知らないものは知らないんです。
唐突ですが、構成を少し修正しています。
今回は『282話、行ってきますの準備。』と部分的に同文が並んでしまいます。というか、ここのタイミングの文だったのですよ。
私の表現が足らず、時系列がうまく書ききれなくて、ただ混乱させるだけの文になっていたので修正しました。
(その場にいないはずの人物がいきなり登場しているように読めてしまったので)
いずれ『282話、行ってきますの準備。』部分も直します。申し訳ないです。
なんか変な事言っちゃったかな?言ってないよね?と、みんなの顔を見渡すと、ヴィンセント兄様は呆気に取られた表情だし、フィリー姉様は小さく首を横に振ると、大きく息をはいた。
あれ…呆れてる?
セグシュ兄様に至っては、爆笑中だった。
えーと…セグシュ兄様?
『ゼンナーシュタットは霊獣のようなものだから』って教えてくれたのは兄様でしたよね?
「セ、セシリア……それを聞いたら、ゼンが泣くぞ?」
「ゼンは人化してないだけだから…ほら、完全獣化の獣人みたいなものだから…ね?」
ジト目のようになってしまっているエルネストと、笑いを堪えつつのユージアにまで何故か諭されて……。
でもさ、基本が人の姿の獣人…例えばエルネストとかカイルザークは『人間』として認識してるけど、初対面から毛玉みたいな真っ白もふもふの生き物で、人化って……あ!
「!!…そういえばレイの姿借りてたもんね……!ゼンの人としての姿も……あるんだ…よね?」
「ある!……と思う。見たことないけど」
「ある…んじゃないかな?……僕もレイの姿になったところしか、見たことないけど…」
ユージアとレイのフォローが徐々に自信なさげになっていくのが、ちょっと面白い。
でも、そうだよね、実際に姿を見てないし。
この前だって、大きな猫の姿だったし。
人としての姿って、どんな感じなんだろうなぁ。
生まれたばっかりって聞いてるから、きっと可愛らしいんだろうなぁ。
焦った拍子に、姿を間違えちゃうくらいだもの、思っているよりずっと幼くて可愛らしいに違いない。
「……猫耳ついてるのかな?」
「セシリア〜。ゼンは獣人じゃないよ〜?」
ユージアが何かを確信したかのように、訂正してくるけど、私は『霊獣のようなもの』としか聞いてないもん!
それに獣と名に使われてるんだから付いてるかもしれないでしょ?
「そもそも猫の姿も、セシリアが望んだからでしょう?」
「しょ…そうだっけ?」
「ははっ。そうだよっ!忘れちゃったの?セシーの言う通りに、ゼンが必死に姿を変えてたじゃないか!ふっくく…」
セグシュ兄様はすでに爆笑という感じで、会話も厳しくなっているようだった。
……にしても、それはいつ…っと…ああ!魔力測定会で気を失って、帰ってきて…起きた時かな?
犬っぽくなったりしてたもんね。
「じゃあさ、ゼンの本当の姿ってなんだろう?見たことないかも!」
えっ!知らないの?!と、いうような驚きの顔で、今度はみんなに、見られてる。
知らないよっ!
むしろ、なんでみんなは知っているのか?と、私の方が聞きたいくらいなのに。
表情があまり動かないと評判のルークまでもが、口元に手を当てて隠してたけど、笑ってたよ……。
「無残だな」
「無念、じゃないの?」
「この場合は、無残…だな。ふふっ」
ユージアとルーク親子の会話ですらこれだもの。
何か、1人だけ仲間はずれ感がすごいんですけど?!
ていうか、ルーク。笑ってるくらいなら教えてくれたって良いのに!
誰に聞いても『こういうことは本人に聞いたほうがいい』と、教えてもらえなかった。
(うーん、まぁ種族的なお話って、デリケートだから。そういうことなのかな?)
それでもさ、みんなが知っていて私だけ知らないっていうのは、何かおかしいと思うんだよね。
みんな知ってるんだもん、教えてくれたっていいじゃない?
それもダメなのかしら。
*******
食堂から匂っていた鶏肉とハーブのいい香り。
呼ばれて行ってみれば、予想通り、チキンステーキでした。
というかチキンのほぐし身っていうのかな?
ハーブをたっぷり使って丸焼きにしたチキンを、部位ごとに分けて、ほぐしたり切り分けてそのまま食べるものもあれば、そこからさらに加工されて、サラダに添えられたりスープに入ってたりもしていた。
(個人的には、そのチキンで炊き上げた胡椒の風味の利いた、チキンライスを、卵でくるんだオムライスが美味しかった)
エルネストとユージアは、ひたすらに肉!肉!肉!だったけど。
そして、カイルザークはいつも通り、野菜!野菜!野菜!だったけど。
その極端さに思わず口が綻ぶ。
さて、一通りの食事を済ませて、フレアがお茶を出し始めたタイミングで、ルークとユージアが席から立ち上がった。
そろそろ出発の時間なのだろう。
ダッシュで私も席を立つと、ユージアの前に立つ。
「ユージア!フレアを…ルナを助けてくれてありがとう!」
「……ん?ああ。守るって約束したもんね。まだ全然、力になれてないけど」
私の唐突な言葉に、ユージアは一瞬きょとんとしたが一転、嬉しそうにふわりと笑った。
でも、その目は『突然、どうしたの?』と不思議そうな、そして不安に思うような色も秘めていて、逆に私の方こそ、伝えようとしている事がちゃんと伝わっているのかと不安になってしまう。
「なんでお礼を言いながら、悲しそうな顔になるのさ…」
「早く、戻ってきてね?」
「今回ほどの危険はそうそう無いから、そんなに心配しないで?養成所だって同じ王都の内だからさ、会おうと思えばすぐに会える距離なんだよ。だから、大丈夫」
私と視線を合わせるために、しゃがみ込みながら、ぽんぽんと頭を撫でられる。
10代の姿をとっているユージアは、格好良いという形容よりは、やはり綺麗という言葉が似合う中性的な整った顔立ちをしていて、不揃いに切られているエメラルドの髪がふわふわと揺れている。
その大丈夫って言った場所で、キミは最初の襲撃を受けたんでしょう?
しかも、暗部(殺し屋稼業らしいですよ!?)に10代の姿の情報が出回っているんでしょう?
そう思うと、養成所なんて行かせずに、このまま一緒に公爵家に帰れないかと考えてしまう。
けど、それは本人であるユージアが嫌がってしまうだろうから、出来ない。
でも心配で…と、頭の中で考えが堂々巡りをしていた。
「セシリアは、ユージアの学力を心配してたりね?ほら、卒業しないと、正式に戻ってこれないもんねぇ?」
「えぇぇ。そっち?!」
「……行くぞ」
「うーん……魔法も勉強も完全に置いてかれちゃう前には絶対に戻ってくるから!またね?…行ってきます!」
にやにや笑いのカイルザークに茶化されて、そしてユージアの古傷を見てしまった後から怖いくらいに機械的なルークに急かされて、使用人養成所へと再度送られていった。
今回は公爵家の家令ではなくルークが同伴で。
保護者同伴ってことになるのだろうか?
でも、知ってるんだ。
あれは、ルークが最大級に怒ってるって事。
これだけ怒ってると言う事は、次にユージアに何かあった時、きっとルークは暴走するだろう。
それくらいには、ちゃんと自分の息子を大切に思ってたんだね、と安心…じゃなかった、感心する反面、本当にそのユージアの身が危険にさらされた時、どうなってしまうのだろうかと心配になる。
……ユージアとルーク、2人の姿がドアの向こうに消えて『避難所』のドアが閉まり切るまで、しっかり見送りながら色々と考えていた。