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絶対に無い。




 ヴィンセント兄様の膝の上で、ケーキもいただいたしお茶も……って事でそろそろ私もこのお部屋を探検したい。

 ユージアとフレアが消えた奥の部屋がすごく気になる。

 この部屋自体が古代の魔道具(アーティファクト)だと聞いてしまったからには、その構造も気になるし。


 なんとか降りようとして、もぞもぞもがいていると気づいてもらえたのかそっと解放された。

 そのまま奥の部屋へと足を向けようとしたところで、ユージアが部屋から出てきて、ベッドに向かい、毛布をたたみだす。


 その姿はだぼだぼのドレスシャツ一丁ではなくて、魔導学園の初等科の制服……まぁ、少し大きめかな?と思う程度の子供のスーツ姿になっていた。

 奥の部屋で着替えてた…?フレアが持ってきてくれたのかな?


 って……まだベッドには2人、寝てるからね?

 そう思ってベッドに近づくと、案の定だけどユージアに毛布を奪われて小さく縮こまっているエルネストと、土下座のような格好で小さくなっているカイルザークがいた。

 可哀想だからね?と思いつつも、眉間にしわを寄せながらも寝ている姿がなんだか可愛いくて、思わず笑ってしまう。



「セシリア、もうすぐご飯できるからさ、そこの2人起こしちゃおう?」


「ごはん?」


「うん、そこの部屋で作ってるんだよ〜!フレアが」


「へっ?!」



 予想外の言葉に思わず動きが止まってしまったわけですが、フレアが調理してるの?

 1人で?!

 あの子、料理なんていつ覚えたんだろう?

 いや、その前に食材はどこから調達してきたんだろう?


 ヴィンセント兄様とルナ、レオンハルト王子の会話を耳に挟みつつの行動だったはずが、今のユージアの一言で、聞いてた会話が全部吹っ飛んでいってしまったわ……。



『セシリア大丈夫だよ!人死にが出ない程度には作れるようになってるからっ!』



 奥の部屋の入り口からひょこりと顔だけを出して、フレアが笑って言う。

 それ、死なない程度なら食中毒も有りって言うレベルじゃないでしょうね?!



「……ちょっと変わってたけど、美味しそうだったよ〜?そこまで怖がらなくても大丈夫なんじゃないかな?」



 食べるのが私だけならまぁ……でも、レオンハルト王子やヴィンセント兄様も食べるのなら、体調崩す系はご遠慮願いたいんだけど。

 あ、私もお腹を壊すようなものは食べたくないです……。


 背中に薄寒いものを感じていると、この部屋の入り口のドアへと近づく足音があって、びくりと動きが止まる。

 小さなノック音の後、開いたドアの向こうには……。



「ここは王族だけが使える、というわけでも無いんだがな。……正確には『私』も入れて…しまう。さて、話の途中に、すまない。報告に来たのだが、いいか?」


「っと、そうでした。ハンス先生。お久しぶりです」



 ドアの向こうから現れたのはルークだった。

 ヴィンセント兄様の声に浅く頷くと、レオンハルト王子と兄様の座っているテーブルを囲んで設置されているソファーのひとつに腰をかけた。



「まだ寝てる者もいるようだが、起きたら伝えてやってくれ」


「この2人……寝てるけど聞こえてるみたいだし大丈夫だよ〜」



 にやにやしながらユージアがティーポットとカップ、そして新しい焼き菓子を乗せたカートをフレアから受け取ると、テーブルへと運ぶ。



「えっ?」


「獣人ってさ、身体は寝てても頭は起きてる時があるんだって。今、耳動いてるでしょ?こういう時は一応寝てるけど、話はしっかり聞こえてるっぽいよ?」



 ベッドに登って、起こすのはどうにも可哀想だったので、薄めの毛布をかけ直しつつエルネストの耳をツンツンつつく。

 ぺし!と音がするくらいに素早く耳が私の指を払うように逃げて…戻ってきた。

 狼って…犬か猫かっていえば犬の仲間だよね?耳の動きはどうも猫っぽい。



(髪と同じ色のケモ耳は温かくてふわふわで、払われてもぺしぺしされても全く痛くないのだけど)



 痛みなんかより柔らかな毛と温かさがむしろ幸せで、頭を撫で…てもいいよね?寝てるし。聞こえてるだけだもんね?

 きっと抵抗はされまい。

 額から前髪をかきあげるようにして後頭部へと向かってゆっくり撫でると、淡い藤色の髪の中から、思いっきり眉間をしわしわにしてまで寝ているエルネストの顔が見えて思わず笑う。


 このまま繰り返していると、起きたエルネストにくすぐりの反撃をくらいそうなので、次はカイルザーク……と思っていると、むくりとカイが起き上がった。

 起き上がった、のはいいけど眼が開いていない。

 座ったまま微妙にゆらゆらと上体が揺れている。



「あれは…起きてるのか……な?」


「カイ…?おはよう?」


「ん〜……」



 そんな様子をみながらなのか、ヴィンセント兄様の今にも笑い出しそうな声が聞こえてきた。

 カイルザークの寝起きの悪さは……凄いからね。

 このまま素直に起きてくる気はしない。



(あぁ、でもユージアのいう通り、しっかり耳は動いてるなぁ)



 確かに耳はぴこぴこと(せわ)しなく動いてる……猫みたいなものなのかな?と理解する。

 猫も睡眠で身体はしっかりと休ませておきながら、こっそりと頭だけ起きていて、すぐにでも狩モードになれるように常に情報収集をしている寝かたがあるって聞いた事がある。


 実際、前世(にほん)で一緒にいた猫も熟睡している時は耳もしっぽも完全に脱力して動かないのだけど、いつものお昼寝程度だと、寝てるはずなのに耳としっぽだけはしっかり動いてたんだ。

 そしてそういう時は必ず、私がオヤツを食べようとすると「なになに?」って颯爽と起きると、ついてくるのだった。



「さて…反乱は鎮圧された。城の者達は無事だ。もちろん王も王妃も、宰相夫妻も無事だ」



 ルークの声が聞こえ始めると、空気が少し重く感じてしまった。

 ただ、思っていたよりもずっと良い情報だったので、ほっとする。

 反乱って聞いたから国王やレオンハルト王子たちのことを心配してたけど、そもそもそも王様のそばで緊急時には守って盾になるのが父様母様の位置だから。

 応戦しての負傷とか、無いよね?


 セグシュ兄様の時のように、魔法で治せても後遺症が残ることだってあるのだから、魔法自体が間に合わずに手遅れになる場合もあるのだから……多少怪我をしても絶対に大丈夫、なんてことは絶対に無い。




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