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礼服。

 



「おい……カイが歩く武器庫みたいになってたんだが」


「ぼ…僕は、なにも持ってないからっ!」



 レオンハルト王子の呆れ声に対して、エルネストが両手を軽くあげるようにして、自分は違うと説明していた。



「凄いなぁ。ねぇ、ゼン?あれはカイの特技なのかな?」


「マジックアイテムでしょ」



 4人?3人と1匹?の声に気づいて、顔を上げると魔術師団の団員達もざわざわとざわめいていた。


 えっと…この技術は、魔導学園があった時代には、ちょっとした最新技術ではあったのだけど、実用化されて王国騎士団には段階的に実装され始めてたはず。

 ……なんだけど…廃れちゃったのかな?



(そういや、当時の騎士団の花形だった上層部所属のルークが知らなかったんだよなぁ)



 魔導学園へと飛ばされて帰る時に、それぞれの装備の確認をした。

 その時にルークの武器に『鈴』を付けてあげた。

 つまりルークの武器には『鈴』はついていなかった。


 これって広まる前に廃れてしまったのかしら?便利なのに。


 ……ついでとばかりに、思いっきり恥じらいながら顔を赤く染めあげたルークとか、杖や武器の装飾について爆笑しながら説明してくれたユージアとか…その情景まで頭の中を駆け巡り始めて、頭を抱えそうになる。



(その追加情報まで思い出さなくていいからっ!)



 私もサブの杖を呼び出すと、カイルザークの杖の隣に置かせてもらった。

 芝の上に置かれた杖や武器たちが、果樹の木漏れ日を浴びながらキラキラと光を反射する。



(もう少し暖かくなったら、ここでの昼寝とか…最高に気持ち良さそうだなぁ)



 視界にひらひらと舞い落ちる林檎の花びらを無意識に目で追いながら、ルークの近くへと寄っていく。

 時期的に考えても、やっぱりこの花は林檎と桜桃だよね?

 桜よりはふんわりと甘い香りが周囲に漂っている。


 そんな心地よい雰囲気の中、ルークが説明を始めた。



「では測定を始める。先日も説明したが……この石板に触れるだけで、属性の相性がわかるようになっている。なお、この石板はより精密に判定され、10段階評価となっている。5以上の評価であれば一般的な『属性持ち』の判定となる。魔力値も測れるので、今後の参考にさせてもらう」



 うん、説明がこの前の時と一字一句ほぼ一緒な気がする。

 王家で代々行ってきているだろう事だから、ルークの頭の中には定型文的なセリフ集でもあるんだろうか?


 まぁ一応復習しておこうかな。

 魔力の10段階評価、これで魔力持ち。

 そこからさらに属性との相性の10段階評価があって、属性持ちかどうかの評価がされる。


 たしかシシリーの時は……えっと、初等科から中等部に上がった時かな?

 あ、いや、高等部かな?たしかそれくらいの時に測定したきりなんだよなぁ。

 あの時も周囲から浮きまくったんだよなぁ……。



(でも、すでに浮いちゃってるし、これ以上悪くはなりようも無い、と思いたい。無いよね?!)



 浮くのはイヤだ。

 イヤだけどこのままうやむやにしてありもしない噂が流れて行くのもイヤだ。

 イヤイヤばっかりの堂々巡りで、頭がもやもやしつつ石板へと進んでいくカイルザークの後ろについて行くと、急に歩が止まり、私は反応しきれずに背中に突撃してしまった。



「ぶっ…ごめ…ん?」



 振り向いたカイルザークの表情は、今までに見たことがないほどに怒っていた。

 ビクリとなって固まっていると、私達の武器のそばにいつの間にやら立っていた数人の魔術師団の団員の一人を指をさした。



「ねぇ、そこの人。そんなに獣人が嫌いなら、僕の武器(もちもの)を物欲しそうに見ないで欲しいんだけど。そこからなくなったら真っ先に疑わせてもらうからね?」



 何を唐突に、いや、それはちょっと過剰反応じゃないの?と思ったのだけど……指をさされた団員は、あからさまにイヤな顔をしてカイルザークに向かって何かをぶつぶつと言っていた。

 私には聞き取ることができなかったが、みるみるうちにカイルザークの…いや、エルネストの表情も変わっていった。


 カイルザークは怒りに、エルネストは哀しみに。



「それと、僕の種族はブラックドッグじゃないし。そもそもチャーチグリムだって『墓守り』であって、守るべき墓を荒らしたりなんか、絶対にしない。獣人だからと言ってあらぬ疑いをかけるのはやめてもらえる?」



 ブラックドッグは黒い体毛に真っ赤な目の犬の姿をした妖精だ。

 妖精なので人から見れば良くもあり、悪くもある存在ではある。

 黒妖犬とかヘルハウンドという呼ばれ方をしている場合もあるそうだね。


 獣人にも同じ外見を持つ種族だっている。

 外見に見合う特殊能力を持つ種族だっている。


 同じ外見で墓守としてならチャーチグリムって呼ばれたりする子もいる。

 墓を守ってくれる働き者で悪い子じゃ、無い。

 それが守るべき墓を荒らすとか、どんな暴言だ。


 カイルザークの返答から察するに、獣人、そしてチャーチグリムに対する暴言のようなものがあったのだと思う。



(墓荒らし……あ、そうか、私達の武器が盗掘品とか言われてしまったのだろうか?)



 盗掘品か……公爵家の子息が持っていても疑われるような、国宝級!ってな性能はないはずなんだけどな。

 シシリー(わたし)もカイルザークも一般市民だったし、かなり奮発はしたけど、それにしたって給料の範囲で求められるレベルの杖や武器達だ。


 奮発はするでしょ?

 お洒落のお洋服を買うのと同じ感覚ですよ。

 冠婚葬祭の時にも持ち歩く杖なんて、前世(にほん)礼服(きもの)みたいなものだよ。


 前世(にほん)にいた時の私は、結婚が決まった時に親からのお祝いと給料を叩いて、礼服一式を揃えてもらって、それをずっと着てきたけれど……。


 今の子は良いわよね。

 色さえ考えれば礼服も可愛らしいひらひらのワンピースでもOKだもんね。

 でも、そういうのだってブランドや色々あるんでしょう?

 物によっては高いわよね?


 私の世代だとね、ある程度の歳でそういう洋装(ワンピース)の礼服は……笑われちゃったのよ。

『着物の礼服』が基本だったから。


 しかも、模様やら家紋やら、その位置や使い方によって色々と意味があるから、立場ごとに着てはいけない模様とか素材とかが、あったのよ?

 今考えると、訳わからないわよねぇ?


 でもそういう小さな気遣いで『相手をめいいっぱい、もてなそう、祝おう、悼もう』そういうものを表現していたのだから、しょうがないといえばしょうがないのだけどね。

 ……その情報源だって、ネットも何も無い時代だったから、スマホで簡単に調べられる物でもなかったし。

 地域によって微妙にその認識も違っていたりもしたから『和装の基本』のような書籍を参考にしつつ、親や祖母からも答え合わせのように聞いて……やっと自信を持って着れるかな?という感じだった。



(洋装になると、そういうルールがかなりあやふやっぽくて、羨ましかったわ。それともこれも、私が着る機会がなかったから、知らなかっただけなのかしら?)



 お値段も、反物…着物になる前の布でさえ、ナントカ織りとか色々種類があって値段もピンキリだったもんねぇ。

 それでも……どんな礼服だって、普通のお洋服よりは高くつくものだから、お財布も頑張らざるを得ないんだけどね。


 ただ、そういう『ちょっと奮発した』程度の武器で、盗掘品とか疑われなきゃいけない謂れは無いよね。




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