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寝袋。

 



「ゼン……君は何を目指しているんだい?」


「寝袋……らしい、です」



 眉間をおさえたり、頭を抱えたりして表情が忙しい父様とゼンナーシュタットの会話を見ている。

 ルーク先生は、何かを紙に書き込み魔術師団員へと指示を出している。

 レオンハルトは……落ち着いている。


 ゼンナーシュタット…初対面ではレイと名乗ってセシリアの兄のように傍にいた。

『レイ』が仮初の姿だったと知っても、同年代だと疑わなかった。

 ……実際はこのメンバーの最年少だったわけだけど。



(まさか生まれたばかりとはね……)



 それでもこのメンバーの中では、一番しっかりしているように見える。

 セグシュ兄様『面白いやつ』だと言っていて、カイルザークは『バケモノ』だと言っていた。


 僕から見たら……?

『めずらしい霊獣の赤ちゃん』とセシリアが言ってたし、魔力が確かに高いのもわかるし……でも、僕にとってはレオンハルトやシュトレイユ、セシリアやユージアを含めて、初めての友達だと思ってる。



「…ん?カイまで寝てるのか……見事に3歳児組は撃沈だな」


「カイは、意外ですか?」



 父様は、ゼンナーシュタットの腹と前足の…ちょうど脇の下あたりからはみ出している足に気付き、長い毛をかき分けるように広げると、毛に埋もれて小さく丸まって寝ているカイルザークの頭が出てくると、優しく緩んだ笑顔になって頭を撫でている。



「あぁ…なんだろうな、初対面からずいぶん大人びた子だから。魔法も……教えなくても使えてるみたいだし……『大人びた』というよりは、大人…そうだな、この子達の成人した兄達を相手にしているような感覚になるんだよ」



 熟睡だなぁ。と、呟くと小さくため息を吐く。


 カイルザーク……本家筋の子だと思うのだけど、本当に何者なんだろう?

 どうにも魔力の色(におい)が微妙に違う気がする。

 ルーク先生から、僕の種族の『上位種』は魔力特化型なのだと聞いたから、カイルザークも僕と同じような結果になるのだと思っていた。


 実際そうだったのだけど…僕の値を全体的に上回っていた。

『覚醒』も関係しているのだろうけど、僕は水、カイルザークは土の他に光まで持っていた。

 実際に土の魔法を使って見せていたし……魔法、どこで覚えたのか?

 わからない事だらけだ。


 一つだけ確実にわかっている事は、この調子だと今日も宿題山盛りで、授業は切り上げになるんじゃないかなというところかな。



「エルも大人びてると思う部分があるから、種族差なのかもしれないが……」



 ……人族よりは獣人は早熟らしい、という事は聞いたことがある。

 5歳になれば簡単な狩りでは戦力にもなれる。

 人間の5歳は、身体の発達が遅いから家事の手伝いがいいところだと。


 なので僕は5歳を目安に、里から追い出されそうになってたわけだけど。



「さて、ゼン、申し訳ないんだが子供達を運ぶお手伝いをお願いできるかい?……」



 父様の声に『やっぱり…』となる。

 今日も宿題山盛りですか。


 ルーク先生は書類やら、魔術師団員への指示が終わったのか、こちらへ歩いてきている。

 セシリアとカイルザークがゼンナーシュタットのもとへ移動した後、ルナに続いてフレアまで数人の団員を何処かへ連れ去ってしまった。


 一部騒然となったが、少しすると何事もなかったかのようにルーク先生が指示を出し始めて今に至る。

 セシリアの杖は……フレアが回収したようだ、とルーク先生より伝えられた。



「暖かくなってきたとはいえ、そろそろ寒くなる時刻だからね。大人(こちら)の都合で勉強中断した上に、風邪までひかせたとあっては…ね」


「身体のサイズを大きくするので、背に乗せてもらえますか?…レイも」


「良いのかい?」



 ゆっくりとゼンナーシュタットが立ち上がると、芝生にはセシリアとカイルザークが転がっていた。

 父様に抱かれたままになっているシュトレイユを先に乗せるようにと、ゼンナーシュタットは伏せのような姿勢をとる。



「宰相、レイも任せたほうがいい……何か、来る」



 王宮内でルーク先生が警戒する『何か』の正体を見極めようと、レオンハルトと一緒に周囲を警戒してみるけど僕達には、気づくことができなかった。

 ただ、父様はルーク先生の言葉に従い、シュトレイユをゼンナーシュタットの背に乗せると、続いてセシリアとカイルザークを抱え上げては、乗せていった。



「『何か』とは、つれないわね」



 女性の声が辺りに響いた。

 聞いた事のない声で、しかも頭上から聞こえてくる。


 びっくりして見上げると、気配は上ではなくて目の前にあり、ゆったりとしたドレス姿の美しい女性がルーク先生の隣に忽然と姿を現していた。


 その女性の手はドレスの裾に隠れるようにしている、小さな子供と手が繋がれていた。

 そのどちらも人族ではない容姿と気配を持っていた。

 耳の特徴からするとエルフのようだけど……魔力(におい)がそれを否定していた。




「……龍の離宮、及び王宮の王の居宅に、同時に騎士団の襲撃があったわ」



 その女性の言葉に、あたりはしんと静まり返った。

 ルーク先生も、先ほどはセシリアの杖を必死に探していた父様も、今回は静かだった。

 襲撃の方が慌てるべきなのでは?と思ったのだけど……「思ってたより早いな」と父様の呟きを耳が拾って、襲撃があることを知っていたのだと理解した。



「王も王妃も無事よ。……守護龍(ステア)がほぼ全てを拘束したわ」



 にこりと微笑むとレオンハルトの頭を撫でる。

 撫でながら、少し悲しそうな顔になると父様とルーク先生へと視線をむけ、話を続けた。



「ただ……ごめんなさい。離宮を襲撃してきたあなた達の部下数名を、まだ加減の出来ない子が…喰ってしまったの」


「喰う…ですか」



 父様がぎくりとしながら聞き返していた。

 喰うって……どういう種族なんだ。



「えぇ……命はあるのだけど。傷つけてしまってごめんなさいね」



 ごめんなさい。と女性に手を繋がれている子供も、小さく頭を下げていた。



「気にしなくて良いよ。王家に反旗を翻している時点で、私達の部下ではないんだよ。しかしまさか、龍の離宮にまで襲撃があるとは……こちらの想定不足だった。申し訳ない」



 父様は女性に近寄るとひざまずき、女性が連れている子供と視線を合わせるようにして、優しく話しかけていた。

 その様子に女性は目を細めると、手で口元を隠すようにふふっと笑い、とんでもないことを言った。



「そうね。それに……離宮の襲撃者は『隷属の首輪』を持っていたわ。彼らにちょっと教えて(・・・)もらったのだけど、これなら龍の信頼を得られなくても加護を受けられるそうよ」




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