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とんだとばっちりです。




「な…何をしてっ!」



 ユージアの上体がぐらりと揺れた。

 ベッドの上に腰掛けたユージアに抱っこされている私からは状況がよく分からないのだけど、ユージアは私を片手で抱くように体勢を変えると、もう片方の手で何かを払うような仕草をしていた。


 カイルザークの仕業かと思ったけど、ベッドの上にこそいたけれど、少し離れた場所へと移動している。


 そうこうしているうちにカチャカチャと金属音が聞こえ始めると、ユージアの焦りが一層激しくなる。



「やめてってば!……何してるのさっ!!!」


「……先ほど、言った通りだ」


「あー…ユージア?なんというか……キミの父親は全て(・・)をひん剥くつもりのようだから……セシリアもいるし、10代(そのまま)の姿だと、いろいろ差し障りがあると思うんだけど、どうだろう?」



 そんな言葉が背後から聞こえた後、ふとユージアと目があって。

 安心させたい一心で、反射的ににこりと笑んで見せると、ユージアの顔はもくもくと湯気が出てきそうなほどに真っ赤に、そして涙目になっていく。



「いやああああ!絶対っ!……絶対ダメっ!」


「ダメって言っても…ほら、脱げちゃった」



 カイルザークの声と同時に、カシャンと、布の落ちる音と一緒にさっきの金属音もした。

 金属音はどうやらベルトのバックルだったようで、確認しようと首を動かそうとすると、ユージアの腕によって、胸に顔が押しつけられるような格好で固定されてしまった。


 ただ……視界の端で、主人を失ったズボンが勝手にベッドの枕元へと移動していくのが見えたので、ルークが魔力を使って脱がしてるらしい?ということは理解した。


 だってルークは、ベッドのそばに置かれているサイドチェアに腰掛けているんだもの。

 流石に手は届かない。

 というか、会話的には場所的に少し離れていたとはいえ、カイルザークが何かしてるのかと思ってたよ。



「って、これは凄いな……」


「だ、ダメだってば!」



 これは凄い。何が?と思わず声の方向を向きそうになって、ユージアの腕に強く頭部をホールドされる。

 強すぎてそろそろ窒息するかも…とじたばたもがき出すと、唐突にユージアの拘束が弱まるとそのままベッドに倒れ込んだ。



「ユージア……?」


「そのタイミングで縮むかな……」



 顔に当たるユージアの胸の感触が……柔らかい。柔らかい?

 拘束もなくなったので顔を上げると、3歳児の(ちぢんだ)姿のユージアを私が押し倒しすような格好で倒れ込んでいたことがわかった。

 顔を真っ赤に紅潮させて、もう、完全に半ベソ状態になってしまっていた。


 ユージアを潰したままなのも可哀想に思って、上体を起こそうとして気付く。

 これ、私が起き上がったら……。



「やめてっ!!」



 案の定だけど、起き上がらないようにと肩を抑えられる。

 そうなんだよね、裸のユージアの上に私が倒れ込んでる状態で、私のドレスで色々と見えちゃ困るところが隠れてるから、私が起き上がってしまうと大惨事に。

 でも、重いよね……。



「この傷、ずいぶん深いね。よく治癒できたね?」


「……腰の傷も、だ。骨まで達していないのが不思議なくらいだ」



 カイルザークとルークの言葉につられて、ユージアの上から起き上がり、その傷痕の状態を確かめたい衝動に駆られて…ユージアの押さえつける力に反抗して上体を起こそうとすると突如視界が灰色に……暗くなった。


 頭から毛布をかぶせられたのだと気づいたときには、浮遊感とともに私はユージアの上から退かされていた。

 毛布から顔を出すとユージアは父様のマントに包まれて、その腕の中にいた。


 今までに見たことがないくらいの、怒りの形相をした父様の腕の中に。



「お前達は……っ!」



 ……この後、父様から生まれて初めての鉄拳、いただきました。

 私、何もしてないよ?

 完全にルークのとばっちりだと思うんだけど、ていうか、完全にとばっちりだよね?!







 ******







『はいはい、早めだけど、とりあえず軽くお昼にしちゃおう?』



 にこにこと鼻歌まじりのフレア。

 料理が載せられたカートを押して、その傍にはレオンハルト王子とエルネストが控えていて、テーブルに到着すると、手分けをして料理と小皿とを並べ始める。



「フレア、カトラリーはどうやって置けば…?」


『ああ、その小さな籠ごと置いちゃって良いよ。使いたい人が自分でとるから』


「そういう…ものなのか?」


『略式だからね。街の食堂とかは、どこでもこんな感じだよ』



 王子が配膳のお手伝いをしているというだけでも珍しいことなんだと思うんだけど、やっぱり配膳の仕方がわからないみたいで、一つ一つ聞きながらの準備となっていた。



(王宮の食事は、やっぱりコース料理的な感じが基本なんだろうね。まぁ公爵家(うち)もそんな感じだったし、当たり前ってやつなのかな?)



 街の食堂とかになると、どちらかといえば前世(にほん)のファミレス風の配膳になる。

 カトラリーも、各々の席にあらかじめ並べて置いてある貴族の食事風景とは違っう。

 ある程度の人数分がまとめられて小さなカゴや、皿に置かれていて、使うものが取っていくというスタイルだ。


 料理も個々で上品に盛り付けられた一品料理よりも、大皿料理を仲間で取り分けて食べるのが当たり前だし。


 シュトレイユ王子はそんな様子をにこにこしながら、ヴィンセント兄様の隣に座って眺めている。

 性格的にレオンハルト王子より活発な感じなのに、静かにしているところを見ると、解呪の身体への負担……大きかったのかな?と少し不安になる。


 身体への負担が大きいということは、つまり、それだけ強い呪いがかけられていたということになる。

 こんな小さな子に、身体への負担がはっきりと現れるような呪い……いつ命を落としてもおかしくはない。


 恐ろしいと思う反面、この事実に気付けなかった大人達は今、どんな気分なんだろう。

 今回は命こそ助かったけれど、それでも悔しいよね、許せないよね。

 ……でも、その感情が大きくなりすぎて、暴走しないように、周囲の人たちはちゃんと止められるだろうか?


 彼らの家族は、王様だから、家族の無事はもちろんだけど、国の無事も考えないといけない。

 怒りに任せて、敵を滅ぼしてはいけないんだ、たとえ被害者であっても、感情に流されずに国としての判断もしなくてはいけない。


 ……やっぱり大人の考えって難しいね。



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