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脱力。

 




「宰相、セシリア嬢は……意識はあるが、魔力切れだ。測定もまだ、だが……」



 そう言いながら、駆けつけてくれた父様へと渡される……私。

 まぁ脱力してて動けないんだけどさ……結局抱っこですよ。


 ふと視界の端に心配そうどころか蒼白な顔で固まるレオンハルト王子とエルネストの姿が入る。

 ルナへの対応に必死で、周りを気にかける余裕がなかったんだけど、彼らはルナ登場辺りから、魔術師団の人たちのそばにいたみたいだった。


 武器の周辺に集まっていた数人の魔術師団員の中には新人さんもいたようで……目の前で起きてしまった不思議な出来事に、ただ呆然と時が止まってしまったかのように立ち尽くしている者もいた。


 カイルザークとシュトレイユ王子の姿は……私の死角にいるのか見つけることはできなかった。

 あ、ゼンナーシュタットは我関せずとばかりに林檎の木の根元で丸くなって寝ていた。

 ……午前中、本当に勉強してたのかしら?勉強を受ける態度には見えないけど。



「魔獣が出たと聞いて…っ!急いで来たんだが…」


「あれは…妖精だ」


「そのようだね。守護龍の守護の最も濃い王宮で魔物など、ありえないとは思ったのだが……」



 そう言いながら父様はちらりと私を見る。

 ……私は喚べませんよ?

 いくらトラブル引き寄せ体質っぽくても、流石に…魔物を召喚するスキルは持ってないと思いたい。



「おとしゃま……?」


「……魔物ではないと思っていても…あんな大きな黒妖犬の口のすぐそばに、セシーが見えた時は……心臓が止まるかと思った…無事で良かった!」



 抱っこのまま、今度はぎゅうっと頭を首元へと押しつけられる。

 うん、父様汗臭い☆

 でも父様の香りが一番安心するのと同時に、汗をかくほどに焦らせて、振り回してしまった事に本当に申し訳なくなる。


 ただ石版に触る『だけ』なのに、どうしてそれがこんなに邪魔が入るんだろう……。



「セシー!傍にハンスもいたし父様(わたし)もこうやって、すぐにかけつけられる場所にいたんだから、1人で無理しないでいいんだ。でも……カイルザーク(おとうと)を守ろうとしてくれてたんだな。えらかった……頑張ったな」



 えらかった。そう言われた瞬間、一気に目に熱を感じ視界が歪む。

 ぽろりと涙がこぼれたと思ったあとは、もうダメだった。

 とめどなく涙があふれ続けてしまった。



「よしよし、がんばった…がんばった。えらかったね」



 そう言いながら、父様は背を撫でてくれていた。

 なんでここで泣いちゃうかなぁ。とか、泣きながら思ってる私も私だけど……嘘泣きじゃないからね?

 一応怖いことは無くなった!ってとこで泣いてしまうのは、3歳児(わたし)にはすごく怖かったってことなのだろうね。

 ……父様に全力で抱き『締め』られそうになってる事に対しての抵抗はできなくても、涙は出るんだよなぁ。



(って、父様、本当に苦しいです!力一杯抱きしめすぎです!そろそろ窒息する…)



 まぁ、父様の気持ちもわからなくはないんだけどさ。

 流石に目の前で自分の子供が大怪我をしそうな場面を目撃してしまったら。

 父様は咄嗟に名を呼んでくれたけど、私がその立場だったら、あまりのショックに悲鳴はおろか声だって出なかったに違いない。


 私の世界の全てが止まってしまう。


 これは…心配をさせてしまうというより、心労がかさむどころか祟ってる、だよね。

 生きた心地がしないと思う。父様、本当にごめんなさい。



「ごめんなさい……」



 あれ?

 うっかり思ってた言葉が口に出ちゃったかしら?と首を傾げかけていると、すっと視界が下がった。

 父様が片膝をついて、私はその上に座らされると、目の前には今にも泣き出しそうなシュトレイユ王子がいた。



「セシリア、ごめんなさい。音を聞こえなくしたのは、僕だよ」


「あ……きこえなくも…できる、の?」



 顔を真っ赤にして、瞳を涙にうるませて。

 いつもにこにこのシュトレイユ王子からは想像できない表情に、思わず目を見開いてしまう。

 こうやってみるとやっぱりシュトレイユ王子も、ちゃんと幼児(こども)なんだなと思ってしまう。


 今までの言動も、行動も私なんかよりもずっと大人びていたから。

 見た目こそ幼いけど、兄であるレオンハルト王子よりも落ち着いていてしっかりしているように見えてたから。

 そうなるように頑張っていたのかな。



「うん……あの人、いつも嫌なことを言うから……セシリアには、聞かせたく、なかった…の。ごめんなさい」



 こくりと頷いた拍子に涙がこぼれる。


 えらいなぁ……ちゃんと謝れるんだね。


 たくさんの大人達に囲まれて、傅かれて育つと、人を見下したり使うのが当たり前のような態度に育つ子が多い。

 貴族の子息達がまさにそうで、魔導学園の初等時代は面倒だった。


 王族なんてその極致だろうに。


 そうやって育ってしまうと、間違っていたとしてもそれを認めないままに正しい方向へと進む術を知ってしまうから、自分の間違いを認めることは『自分の中では』できる。

 でも、周囲へ自分の間違いだったと『伝えて正す』ことは難しくなってしまう。

 つまり、謝れない子になっちゃうんだよね。


 ほら、王子様だし?みんなより偉いし?謝る必要ないよね?って感じになっちゃう。


 そんな思考に簡単になれてしまう環境なのに、素直に間違いを認めて謝れるシュトレイユ王子は、えらい。



「ほら、ここにもセシリアを守ろうとしてくれた子がいる。1人で頑張るのも良い事だけど……ちゃんと周りを見なさい。仲間と頑張れる方がもっと強くなれるからね」



 私の頭を撫でながら、父様は私を見上げた姿勢のまま泣き出してしまったシュトレイユ王子のふわっふわの柔らかな金色の頭を、ぽんぽんと撫でるとそのまま引き寄せて抱えた。



「王子、セシリアを守ってくれてありがとう。でもね『聞かせない』ことで守れるものは……とても少ないんだ。それよりは一緒に知って、それぞれの意見を聞いたり、手伝ってもらった方が、良い案が浮かぶものなんだよ」


「セシリア、ごめ…な、さい」


「レイ、ありがとう。いやなことばは、どんどんいやなきもちになっちゃうもんね。でも……こんどはいっしょに、おころうね」


「おこ…るの?」



 シュトレイユ王子は『聞かせない事』で私を守ろうとしてくれていた。

 つまり、嫌な思いや体験をしても、笑って流してたのかな?

 それはイヤだ!って抗議してもいいんだよ?



「うん、おころう。イヤなこといわれたら、おしえて。いっしょにおころう」


「うん……」


「……なるべく穏やかに、お願いしたい。無理だよなぁ。きっと」



 この際、父様の切実な呟きは聞こえなかったことにした。


 ちなみに、ひざまずいた父様の左右の腕に、それぞれ抱えられている状態の私とシュトレイユ王子。

 流石にダブルで抱えてもらっているのも重量的にきつそうだったので、涙も止まったし降ろしてもらおうかと考え始めたところで、背中をちょんちょんと突かれた。



「……セシリア、立てる?」



 振り向くとカイルザークが私に向かって手を差し伸べていた。

 小さく頷くと父様も腕を緩めてくれたので、膝上からするりとおりる…っと、そのまま後ろにふらついたところで、ぐいっとカイルザークが引き寄せてくれた。




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