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足取りと、協力者。

 



「ガレウス司教とフィア司祭の足取りについてだ」



 セシリア(わたし)とユージアが『監獄』に居たとき、教会では騎士団の強制捜査が入って、2人ともが重要参考人として拘束されたそうだ。

 しかし、翌日にはものの見事に別人にすり替わっていた、と。


 ですよね、だって私たちが『監獄』脱出後に違法奴隷商の荷馬車に放り込まれて、教会へ『籠』へ連れて行かれそうになった時に、その場で出迎えてくれていたのがフィア司祭だったもの。


 そして、その『籠』から数人の少年を救出した時に、錯乱状態のフィア司祭を確保した。

 …したのだけどこちらも、牢に辿り着く前に別人にすり替わられていたらしく、現在も逃走中なのだそうで……ってザル!ここもザルだった…。


 進んで身代わりになろうとする人材がいる事にも驚きだけど、その手際の良さを考えると……。



「騎士団員に内通者がいたからな…まぁ今回の妖精の暴走の件で、その内通者も一掃されたわけだが」



 説明をしながらチラリとルナ、そして黒い子犬に視線をやる。

 力技すぎるような気もしなくはないんだけど、良い方に転がった!と考えちゃって良いのかしら?

 ていうか、やっぱりあの子犬、へルハウンドって呼んでた子だよね?!



「司教も司祭も、2人の現時点の所在は掴めている。ただし、当面は捕えても同じようなことが続くと思われるために、敢えて監視するに留めている」



 ザルすぎて、捕まえるたびに逃げられるくらいなら、常に視界に入れて監視している方が確実ってことですよね。

 それと、捕まえてはいないから十分に注意しろ!ということですか。

 大人ならともかく、常に受け身になってしまう子供達はどうやって自衛しろと?という考えになってしまうのだけど。



「……じゃあ、次は私が話しても良いかしら?」



 何故か少しジト目気味のフィリー姉様が、声をあげた。

 まぁ…うん、理由はわかるんだけどね、その視線を私に向けないで欲しい。

 不可抗力だから。


 現在進行形でルークの膝の上で、何故かルークに給仕をされている…。



(焼き菓子を取るにも手が届かないからね、とってくれるのはありがたいんだけど、自分で食べれるからね?!)



 普段の無表情はどこへ行ったのか、その端正な顔に満面の笑みを浮かべて、焼き菓子を口元まで運んでくれる。


 きらっきらの笑顔で『はい、あーん』ってやつですよ。

 なんだっけ?前世(にほん)にそんな感じの話題になっていたお店があったよね?

 メイドカフェだっけ?……執事カフェとかもあったってテレビで見たような記憶があるのだけど、こんな感じなのかしら?



(衣装が素敵ねぇ。とかイケメンさんねぇ。とかお話は聞いたことがあるけど、これはちょっと恥ずかしすぎる)



 そろそろと膝から降りようにも、お腹のあたりでガッチリホールドされてしまっていて逃げられないし。

 まぁでも……焼き菓子美味しいし、紅茶も美味しいし…ルークの膝の上って、とっても居心地がいいんだけど、ね。


 子供が大人の膝の上に座りたがる気持ちが、今更ながら良く分かったよ。

 優しい温もりと、包まれてる感じが凄く安心するんだよね。


 時折、さらりと黒い艶髪が視界に入ると、頭上に吐息を近く感じる。

 私の髪にキスを落としたり、頭に頬を当てたりしているようなのだけど……。


 その度にフィリー姉様の視線が遠くなっていくのがわかるわけですが、本当に不可抗力だからっ!!!



「まぁいいわ……さて。私、あなた達の姉ではあるけど、結婚していて婚家で暮らしているし、正直あなた達とは接点が無い。こんな髪の色ではあるけど、聖女ではないのがはっきりしているし、婚家だって王家とは全く絡みがないのに……さて、なんで今回の件で無関係っぽい私が『避難所(ここ)』に保護されているのでしょうか?」



 ぐるりと周囲を見渡すように視線を向けたあと、意味深に笑う。

 そういえばそうだ、全く関係ない。

 あれ?と、いう顔をしていると「幼児には難しすぎる話ね」と、くすくすと笑われてしまった。



「私ね……フィアの唯一のお友達なのよ。そして多分、情報源にされている。ま、知ってて付き合ってるんだけどね。って事でこれ。よく見て、覚えておいてちょうだい。そして、これは絶対に身につけないように」


「…これは」



 赤い宝石がはめ込まれた、華奢なつくりのネックレスがテーブルに置かれた。

 いぶし銀のチェーンで豪華ではないけれど、安っぽくも見えないデザインだった。


 ただ、わかる人が見れば、赤い宝石はどう見ても魔石を加工した物だったし、留め金の形がとても頑丈に、簡単に外れない形になっていて…どう見てもお洒落目的に作られた物ではない事が容易にわかる。


 実際、ユージアはこれを見た瞬間に顔色が悪くなってしまったし、カイルザークも私も固まった。

 ここにあってはいけない…魔道具(マジックアイテム)だった。



「ユージアは馴染みがあるわよね」



 ユージアは悲しそうな顔になって、コクリと頷く。

 そう……『隷属の首輪』だった。

 ただし、ユージアが着けていた物よりはずっと簡易な物で、造りも華奢だった。

 言われなければ女性用、もしくは子供用のアクセサリーにしか見えない。



「教会には、これを作れる優秀なお抱えの錬金術師がいたわ。……ま、錬金術師(そのこ)の首にも、これがついてたから、本意かどうかはわからないけどね」



 いや、それ、絶対に不本意だからね?!

 今回の騒動の直前に、フィアから預かったと、教会の人間から渡された封書に中に、手紙とこの『隷属の首輪』が同封されていたのだそうで。


 手紙には、家族が増えたと聞いたのでお祝いだと『新しい兄弟達に着けてあげてね』と……。



「いやぁ、ついに来たか!と思っちゃったけどね。本当は全部で4個あったのだけど、1個は、持ってきた使者に着けてあげたのよ。素敵だから着けて見せて?って。……どうなったと思う?」



 意地の悪い笑みを浮かべる。



「着けたら、ぶつぶつと譫言を呟きながら、まっすぐ教会へ帰っていったわ」



 つまり、エルネストやユージアを諦めていない。


『隷属の首輪』はつけた瞬間から、一方的に奴隷契約を承諾したとみなされて、契約者の意のままに動き出す。

 ぶつぶつ言いながら帰ってしまった、というのは『帰る』事が命令されてたのではなくて、命令を伺いに戻ったという事だ。


 つまり、その程度には拘束力のある魔道具(マジックアイテム)なのだろう。

 同じように作ったって、技術によって発動の効果はピンキリとなる。

 ここまでしっかり発動するのであれば、腕の良い錬金術師までもが、囚われているという事になる。


 そして、彼が囚われている間は『隷属の首輪』が製造され続けていると思って良いのかもしれない。




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