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星詠み。

 



 軽い目眩とともに、視界が一気に開けるような感覚があって。

 自分はセシリア(じぶん)だったと、変な納得をする。


 手もちっちゃい。

 白いドレスも着てないもんね。

 あの女性は私じゃない。



「頭、いてぇ…なに…今の……」



 私の契約精霊であるフレアに、イタズラで強制的に視界共有をされたときのような、妙な目眩を、むしろさっきの白昼夢のような現象をユージアも体験していたのかな?

 気になって、聞いてみるとどうやら、一緒に見えていたらしい。



「ルークがいたわ」


「親父を足蹴にするフィリー姉様がいたね」


「あれは、フィリーねえしゃまじゃなくて、クロウディアしゃまだよ」



 クロウディア様。と、教えたところで首を傾げられてしまったので、説明し直した。

 セシリア(わたし)の母様と同名だから、紛らわしいのかもしれないね。

 そんなクロウディア様はどうやら私の死後、すぐにメアリローサ王国(ここ)へと嫁入りされたらしい。輿入れって言うのかしら?


 さっきの白昼夢では、不思議なことに私もユージアもクロウディア様になり切ってしまっていたから気づかなかったけど、ルークが抱えていた杖は…今、ユージアに貸している杖だった。回収してくれていたんだね。



(ルークはシシリー(わたし)の死亡直後くらいに、あの場所に駆けつけたと言ってたもんなぁ…ショックだったんだろうなぁ。でも、私が魔法を使わなかったら、深傷を負っていたカイが死んでいたと思う。カイが敵わない相手に私だってどうなっていたかわからないし。結果的に私以外がみんな助かったのなら、やっぱり満足だ)



 どうやら私は魔物の氾濫(スタンピード)に遭遇してしまったことが死因だった訳だけど、王国自体はこれで滅びたわけではなかったんだね。


 クロウディア様の思考では、あれを『予震』だと言っていた。

 街の一角に雪崩れ込んでしまった『予震』と、その場に偶然居合わせてしまった人のみが被害を受けたようだった。

 そしてその『予震』は、遅ればせながら到着した英雄(ルーク)によって、討伐された、と。


 じゃあさ、あの場に残されたカイルザークやフレアはどういう扱いになっていたんだろうね?

 しかもその場にはルークの話ではシシリー(わたし)(つがい)もいたらしいんだけど?その話も全く出てこなかったし。

 どうなってるんだろうね?


 謎が謎で謎すぎる。

 むうう……と唸りかけていると頭上から、ふっと吹き出す息があたり、ユージアを見上げる。



「……ぶっ、あはははっ。笑っちゃダメなんだろうけどっ!ごめん、あの変態(おやじ)も、ぽっきり折れることがあるんだね…ははっ」


「……そうだな。あれは大切な友人(シシリー)が…亡くなった直後だったからな」


「ひっ!!?」



 突然、さっきまで白昼夢で聞いていたのと同じ、ルークの声が真後ろから聞こえて…ユージアが文字通りびくり!と飛び上がった。

 そのびくりで、片手で抱かれていた私がバランスを失い、落ちかけて……そのまま引っこ抜かれるかのように憮然とした顔のルークに抱き上げられた。


 あ、うん。私、歩けるんだけどな……。



「爵位も騎士団も…辞退したはずなのに、クロウディア様にそのまま文字通り引きずられて、側近として連れてこられてしまったわけだが……」



 決まりが悪そうに頬を仄かに赤らめながら、ボソボソと呟くように喋る。

 その背後では、このなんともいえない不穏な空気を読んだのか、ユージアがそろりそろりと後退すると、他の場所を探しているレオンハルト達を呼びに行ってしまった。

 ……私もすごく居づらいから!置いていかないで欲しい。


 それにしても、相変わらずの美人さんだよなぁ。と思わず見上げながら思ってしまう。



「まあ、見ての通りだ。キミの杖は、私があの場所から回収した。……本当はこの話は、もう少し後にするはずだったんだがね」


「…ありがとうね。自分の死後とはいえ、杖もだけど、その後のことが気になってたの……って、ん?んん?」



 あれ???

 言葉が、普通に喋れる。あれ?あれ?あれ???

 噛んでない。

 嬉しいけど、なんでだ?



『……降嫁したとはいえ、王家の血縁に手をかけるとは感心しないわね?』



 部屋の奥から、フィリー姉様の声が聞こえた気がした。



『セシリア……お久しぶりかしらね?あなた、呪われてたわよ?導師のくせに情けないわね』



 薄暗い部屋の奥から今度はさらに、はっきりと聞こえてくる。

 扉の前に立つルークより先に、部屋の奥に入った者はいないはずなんだけど…。

 あと、セシリアは導師じゃ無いからね?!



『ハンス、久しぶりね?この部屋にたどり着けたということは、随分永い間、私の子供達に仕えていてくれてたのね?』



 ポツリポツリと、言葉を一つ一つ確かめるように発せられていく声。

 思わず身を乗り出すように、薄暗くなっている部屋の奥を凝視しようとすると、ぽんぽんと背を軽く叩かれる。



「セシリア、これは『手紙』だ。姿は…無い」



 見上げる私に、ルークは優しくふわりと笑う。

 でも、見えているかのように話されてしまうから……焦りますよ。

 それとも、これが星詠みならではの力なのかしら?

『未来が見える』つまり今の状況を見て、書いたのかもしれない。



『さて……この魔法の手紙(レター)はさっき見た映像の少し後に描いたから、老後の私と言う事が少し違うかもしれないけど……気にしないでね』



 ふふ…。と楽しそうな笑いが響いたあたりで、背後からヴィンセント兄様、レオンハルト王子とエルネストとカイルザークが走ってくるのが見えた。



『今、ここにはハンスと…私の子孫(こども)達、それに…あら、カイルザーク、あなたもいるのね?』



 随分可愛らしいけれど。と笑っている声色だった。



『これは「星詠み」の手紙よ。……少しだけ個人的な、内容だけどね』



 星詠みの手紙……まぁメモみたいな物です。

 将来(みらい)を見てくる時に、未来とはいえ明日とか明後日くらいなら、特に違和感もないのだけれど、それが数百年単位の差があると…それまで覚えてるわけにはいかないから、紙に書いて残すでしょ?

 それをクロウディア様は、保存紙ではなく、魔法の手紙(レター)に記していたらしい。



『時が来ないと開かないから、ハズレたら一生読まれないかもしれないけれど。読まれているのなら、注告だと思って頭の片隅にでも入れておいてくれると嬉しいわ』




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