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side カイルザーク。春は恋の季節だけど。

 




 ……あれから1年が経った。

 面接の時のような大失態は今のところ、おかしてはいないはずだ。


 シシリー先輩は1年間室長代理として過ごした後、魔道学園の院の卒業とともに晴れて今年から室長となった。

 前室長はかなり高齢のエルフで、事実上の定年退職ということなのだそうだが、外見はとても若々しく溌剌としていて、どんなに頑張っても30代程度にしか見えないので、全く実感が湧かない。


 本人は『爺をこき使ってはいかん!』と、事あるごとに高齢であることをアピールするのだが、外見が伴わないので誰も理解できず。

 見事に長く伸ばされた白髪も……そう白髪ではあるのだが、その白髪も艶々と美しく照りを放っており、これもまた全くもって説得力が無い。

 聞くところによると、そもそも生まれつきの白髪なのだそうで。


 シシリー先輩を室長にと推したのも、この前室長の鶴の一声で決まったもので、周囲からの反発があるのでは?年上の研究員たちと揉める原因になるのでは?と色々と心配してみたが、全て杞憂に終わった。



(そもそも、研究員が同年代しか残らなかったんだよな。上級生は全て抜けてしまったし)



 抜けた理由もあまりにも単純で拍子抜けするものだった。


 次期室長の後釜を狙っていたから!というのも一部にはいたのかもしれないが、基本的には「前室長とハンス(ルーク)先輩の双方が、ここの研究室と関係がなくなってしまったから」という事だそうで。

 ……眼福がなくなってしまうのは辛いのだそうですよ?


 そう夢見るようにうっとりと、頬を赤らめて熱く語る先輩……その言葉に同意と言わんばかりに、深く頷く先輩方……そのメンバーは女性だけでは無いのですが!?

 エルフの外見は……性別問わず、そこまで魅力的なものなのかと、呆れるを通り越して、気の抜けたため息しか出てこなかった。



『やだぁ!なんか勘違いでもしてそうだわ!女の子の素敵な人っていうのは「観賞用」と「本命」とがあるのよ!……カイルザークくんも可愛いから「観賞用」にされないように頑張りなさいね?』


『は、はい?』



 意味がわからずに首を傾げていると、親しみを込めた笑顔とともに「やっぱり可愛いわね」と、頭を撫でられてしまった。

 女の子って言ってるけど、頷いてた先輩たちって…メンバーに男性混ざってましたからね?!

 ……余計に訳が分からない。



 ちなみに、ルーク先輩は元々この研究室の研究生…いやシシリー先輩と同じ研()生だった。

 ただ、この研究室と同時に志願していた、騎士団への入団が決まったために、シシリー先輩とは道が分かれてしまった。


 そんなこんなで、先輩たちはそれぞれの希望する研究室へと移動していき、私と一緒に面接を受けた仮研修生たちも、進学とともに正式加入し(のこっ)たのは私を含め2人だけで、さらに今年の仮研修員の応募は0だった。


 その結果に「去年が豊作過ぎただけだよ」と周囲はさらりと笑っていた。

 そんなものなのだろうか?


 前室長は「()ね予想通り!」と満足そうにしていたし、シシリー先輩とともに残った先輩方もさして気にしている様子もなく。

 去るものを必死に引き止める事もなく、新規の勧誘に力を入れる事もなくて、案外あっさりしているものなんだなぁという印象だ。



(まぁ人員の減少でこの研究室が困ることは特に無いのだけど)



 あえて言うのなら、手分けして作業すべき研究があったときに人手が足りない分、時間がかかるか、人を雇うことになるので、予算が少し痛いかな?と、言ったところらしい。







******








 研究室から少し歩いたところで、前方が一気に視界が開ける。


 ここは学園内の中央部に存在している、広大な中庭だ。

 魔導学園自体はその大半を地下施設で構成されているのだけど、ここのように地下にいるという事を、全く感じさせないような様々な工夫が、なされている。


 この広い中庭や、数多く設置された大きめの窓等からの光源もその一つだ。


 中庭をぐるりと囲むように、各施設の窓や、ステンドグラスが並び……なぜか真上を見ると、天井ではなく青空が見える。

 魔法なのか魔道具(マジックアイテム)の効果なのか、人工的な雰囲気を一切感じさせない青空だ。


 青々と旺盛に育つ、芝と牧草、ハーブ群の小道を進み、薔薇のアーチを潜った先にある小さなテラス席に腰掛ける。

 周囲をゆっくりと見渡してから、ひと息つくとテーブルに置かれた、小さな魔道具(マジックアイテム)でもあるメニュー表を開き、軽食を注文する。



(……今は、中庭(ここ)が一番静かな場所だから)



 進学とともに周囲のクラスメイトたちは華やいで、服装までお洒落になって日々を楽しそうに過ごしているわけだが。



(春は恋の季節という種族が多いから、華やぐのは当たり前なんだけど……人族が一番はしゃいでいる印象なのが、とても不思議だ)



 魔導学院という学園内でも成人さえしていれば、そういう色恋沙汰は特にお咎めも何も無い。

 大学部、大学院生に関しては面倒な事に、さらに盛んになる。


 なぜなら、家柄や血筋等にうるさい、貴族の子息がほぼ存在せず……本当の意味での身分差別のない環境になるからだ。

 年齢的にも、適齢期になる種族も多くなるのも原因だろうか。


 そうなると、学園内の施設のそこここで、様々な恋愛模様が繰り広げられる…のは良いんだけど、正直邪魔だったりする。

 ドアの前で戯れてたり……ね。


 作業進めようにもクラスメイトがそんな状況だから、効率は地の底まで落ちてしまうし。

 こちらの評価にまで影響するから勘弁してほしい。



(せめて時と場所を弁えてくれ!と、思うのだけど、頭が華やいでしまった人たちには、全く通じないようだし)



 多少の苛つきを感じながら、テーブルに置かれた軽食を摂り始める。


 ちなみに私には、恋の季節は関係ないようだった。

 どうにも気になってしょうがないという『(つがい)』の存在(におい)も学園内にはなかったし。



(まぁそうか、番が同族だとすれば、魔力持ち自体が獣人には稀だから。魔導学園内にいる事自体がまず、無いか)



 あえて気になる匂いというのなら、日に日に強くなっていくシシリー先輩の、花のようなとても良い香り。

 幼い頃から彼女に感じていたこの香りは、どうやら文字どおり『花』の香りだったようだ。



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