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頑張ったご褒美は。

 



「無事だよ。教会の件からどうなってしまうのかと心配していたが、あの子達のおかげで……以前よりも喋るし、よく笑う」



 父さんの言葉に、ほっとする。

 教会の件……被害者リストの中にセシリアの名を見つけてしまった時は背筋が凍った。


 その数ヶ月前、年初めの儀で久々に会ったセシリアは、お人形さんのようで本当に可愛らしかった。

 話しかけられると、一生懸命に返してくる言葉はすべて舌っ足らずで、それを補うかのように手を大きく振ってみたり、それでも足りないのかジャンプまでして言葉を伝えようと頑張る反応がまた可愛らしくて。



(あまりの可愛らしさに他の兄弟や、その配偶者たちからもみくちゃにされて、憮然としていたけどね)



 私達兄弟の歳の離れた末っ子だったので、兄弟達の可愛がりも激しかった……。

 今まで末の弟という位置だったセグシュですら15歳だ。

 そのさらに下に12歳も離れた妹となっては、まさに溺愛といった感じで。



(少々遊ばれすぎてぐったりはしていたが、食後に出たクランベリーをふんだんに使ったケーキに目をキラキラと輝かせていた。その印象が強い)



 そんな幼子があんな凄惨な場面に遭遇してしまって…しかも一度も一人で外に出たことのない子が、だ。

 ……相当怖い思いをしたのではないだろうか。

 治療院にて治療中となっている『籠』に囚われていた被害者達は、身体こそ回復の方向へと進んではいるが、精神的な問題からの心身への異常に悩んでいる。

 セシリアにだって何か影響があってもおかしくはない状況だった。


 魔法で精神(こころ)までは治せない。


 彼らのカルテによれば、初期治療時の外部協力者にセシリアの名があった。

 気丈にも誘拐事件から合流後、大聖女(かあさん)と共に治療にも加わっていたようだ。


 私はその場に立ち会うことはできなかったけれど『セシリア嬢の助言により、被害者達の状態改善がなされた。これが無ければ、ほぼ助からなかっただろう』そう書かれているカルテもあった。


 あの小さな身体で、いっぱい頑張ったんだろう。

 このカルテは後日『セシリア嬢もまた被害者であり、この一文がきっかけとなって彼女の今後の生活が脅かされてはならない』との配慮から、内容削除の上、協力者の欄にのみ、名を残す事となった。



(母さんは全文削除させたがったようだけど……状況を把握するための報告書のようなものだから、完全削除はできなかったみたいだ)



 それでも、セシリアが頑張っていたことはわかる。

 もちろん、一緒に助かった子……新しい弟もだ。

 だからせめて、これからは怖い思いをしないように、守ってやりたい。



 ……仕事の合間を縫って、セシリアのために精霊使いを探してみようと思う。

 どうしても私には精霊使いというと、精霊と仲睦まじく優しく微笑み合うあのエルフの旅人のイメージが強くて。

 セシリアにも彼らのように良好な関係を築く事ができれば、彼女の精霊は暴走とはいえ、これだけの騒動を起こせるほどの格の高さだ、セシリアにとってきっと強力な助けになるだろう。


 婚姻によって公爵家(いえ)から出てしまっている私が、セシリアの兄として関われる事は少ない。

 会えない分、たくさんのプレゼントを買い与えるのも関わり方の一つだろうが、そんな事よりは、少しでも知識を深められる手段を贈りたいと思っている。


 あー…新しい弟達の分は……会ってから考えよう。



「まぁ、とんでもないトラブルも山盛りなのが……ね」



 そう考えているとポツリと父さんの呟きが聞こえてきて、思わずため息が出てしまう。

 何言ってるんだか。



「子供ってそういうものだって、よく言ってたじゃないですか」


「まぁ…そうなんだけどな。下の子になればなるほど遭遇す(もってく)るトラブルが大くなってる気がするんだよなぁ……今回はついに国まで巻き込んでるし」


「老けるてる暇がなくて、良いのでは?」


「忙しすぎて、むしろ枯れてしまいそうだよ」



 枯れるって…。

 全くそんなイメージが湧かないんですけどね。

 実際、良い歳なのに白髪すら無いじゃないですか。



「はぁ……そう言ってる余裕があるなら、楽しんでますよね?」


「まぁ…な。予想外が少々多いが……ああそうだ!…予想外といえば、すごいモノが見れるぞ?」


「3歳のセシリアが精霊と契約交わしてたり、奴隷の主人になってる時点で、すでに『とんでもない』と言う意味では、凄いですよ……」



 大通りを必死に竜騎士が何度も疾走していく姿を目撃しつつ、裏通りの影にあった、木の樽に腰掛けつつ、楽しげに目を輝かせて話し出す父さん。かなり余裕ですね?!

 絶対に見つからないという自信があるのが不思議でしょうがない。


 せめて見つかってしまった時に対応できるようにと、警戒しなくてはいけないんじゃないかと思うのだが……むしろ私まで木の樽を椅子がわりに勧められてしまった。



「……セシーがいるとハンスが笑う」


「は……?」



 は?と、思わずポカンとしてしまった私の顔が面白かったのか、くすくすと笑われてしまった。

 ハンス先生もエルフなだけあってかなりの美貌の人だが、基本的に無表情だ。

 それでも、透き通るような肌の色も相まって、蝋人形のような冷たい美しさがある。


 表情の変化といえば、眉を潜められたり、ため息を吐かれたりくらいしか記憶にない。

 会話自体も常に抑揚のない、ボソボソ喋りなのだ。

 そのハンス先生が笑うだなんて、全く想像がつかなかった。



「はっきりと笑うんだよ。侮蔑や蔑みではなく、優しく」


「想像つきません……」


「だよな……」



 王族ゆえにハンス先生とは幼少期からの付き合いがある母さんすら、ハンス先生の表情が変わるところは滅多に見たことがないと言っていたくらいだ、

 全く想像がつかない。

 そんな私の反応が面白いのか、くすくす笑いが続く。



「仕事こそ優秀だが、滅多に姿を現さないハンスが、セシーが関わる事になると目の色を変えて、動く。……抱え込んで常に傍にいようとする。凄いだろ?」


「いや…凄いも何も、全く想像できません」


「避難所にもきっと姿を現すと思うよ……っと、そろそろ時間だ。セグシュとフィリーは直接避難所へ向かう事になったから、ヴィーもこのまままっすぐ避難所へ行ってくれ。セシーを…王子や子供達を頼んだよ」


「はい!」



 返事とほぼ同時に、周囲を風が吹き荒れ始める。

 父さんがどこから出したのか、長杖を地に突き立て、シャン!と鳴らす。

 風を集め──次の瞬間、軽い衝撃波が起こると、姿が見えなくなる。



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