自己紹介をしよう。その2
「さて、続きだね。セグシュの次が……この子で、エルネスト、4歳だそうだよ。セシリアは3歳だからその次になるね」
ヴィンセント兄様は隣に座るエルネストを手で示すと、そのまま頭を撫でる。
エルははっと我に返ったように、表情を緩めるとふんわりと笑った。
「さらにその下にもう一人弟が増えて、カイルザーク……この子だね。セシリアと同じ歳らしいんだが、セシリアの方が誕生日がはやかった」
エルネストに飛びつくように隣に座ろうとしているカイルザークに目をやると、にやりと笑う。
「あら、ぎりぎりお姉ちゃんになれたのね!負けないように頑張りなさいよ?」
「…はい?」
何をがんばれと?
思わず返事が疑問形になってしまった。
あ、でもすでに負けてるような気はします。
幼児の成長なんて個人差が大きいし、そもそも種族も違うんだから別にいいけどねぇ。
ていうか、それも知ってて張り合えというなら最初から白旗あげますよ。
獣人に筋力では敵わないし、エルフに魔法で勝てる気もしない。
「……姉さん…セシリアはそんな子じゃっ…痛いから!」
ぱちん!と、静電気で起こる、あの痛みを伴う火花の強いやつが、セグシュ兄様の肩口で踊る。
チリチリパチパチと。
きっと今、セグシュ兄様に触ったら、髪の毛が逆立つんじゃないかな?
「じゃあガレット公爵家は一番上と一番下が双子ちゃんになったのね…賑やかだわ!」
「えっと…そろそろ降りたい、です……」
大興奮なフィリー姉様の腕の中には、ユージアがいまだに捕まったままで、遠い目をしている。
魔導学園に飛ばされた時に、私も思いっきり堪能したけど改めて見ると……やっぱり可愛い!
対比という程ではないのだけど、フィリー姉様に抱えられているから余計に身体が小さく写るので、可愛くてしょうがないのですよ。
「遠慮しなくても良いのよ?ふふ……」
「えっと…姉さん?そろそろユージアは解放してあげて?」
セグシュ兄様にも言われて、フィリー姉様は渋々ながらユージアを降すと、ユージアは逃げるように奥の部屋へ猛ダッシュで消えてしまった。
フィリー姉様はにこにこと上機嫌で、カイルザークの隣に座る。
「3日程度の里帰りをしてくるって言って出てきちゃったのだけど、子供達の安全を考慮して滞在期間を1ヶ月に変更するわっ!」
「嫌な…予感しかしない……」
「あら?セグシュよりは腕が立つわよ?安心していいと思うわ!」
「………」
少し奥まった位置にあるソファーに座り、頭を抱えてしまっているセグシュ兄様。
セグシュ兄様より腕が立つっていうのは本当なんだろうか…いや、これ本当なんだろうなぁ。
フィリー姉様ってどんな方なんだろう?
びっくりするばかりで、どうにも掴めないなぁ。
じっくりお話をしてみたいところなんだけど、当のフィリー姉様は隣に座っているカイルザークに狙いを定めたのか、ジリジリと距離を縮めて……腕が今にも捕獲に動き出さんとしている雰囲気だった。
「子供達の身の安全…?むしろ危険を感じるんだけど…」
「……賑やかだな」
「レオン、これは賑やかじゃなくて、脱線って言うんだよ…話が全く進んで無いじゃないか」
カイルザークの呟きに、レオンハルト王子が楽しげに笑っていたのだけど。
ヴィンセント兄様はすでに遠い目になりつつあった。
そうだ、確かに脱線だ!私も当初の目的を……!と奥の部屋へと足を向ける。
「おっと…!」
ひょこりと入り口から覗き込んだところで、カートを押す人影から手が伸びてきてポンと頭を撫でられる。
大きな大人の手だ。
手の主はルナかなフレアかな?と見上げるとそこには、ドレスシャツにベストをつけた、10代の姿のユージアがいた。
……フィリー姉様に襲われないための対策だろうか?と考えが至って思わず笑ってしまう。
「あれ?セシリアは座ってていいんだよ?」
「えっと……おへやたんけん?」
ま、正直なところで言うと、部屋の構造の他にも、奥でルナとフレアが何をやってるのか、もすごく興味があるんだけどね。
晩ご飯の献立とかも……。
「あ、奥の部屋が気になったの?奥はね、ちょっとしたキッチンと食糧庫と個室になってるんだよ。個室は…メイドとかお付きの人が使うような感じの部屋だったよ」
「じゃ、おてつだいするよ!」
「大丈夫だよ〜。ルナもフレアもいるし、運ぶのは僕が頑張るから、見てて?」
「えぇぇ……」
「一応、執事っぽく、お仕事させて?」
「……はーい」
でも、執事って給仕……するだろうけどメインの仕事じゃないよね?
……まぁいいのかな?
にこにこと楽しそうにカートにお皿やカトラリーを並べているユージアを見て思う。
そういえばユージアって、血塗れだったりラフな服でしかあまり見たことがなかったから、ドレスシャツやベストを着けてかっちりとした姿は、微妙な違和感を感じてしまう。
……似合ってるよ?というか、格好良いし。
エルフだからっていう前情報がなくても、人間としての姿のユージアは十分に端正な顔の部類になると思う。
男性的、というよりは中性的な美しさというのが強い感じではあるのだけど、話すたびに襟元でふわりふわりと揺れる翡翠のような緑の髪もとても綺麗なんだ。
でも……。
「不満そうだね?大丈夫だよ。これ結構面白いんだ……あ、忙しくなっちゃったら『お手伝い』お願いしようかな?」
「うん!」
今は、そんなことより部屋の奥がどうしても気になるのですよ!
でも…今はしょうがない、素直に引き下がることにした。
お腹すいてるし。
ご飯の準備の邪魔はしたくない。
邪魔した罰に、1人だけお預けとかはなりたくないもんね!
……お片付けのタイミングで手伝いながら奥の部屋を見せてもらおう〜っと。