」


「あら……どうしてかしらね?入寮前日まで(ずーっと)『母様と一緒じゃなきゃ寝れないっ!』って、泣き喚いてたのは…「ぁああああっ!もうっ!!」」



 フィリー姉様に「早く行け」と背を、今度は強く押された。


 ……セグシュ兄様の幼い頃って…可愛かったんだろうなぁ。

 頬を赤らめながら、どうにかフィリー姉様の言葉を止めようとしているセグシュ兄様の反応を見て、思わず笑ってしまうのだけど。


 途中、予想外の来客にじゃれて絡まったまま動きを停止して、王妃と母様と見つめているカイルザークとエルネストの姿にも、笑ってしまった。



(カイルザークってば、本当の子供みたいなんだもの。いや、身体は子供なんだけどさ)



 セシリア(わたし)と再会するまでは、20代の青年だった。

 そのまま眠り続けて、起きたら……身体が今の姿(ようじ)に縮んでしまっていただけで、意識や性格までは幼児退行しているはずではないのに、ね。


 それなのに仕草や行動が、時折、本当の子供のように見えてしまう時がある。

 身体が縮むと、心も引っ張られてしまうのかしら?不思議だよね。



 母様へ近づくたびに、無意識に、早足になり、駆け足になる。


 母様もわたしを受け止めるように手を広げて、腰をかがめてくれていたのだけど。

 直前でレオンハルト王子が、今にも泣き崩れてしまいそうな悲しげな表情の王妃様にぎゅっと抱きしめられているのを目にして、ピタリと歩みが止まった。


 ……仕事中だった!

 フィリー姉様が良いって言っても、セシリア(わたし)は母様とお約束してるもの。



「おかしゃま……今は」


「あら、今は(・・)仕事前よ。大丈夫。良い子ね」



 ふわりと、浮かべていた笑みが一層強くなった気がした。

 ゆっくりと母様に近づくと、そのまま抱き上げられてしまった。

 私と同じ色味の淡い桜色にも見える銀髪がふわりふわりと視界で揺れる。



「えらいわね!いっぱい頑張ったんですって?……今も、あなたの精霊が頑張ってくれているから、王子は無事なのだと聞いたわ。ありがとう」



 父様もハンスも褒めてたのよ?と、母様に間近で囁かれて、何故か視界が歪み始めてしまった。

 泣いてる場合じゃないんだけどなぁ……。

 母様の抱っこの安心感は最強だと思う。

 多分、いや、かなり重いと思うけど、ずっと抱っこされていたいと思ってしまう。


 あらあら。と、小さく笑う声が聞こえて、顔を隠すように抱え込まれてしまった。

 泣きそうだったの、見えちゃったのかな?


 少しだけ……そのままギュってしててもらおう……。

 涙が止まるまで。

 ギュってしててくれるだけで、すごく安心するんだ。







 ******







「我が子が少しずつ蝕まれていたなんて…」


「はいはい、それはもう何度も聞いたからね。まずはその呪いをはずしちゃいましょう?泣く前にやることがあるでしょう?」


「そう…ね」



 王妃と母様がシュトレイユ王子の眠るベッドのそばで、その様子を確認しつつ会話をしていた。

 学生時代から仲が良かったそうで、2人だけになると敬語も何も無しになるって、母様の寝物語でよく聞いてたけど、本当みたい。



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