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sideエルネスト。これから。

 




(寝るなら、端に寄らないと……邪魔になっちゃう)



 子供の席だと言われたけれど、それでも一人で占領しているのはダメだ。

 端に避けてから……そう思っているのに、すでに脱力してしまった身体は、全くもっていうことを聞いてくれなかった。



『こんなとこで寝るなバカ。邪魔だ』



 足蹴にされるのは、慣れてる。罵倒されるのも、慣れた。

 でも、今はとにかく眠い。蹴られてもいい、後で謝ろう……。


 ぼんやりと意識はあるけど、身体はすでに眠っているような曖昧な感覚の中で、人が近づいてくる気配に、これから言われるであろうセリフが先に勝手に再生されていた。


 痛いだろうなと、でも足蹴にされたら刺激で目が覚めるかな?とか漠然と浮かぶ考えとは全く違う感触が、身体に伝わってきた。

 そっと優しく頭を撫でられ、頬に触れる温かくて柔らかな手。



「寝てしまったわね。……やっぱりまだ緊張しているのかしら?」


「そりゃあ…いきなり全ての環境が変わったからなぁ」


「そんなに変わったのかしら?」


「……平民と貴族ってだけで随分違うよ。ましてやエルは獣人の里で暮らしていたそうだから、私たちの知らない獣人独自の文化や生活形態だってあるだろう?」



 母様は父様と会話をしつつ「ちょっとごめんなさいね」と言いながら、ボクの頭を抱えるようにして横に倒し、靴を脱がすとふわふわの座席に完全に横になるように寝かし直してくれた。

 寝かし直して、ブランケットをかけ直して……肩をとんとんと叩くように撫でる。



「獣人の里…エルみたいな可愛い子がいっぱいいるのかしら?」


「そこじゃない……それと、エルの一族は狼系の獣人の中でも武闘派で有名な種族らしいから……可愛い系はないだろう」


「あら……こんなに可愛らしいのに。凄いわねぇ」


「5歳にもなれば、1人で熊くらいなら簡単に狩れてしまうそうだよ」



 父様、母様、ごめんなさい。

 里の子たちなら出来るだろうけど、ボクは5歳になっても、1人で熊は難しいと思います。

 父様の言う通り、里のみんなであれば、とても体格が良いし、(4さい)だって素手で余裕で倒せます。

 でも、ボクには難しいです。


 力も無いし、身体が小さいって事は、爪も手足も小さいから。


 申し訳なくって悲しくて。

 期待には頑張って応えたいと思うけど、みんなのような体格はすぐには手に入らないから。

 今は早くもっと深い眠りに入ってしまおう。

 そう思えば思うほどに逆に目が冴えてきてしまう、自分の意識が恨めしかった。



「エル。眠りにくかったら抱っこしましょうね…ふふふっ」


「お?寝てなかったのかい?」



 ぎくりとしてしまった。

 半分寝てるから……実際身体は動いてないと思うのだけど、意識があることがなんでわかったんだろう?

 獣人は、こうやって身体だけを休養させることができる。

 野営なんかの時は便利ってのと、もともとは襲撃や狩りに備えるためのものらしい。


 こうやって寝ていても、怪しい気配とかに気付けるから、即防御がとれる。反撃ができる……はずなんだけど、子供(ボク)は意識すら怪しいくらいに、完全に寝てしまってることが多いから、今みたいに聞こえてるけど、身体を動かしての反応はできなかったりする。

 決して狸寝入りなんかじゃないからね?!



「半分は寝てるんだと思うわ。でもね……獣人ってね、耳としっぽが動いてる間は、半分しか寝てないそうなのよ」


「………便利な習性だな」


(耳としっぽ……いつの間にかに出てるしっ!)


「エルは寝るときは耳としっぽが出ちゃうみたいだから、半分は寝てるんだと思うわ……可愛いわよねぇ」



 可愛いわ。とボクを抱き上げて座り抱っこをする母様と呆れた声の父様。

 座り抱っこの姿勢が安定すると、背をさすってみたり頭を撫でたりと忙しい。

 忙しい……けど母様の言うように不思議と眠くなってくる。



「……それ、余計に寝づらいんじゃ無いか?」


「そう?子供って横になるより、抱っこされてる方が落ち着いて寝れるものなのよ?」


「そういうものか?」


「そういうものよ……あら、少し爪が長いわね?後で切らないと」


「……ただ、構いたいだけなんじゃないのか?」



 手を掴まれたと思えば、爪の辺りを触り、柔らかいものが手に当たる。

 手を頰に当ててるようだ。

「可愛すぎだわ」そう小さく呟くと、ぎゅーっと抱きしめられる。



「それは当たり前でしょう?こんなに可愛いんだもの!こうやって構い倒せるのも、親の特権ですからね」


「キミが幸せそうなのは良い事だが、エル、うなされてるみたいな顔になってるよ……?」



 うなされてません!

 うなされてるんじゃなくて……ぎゅーっと抱きしめられて、窒息しかけただけです。

 構うにしても、もう少し容赦してください……。



「あら……?おかしいわね?大丈夫大丈夫、怖くないわよ」



 悔しいけれど、この後本当に意識が飛んだ。

 寝かしつけられたのか、物理的に意識を飛ばされたのか、正直どちらともいえなかった。

 次に意識が戻ったときには、馬車は停車していて、街道の少し広くなった場所の奥に、ハンス先生とユージア、そして大きくなったセシリアの姿が見えていた。


 ほっとしたのと嬉しさとで、馬車の扉越しに、警備やら何か話をしている最中の父様と騎士を押しのけて、みんなの元へ走り出した。


 決めた。

 将来のことは全くわからないけれど、とにかく勉強して養母(かあさん)の言うように『生きる力をつける』

 新しい父様と母様がボクを全力で守ってくれようとしているから、ボクもセシリアのお兄ちゃんになれるように全力で頑張る!


 ……そう決めたのに、セシリアのお兄ちゃんになるはずが、この直後、弟が増えて(しかもやたらとしつこい子!)全力で頑張るはずが、全力で振り回されることになる。







 ******








 セシリアは……大人しい子の印象が強かったのだけど、大きくなるとやたらしっかりしていたし、負けないようにしないとね。

 そう思いながら、王宮での勉強会に臨んだ。


 ちなみにボクの新しい妹と弟は、帰宅早々……真夜中に騒ぎを起こした。

 罰として終わらないほどの宿題を出されたらしく、眠そうに気持ちふらふらとした足取りで食事の席へと現れた。

 朝起きたら、同じ部屋で寝たはずのカイがいなくてびっくりしたんだぞ!と本当は文句を言いたかったのだけど、ユージアから事情は聞いたのであえて触れない。



(ボクが怒らなくたって、罰はしっかりと受けていたようだから)



 そして馬車で王城、王宮内へと移動して初めての勉強会に……と思ったら、後から合流するはずのセシリアが現れない。


 この時点で王子2人と、ボクとカイルザーク(おとうと)で話でもしながら、セシリアを待つ感じになるのかと思いきや、カイルザークはすでに寝ていた。

 食べかけのクッキーを握ったまま。


 ……起こそうとしたところで、様子を見にきた父様と守護龍が入室してきて、カイルザークの寝顔に大笑い。


 食べかけのクッキーをしっかりと握りしめ、もう反対の手を口元へと運んでは、もちゅもちゅと口を動かしていた。

 何を食べているんだろう?

 面白がってシュトレイユ王子が、カイルザークの耳元で何かを囁くと、もちゅもちゅが激しくなって……何を言ってるのかが気になって、耳をすますと。



「チョコレート、生クリームたっぷりのショートケーキ。マカロンに、シュークリーム、美味しい美味しいプリンもあるよ?……コーヒーとココアとどっちが良い?」



 ボクも思わず吹き出してしまった。

 まぁ、レオンハルト王子はすでに酸欠になるまで笑っていたけれど。


 眉間をしわしわにした父様が、カイルザークを起こそうとしたところで、またもやサロンの扉が開き…現れたのは白い大きな猫の姿のゼンだった。


 いつもより少し大きな身体で……と思ったら何か背中に乗っていた。



「えっと……ゼン?どうしてセシリア嬢が、背中で熟睡してるのかな?」



 守護龍が不思議な顔をして背に乗っていた……セシリアを抱き上げた。

 少し離れた場所にあったソファーへとセシリアを寝かせ、こちらに戻ってきたと思うと今度はカイルザークを抱え上げ、同じようにソファーへと運んでいった。



「乗ってみたいってせがまれて…乗せたら……寝てしまって」


「これ……また僕、お勉強お休みかな?」



 シュトレイユ王子がおどけて笑う。

 レオンハルト王子は……笑いすぎてすでに反応できなくなっていた。



「これは……起きそうにないねぇ」


「セシー……」



 にこにこと微笑ましくしている守護龍と眉間をおさえて唸っている父様。

 里でボクは子守をよくしていたから、子供の扱い方はそれなりにできる。

 だからみんなが楽しく勉強ができる環境にして行こう!そう思っていたのに、こう言う状況の場合、どうして良いのか全くわからない。



「ん……」



 渇いた笑いの中、起きてきたのはカイルザークだった。

 セシリアはぐっすりと眠り続け、起きたのは座学が終わって、ご飯の時間になってからだった。




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