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寝起きと、梅仕事。

 


 ふわりと意識が浮上する。

 しまった!と、焦りながら、きょろきょろと辺りを見渡す。


 ……結構、寝てたような気がするわけだけど、相変わらず私はルークの腕の中だった。

 他の子たちは寝たら、ベッドに運ばれてたよね?!


 じゃなくて……と、まだ、大丈夫。



「あ、セシーが起きた」



 セグシュ兄様の声が聞こえたけど、それより何より、視界のずっと奥の方、子供達が寝かされているベッドに、ユージアが寝ている姿を確認してほっとする。


 1人、2人……と数えていくと、全部で4人…あれ、一人増えてる。誰だ?



 エルネストはルークの隣にいるのが見えるから、ベッドで寝てるのは魔力切れでダウンのユージアとカイルザークとシュトレイユ王子と……レオンハルト王子っぽかった。



(レオン王子は…心労かしら。心配する事、多いもんね)



 ユージアは、起きたら使用人養成所へと戻る事になっていると聞いていたから、絶対に見送るんだと…思ってるうちに寝ちゃったんだよね。


 まぁ、幼児のお昼寝時間だったのだから、しょうがない。

 それと多分、私も魔力切れから完全回復はしていないんだろうね。

 どうにもここのところ、やたらと眠い。


 ひとまず落ち着きながら、ぼんやりと窓の擬似光を見ると、時刻としては、昼か昼過ぎだろうか?

 かなり明るく強くなっていた。


 ああ、一応、時計はこの世界にもあるのだけどね、どうにも日の高さを見て時間を考える癖がついていて…まぁ、平民ならではの癖かなぁ。

 時計が、どこの家にもあるようなものじゃないからね。


 電波時計みたいに全ての時計が、常に正確ってわけにも訳にもいかないし。

 そういう意味でも、日の高さほど正確なものはないという感じでね。



 不意に、ぐいっと顔を蒸しタオルで拭われた。

 ……ん?もしかして、ヨダレでもたれてたのかしら!


 ハッとなって顔を上げると、間近で私の顔を覗き込むようにしていたルークと目が合うと、その誰もが見惚れてしまうだろう端正な顔に、優しげなとても柔らかな笑みを浮かべる。



「おはよう?」


「おは…よう、ございます」



 あ、噛まなかった!

 挨拶と共に、水を勧められた。

 ……そして、さりげなくだけども、やたら口周りを拭かれてるって事はやっぱり、たれてたか!



『……セシリア、大丈夫。ヨダレはたれてなかったよ……大口開けて寝てただけだから』


「ぶっ…フレア……っ!!」


「……」



 フレアが、蒸しタオルを下げに来たついでに、去り際にポツリと呟いていったその言葉に、エルネストが思いっきり吹き出していた。

 思考を読むのはしょうがない、でもさ、返答を周囲に聞こえるようにするのはやめて欲しい…。


 ほら!ヴィンセント兄様が眉を下げて、困ったような変な笑いになっちゃってるよ!

 何か会話中だったのを、中断させてしまったみたいだし!

 恥ずかしいやら、申し訳ないやら……。



(穴があったら入りたい、どころか隠れていたいんだけど、ルークにガッチリと抱えられて逃げられないし、ああああああ、もうっ!!)



 本当、そろそろ解放して欲しいです。







 ********







『エルとセシリア……ちょっと、来れる?』


「いくっ!!」



 食堂へのドアから顔だけ出して、遠慮がちに声をかけてきたルナ。

 脱出のチャンスだ!と思って即答して、膝の上でジタバタしたら、やっと解放してもらえた。

 ……凄く名残惜しそうな顔してたけど、ダメです。



 ダッシュで食堂へと向かうと、作業台の上にころころと大粒の梅の実が広げられていた。



『梅干しを作ろうと思ったんだけど、ヘタが取りきれなくて…手伝ってくれる?』



 二つ返事で、楊枝を受け取ってヘタ取りを始めた。

 びっくりするほどに強い香りを放っている完熟の梅だから、ヘタはぽろぽろと簡単に外すことができた。


 前世(にほん)でもよくやってたんだけど…セシリア(ようじ)の手だと意外に難しかった。

 手に対して、大粒の梅が大きすぎるから、前世(むかし)のように慣れた手つきで手際良く!というわけにはいかなかった。

 集中していないと、梅を傷つけてしまいかねない。


 でも、懐かしいし楽しい。



「僕の……里で、季節になると漬けられてたと…思う。紫蘇は入れるのか?」


『ん〜今回は、入れるやつと入れないのと両方作ろうと思うんだ』



 そういうと、ちらりと背後に置いてあるガラスのボウルに視線をやる。

 濃い赤紫の……って、すでに塩揉みがされている、赤紫蘇が準備されていた。


 紫蘇は、今すぐには使わないんだけどね、塩揉みしておけば保存がきくから、梅と一緒に準備しておくんだ。

 ……前世(にほん)での知識だけど、梅も、紫蘇も市販で入手しようとすると、本当に一瞬しか店頭に並ばないからね。

 気候を考えると、こっちも似たようなものなのかもしれない。



『梅干しって結構刺激が強い食材だけど、エルは食べれるの?』


「ああ、食事によく並んでたよ」



 エルネストが住んでいた地域は、食生活が日本のものと本当に近かった。

 同じメアリローサの国なのに、随分違うんだなぁと二人の会話に聞き入っていた。

 出来る事なら、いつか行ってみたいと思う。


 ヘタを取り終えると、食堂から追い出されてしまった。

 もうちょっと手伝いたかったのに。

 エルネストも懐かしそうに見つめていたけど、素直にキッチンから退室していた。



(……子供が追い出されると言う事は、アルコール消毒中なのかしら)



 梅干が漬けてる間に腐ったりしないように、まずは強めのお酒に晒すんだ。

 あ、漬け方は家や地方によって手順なんかも違ってたらしいし、これが全てではないけどね。

 で、それが終わったら、塩をまぶす。

 そしたら重石を乗せて時折、上下をひっくり返したり、カビなどのトラブルが起きてないかを確認しながら、梅酢が上がってくるのを待つんだ。


 今できるのは、ここまでかしら?


 梅干しになるまでは、まだもう少しかかるけど、楽しみでしょうがない。



「セシリア、今手伝った梅干しっていうのは凄く酸っぱくて、甘いんだ……食べれるか?」


「うん!楽しみ」


「楽しみだな……」



 ちょっと心配そうな顔で聞かれてしまったけど…ってそうか、王都周辺では、見かけない食材だもんね。

 しかも刺激強いし。

 セシリア(わたし)が食べたことがないと思っての、心配なんだね。優しいな。

 確かに食べたこと、ないもんね。


 でも大丈夫、前世では梅干し大好きだったから。

 多分今も、食べれると思うよ。


 赤紫蘇も使うなら、ユカリも作れるなぁ。と、ふと思ってさらに楽しみになった。

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