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ダンジョン内に落ちました。

 




「「セシリアっ!」」



 どうやら床が抜けたのは、私の周辺だけだったみたいで、先ほどまで立っていた床がガラスのように透けて天井となり、その上に立つルークの姿が……どんどん小さくなっていく。


 ……落ちながら思ったのは、やっぱりこういう時ってスローモーションのように見えるんだなぁということと、こうやって落ちていくのがわかってるなら、さっさと受け身なり着地体勢を取りなさいよ!という事。


 そして、その思いとは裏腹に、身体は鈍化の魔法を受けているかのように、ぴくりとも動かなかった。

 つまり、そのまま落ちていくわけで……。



(あ、これは、この高さから頭から落ちてるし、終わった。── 終わっ……ってたまるかあああああああっっっ!!)



 うっかりそのままdead end(おなくなり)コースに向かうところだったわ……。

 前世(にほん)ならそうもなり得るけど、今世(こっち)でいちいち受け入れてたら、本当に命がいくつあっても足りない。

 というか今世(こっち)なら助かる手段もあるわけで。



「……ルナっ!!!」


『あ、えらい!ちゃんと呼んでくれた♪』



 とっさに呼んだ相手……そう、ルナね。

 緊急時なのに、なにやらとても楽しげなルナの歌うような声が聞こえると、落下の速度が徐々に緩やかになっていく。



『……っと!もう1人〜。キャッチ!』



 ほっとしかけたところで、ルナが上から急降下してきた小さな人影を掴み上げた。



「カイっ?!大丈夫?」


「大丈夫…ってことにしておいて……あーでも、どうするかな…」


「どうって?」



 鼻歌まじりのルナの腕に絡みつくようにして、憮然とした表情のカイルザークが掴まっていた。

 助けられ方が格好つかなかったからか、不満げな表情なのかな?とか思ってたらどうやら様子が違うようで。



「ああ、セシリアはまだ見えてないのね。この下、ゾンビだらけなんだけど、どうする?」


「は?」


「いやぁ、ゾンビがこっち見上げて、フォークとナイフをかまえて、食事待ちのようにしてる感じなんだけど、どうする?」


「に……逃げ、よう」


「……僕だけならともかく、セシリアは無理だよ。追いつかれちゃう。ゾンビって思ってるより足は速いよ?」



 前回は逃げれたよ?と言おうとして、とんでもないことに気づいた。

 そうだ、あの時は、初対面のユージアの小脇に抱えられて逃げてたのだった。

 セシリア(わたし)の足で逃げてない!


 ちらりとルナを見ると、ルナは軽く首を横にふった。



『僕は…できれば今回は非戦闘員として扱ってほしいかな。到着次第、眷族たちを呼び寄せたい』



 着地直後の避難は手伝うけど……と、口籠る。

 振られちゃったのは悲しいけど、もちろん、眷属の呼び寄せ重視で構わない。

 その方がゾンビを回収していってくれるのだから絶対数が減って、安全になっていくのだし。


 そこで、ふと浮かんだ疑問を口にしてみる。



「精霊すら立ち入りができなかった場所なのに、眷属の召喚、できるの?」



 すると、ルナからは『多分できる』との返答だった。


 どうやら、私たちは急降下しながらも真っ直ぐに、『監獄』の管理者のみが立ち入れる、管理室へと向かっているようで。

 それはつまり、私が『管理者』もしくは『メンテナンスを行える人物』ということが確定であるのと同時に、ルナは『管理者の使役する精霊』として登録されたのだろうから、活動可能のはず!という読みだった。


 実際、王族の『避難所』と呼ばれてたあの部屋も、私が入室してからルナもフレアも出入りが可能になったみたいなので、同じ認識で良いのでは?という事らしい。


 ゆっくり降下していく中、徐々に青白いほのかな光で周囲の壁が浮かび上がって見えるようになってくる。

 目が暗闇に慣れたのかな?と思ってたのだけど、所々に魔石…これは天然物なのだろうか?それとも魔石を模した魔石ランプなのだろうか?

 そんな水晶のような形をした魔石が、ランプのように輝き、あたりを淡く照らし出している。



「あああああ、臭いっ!どんどん臭くなる」


『獣人の嗅覚ってすごいね……』


「今だけは、私は人族でよかったと思うわ」



 カイルザークは手で口と鼻を隠すようにおさえて苦悶の色を浮かべ…って本当に臭いんだね。

 遠目にも涙ぐんでいるのがわかる。

 私の鼻では、まだ全然わからないんだけど。

 むしろ今なら、深呼吸できちゃうよ?



『さて、そろそろ最下層に入るよ』



 ルナの声のが聞こえた後から、ガラリと周囲の雰囲気が変わった。

 ここはとても天井の高いフロアになっていて、下には……赤黒い塊のようなものがたくさん蠢いていた。



「ルナ……あれが、眷属たちの宝であってる?」


『ん〜ちょっと多いなぁ。どこかでつまみ食いしちゃってたのかも。まぁ、足りない分には許されないけど、ちょっと増えるくらいなら……良いんじゃないかな?』



 良いんですか……?

 本当に、良いの?!


 というかゾンビたちの『つまみ食い』で(ゾンビ)が『増えてる』って事はさ……。



「あの中に教会の人間も混ざってる……?」


『混ざっちゃってる。まぁでも特に大きな問題でもないと思うよ?自らの罰に呑まれただけでしょ?…あ、あそこ、ちょうど良さそう!』



 そう冷たく笑うと、天井付近があたかも青空が広がるかのように壁画が施された、そのすぐ下辺りに小さく作られたテラス席のような場所に降ろされる。


 このテラス席のような場所も、飾り彫りの一種なんだろう。

 これが本物のテラス席であれば、奧の方に入場のための廊下があるはずなのに、何もない。

 そもそも椅子すら置けない程の狭い空間なのだ。


 そこへ私とカイルザークの2人を降ろす。



「安全といえば安全だろうけど、臭いっ!!」


「そうかなぁ?…確かになんか変な臭いはするような気がするけど…?甘酸っぱい感じ?」



 私たちもここからは移動できないけれど、逆にゾンビたちもこちらへは来れない。

 まぁ超ジャンプしてくるような、元気なゾンビじゃなければある意味安全そうだった。



『ここにいてくれる?』


「うん」



 ルナがふわりと笑いながら私の頭を撫でて、颯爽と身を翻す。

 フロアを見下ろすルナの顔からは、先ほどまでの優しげな笑顔は消えて、怒っているような、悲しんでいるような、そのどちらでもあるような表情へと変わっていた。

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