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色々と酸っぱいね。

 


 笑顔がだんだんと、ニヤリ笑いになっていくのは気のせいだろうか……。

 あ、違うねこれ、微妙に笑いを我慢してるのかな?



「ああ、桃を見つめながらどんどん怖い顔になっていくから、食べたかったのかと…ふっ」


「!!!あ…違っ……でも、美味しいから、良いかな〜えへへ」


「どっちだよ……」



 結局笑われてしまった。


 ま、いっか。

 良いって事にしとこう?レオンハルト王子も笑ってるし。

 心配事がたくさんだけど、こうやって自然と笑えるようになってよかった。

 なんて事のない当たり前のことだけど、レオン王子には、それすら許されなかったんだから。



(……にしても、完熟の梅とか桃とか、メアリローサは南北でずいぶん気候のズレがあるんだなぁ)



 レオンハルト王子の桃を全部奪ってしまう勢いで美味しかったので、ルナに桃のおかわりをお願いした。


 ていうか、王子様に給仕させるとか、とんでもない話だから!







 ******







『ごめんよ〜桃は夜のデザートだから、今出せるのはさっきので終わり。夜まで待って?……代わりにこっちをあげる』



 桃をお願いしたのだけど、ルナの運んできた可愛らしい皿に乗せられてきたのは、真っ赤で小ぶりな桃のような……。



「バタンキュー!」


「ばたんきゅう?」



 食事中だったレオンハルト王子が、はっと顔を上げて、素っ頓狂な声で私の言葉を復唱していた。


 バタンキュー!大好きなんだ!

 赤い実に手を伸ばして、そのままかぶりつく。


 ついた後で……そういやこれの食事マナーってどうするんだろう?

 やっぱり、手で食べちゃまずかったかな……?!と、焦る。



『……それ、プラムだから。王子、バタンキューは古い地域訛りです』



 大きくひと齧りした後で、動きを止めると、フレアが呆気にとられたような表情で、大きくため息をつきながら小皿と手拭きを持ってきてくれていた。


 え!バタンキューじゃないの?!と、ルナに聞こうと姿を探すと、シンク前に立ち、すでに洗い物を開始してしまっているようだった。

 ……その背が、どうみても笑いを堪えるように、ぷるぷる震えているわけですが。


 とりあえず不思議そうな顔で固まっているレオンハルト王子に聞いてみる。



「これ、バタンキューって…言わない?」


「言わない」


「じゃ、スモモ」


「言わない」



 あれあれ……。

 せめてスモモは、言うよね?!



今は(・・)言わない』


「今は……」


『バタンキューは、かなり古い言葉だね。ハッタンキョウとかバタンキョウという呼び方をする地方もあったけど……』



 あ、はい、失言でした。


 前世(にほん)でも…そういえばそうね、私が子供の頃くらいまでは近所の八百屋さんに『バタンキュー』とか『スモモ』って書かれて、ザルに盛られて売られてたんだけどね。

 でも、言われてみれば大型のスーパーでは『プラム』って書かれていた気がする。



『ちなみに巴旦杏(ハタンキョウ)って、アーモンドの仲間にも同じ名前のがいるけど、あれは別物ね。どっちも木だし花も実の形も似てるけどねぇ』



 そうそう、どっちもバラ科…プラムはスモモ属。って、そういえばスモモって呼び方も最近聞かなくなってたかも。

 そして、アーモンドはサクラ属。桃とか梅の仲間だよ。

 と、頭の中で考えつつ、そうか『バタンキューってこっちでも古い言葉としてなら通じるのか』と、違う方向で感心をしていた。



「セシリアにはよほど個性的な講師がついているんだな…僕にもそんな講師達であってほしかった」


「……講師?」


「あぁ、星詠みが言ってた『側近』達だ。ずっと一緒だったのにな。彼らの信頼は……得られなかったらしい」



 そう言うと、レオンハルト王子は寂しげに視線を伏せてしまった。


 星詠みの姫…クロウディア様がレオンハルト王子に詠んだ『良くない側近』の事になるのだろうか。

 側近って文字通りに側仕えだものね。

 年齢的にも講師も務めていたのだろうね。


 セシリア(わたし)の側近という意味ではセリカの事だ。

 セリカに裏切られていたとしたら……イヤだという感情以前に、絶対にあってはならないし、それが本当なら、そのままずっと人間不信になりそうだ。



「難しいね」



 どう反応して良いのか分からずに、ポツリと呟くと、そのままプラムを食べることに専念することにした。


 正直なところ、これはレオンハルト王子自身の人望云々が問題じゃない。

 子供の家庭教師は、親が選ぶし、雇うものでしょう?

 完全に大人側の人選ミスだ。



『ほらそこ、しょぼくれてないで、それ食べ終わったらサロン戻りなさいよ〜』


「はぁい……」



 フレアが『あっちいけ、しっし!』と言わんばかりに、手をひらひらと振りながら、笑顔で声をかけつつ王子の顔を覗き込む。


 さっきまでは笑っていたのに、フレアの視線の先のレオンハルト王子は、泣いてしまったのかと焦るほどに、顔を真っ赤にしてぎゅーっと目を瞑っていた。

 フレアはその様子を見ると、声を出して笑い始めてしまった。



『あ…王子、渋い顔してるね!あはははっ。プラム、初めてだったのかな?…それ、実は甘いんだけど皮は酸っぱいから、苦手だったら皮をお剥きしますよ?』


「……大丈夫。慣れたら美味しい」



 ……あ、酸っぱかったんだ。

 予想外の酸っぱさに、顔を思いっきりしかめていただけらしい。

 あーびっくりした。



「セシリア……?あ…プラム」



 久々に見たレオンハルト王子の真っ赤な顔に、笑いを堪えていると、エルネストの声が聞こえた。

 ていうか、今笑ったら口からプラムが…!

 鼻からかも?大惨事だった。



『ああ、エルも好きなの?……じゃあサロンに運ぶから、座って待ってなさい〜』



 フレアによって、目の前に置かれていたプラムの皿が回収されてしまった。

 サロンで食べろってことらしい。

 今、齧っているプラムを食べ終わったら、移動かなぁ。


 大人ならふた口み口で食べ終わっちゃうんだけど、子供には意外に大きいのですよ。

 食べがいがあって幸せだけどね。




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