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巫女のお仕事。

 



「しんぱいしてくれてたんだね。ごめんね」


「怖くなかった?」



 一通り撫でて満足したので少し離れると、心配そうに顔を覗き込まれる。

 真白でふわふわな毛並みに、アメジストの紫色の瞳。

 ……猫には紫色の瞳はいなかったような気がするけど、綺麗だからいいや。



「ちょっとだけ。でもね、おともだちがひとりふえたのよ!かいるざーくっていうの。ぜんもなかよくしてね?」


「カイルザーク……うん。紹介してね」



 みんなで仲良くできたら楽しいもんね!と思いつつ、ふと気付いた。



「あれ?ともだち、だとおもうんだけど…おとうと、かな?でも、ともだち?」


「どうしたの?」



 あれあれあれ〜?と首を傾げてしまった私に、不思議そうな顔のゼンナーシュタット。

 多分私も同じように不思議な顔してるんだろうけどね。



「えっと『うちのこ』って、おとしゃまがいってたの。カイは、おとうとなのかな?」


「あぁ、ガレット公爵家で引き取った子がいるって聞いてるから、それがその子なら、弟なんじゃないかな?…もしくは兄かも?」



 そうなんだよね『うちの子』って父様も母様も言ってたから、兄妹の一員ってことなんだろうし、弟か兄って事になる。


 ……弟だといいなぁ。脱!末っ子!

 カイルザークにも『ねえさま』って呼ばれたいし!

 以前(むかし)もそう呼ばれていた時期があって、とても可愛かったんだよ。

 あー、でもあの頃のカイルザークは、本当に幼かったから可愛かったのであって、今のは……。


 身体はともかく、中身は大人だもんなぁ。

 もしかして、呼んでもらっても、わざとらしく聞こえちゃったりするのかな?



(今後だって年の差がないのだろうから、私を『先輩』って呼ぶ必要もないし、でも昨日の時点でセシリアって呼ばれてたし……うーん、でもやっぱり『ねえさま』って呼ばれたい!)



 あ…発達とか、しっかり具合から言うと、私がカイルザークを『にいさま』って呼ばなければならない状況にもなってしまいかねないわけで……というか、カイルザークの方がどう見てもしっかりしてるから、一度そういう印象がついてしまったら、そのまま私の方が妹って事で確定しそうだね、困った!



「おなじくらいだけど…おとうとだといいなぁ」


「お姉さんになりたいの?」



 むむむ…と唸りかけそうになって、取り敢えずは願望を言っておく事にした。

 弟!って先に言っておけばなんとか姉として存在できるかな?

 それくらいの感覚なのだけれど、ゼンナーシュタットは「おや、意外」という風に聞き返してくる。



「うん、おねしゃまはつよいからね!」


「強い…の?」


「うん!つよいのよ?」



 強いんですよ。

 弟を守るために頑張るからね?

 そうだよ、お姉ちゃんじゃなきゃ、カイルザークを守るのに何かと難しい場面が出てきちゃうかもしれないもんね。

 今度こそちゃんと守るんだ。


 ……で、守るで思い出したんだけど。



「ねぇ、これからみんなでおべんきょうなの。そろそろ…いっていいのかな?」



 ゼンナーシュタットをもふもふと堪能し続けるのも幸せなのだけれど、勉強会もすごく気になってるし、というか、宿題も終わってないから、早めに行って終わらせたいところでもあるんだよね。


 だけど、守護龍のアナステシアス様も現れないし、龍の巫女としてのお仕事の内容もわからないから……かといって、このまま勝手に行ってしまうのも気がひける。



「わたしね、しゅごりゅうさまにあいにきたの」


「あぁ、聞いてなかったんだね。僕もその勉強を一緒に受けるから、これからはセシリアは巫女として龍の離宮(ここ)に来たら、あとは僕と一緒に王宮に行けばいいんだよ」



 ゼンナーシュタットは嬉しそうに目を細めて、しっぽをふわりふわりと揺らす。

「歩きながら話そう?」と立ち上がると、ゼンナーシュタットが現れたドアとはまた別の方向にある大きなドアへと向かって歩き出すと同時に、その大きなドアが勝手に開きだす。



(自動ドアっ!……冗談ともかく、誰が開閉してくれてるんだろう?)



 私もゼンナーシュタットの背後について、開いたドアへと歩き出すのだけど……目の前で真っ直ぐ上へとぴっと立っているしっぽが気になってしょうがない。

 そもそも私の視界には、その立派なしっぽしか見えないんだけどね。



(猫のしっぽって、嬉しい時ほど真っ直ぐに立つんだよなぁ)



 ぴっと立ったしっぽの、歩く度にそよそよと流れる真白で長毛を眺めて癒されつつ『龍の巫女のお仕事』が事前に聞いていたお茶会どころか、ゼンナーシュタットのお迎え?それだけ?と、半ば呆気にとられてしまった。



「えっと…みこのおしごとって、それだけ?」


「うん、それだけ」



 まぁ、今のところは『セシリア(わたし)の安否確認が1番の目的であって、後は特にやることはないよ』なんて言ってたもんなぁ。

 あれかな?これはゼンナーシュタットと会えるように配慮してくれたってことなのかな?

 これから毎日登城して王子達とは一緒に勉強するからイヤでも会えるけど、ゼンナーシュタットの家はわからないもんね。

 ……まぁ分かったとしても、きっと王宮内だろうから、子供が許可なくふらふらとお散歩できるような場所じゃないし。


 でも、こっちでも色々な宿題が出されたりって事じゃなくてよかったよ。

 巫女の心得!的なマニュアルやら、滝行的な修行なんかあった日には…と思いほっとする。



「……よかった、たいへんだったらどうしようかと」


「大変だと、ダメ?」



 長いしっぽが真上へと真っ直ぐ立っていて、真白で長い毛並みがふわふわと移動の風に流れるように揺れているのが綺麗でひたすらしっぽだけを見つめていたら、くるり。と、視界からしっぽが消えて、ゼンナーシュタットの顔が目の前に現れると、思わずびくりとしてしまった。



「う、ううん、がんばる。でもね、みんなとのおべんきょうもしたいから……」


「そっか。じゃあ急ごう!」



 しっぽをぴんと立てて、少し跳ね気味に軽快にトコトコと歩き始める。

 サロンと思われる部屋を出て、後ろを振り返ると、何もしていないのにあの重厚なドアが静かに閉まっていくところだった。

 ……誰が開閉してくれてるんだろう?


 気になるのだけどそれよりも、もっと気になってる事が一つあって。



「ねぇ、ぜんはひとのしゅがた…に、ならないの?」



 噛んだ……好調に喋れてたのに、噛んだあああああああっ!


 勉強一緒に受けるのなら、人の姿になるのかなって?ちょっと期待してたんだよね。

 シュトレイユ王子の姿を借りていた事があったのだから『人』としての姿をとれる魔力があるのだろうし。



「しゅ……あ、うん、勝手にシュトレイユ王子の姿を借りてしまったから、今は罰として人化禁止なんだ…」



 残念!……て、今、噛んだとこ笑ったよね…。

 以前よりは噛まなくなってきてるんだからねっ?!

 怒ろうと思ったけど、ぴっと立っていたしっぽがしゅんと下がってしまったので、これは『罰』に結構落ち込んでいるのかな?と思い、ひとまずやめておく事にした。



「……ごめんね。でも、みてみたかったな」



 魔力の高い生物の『人』としての姿って、男女どちらにしても美形さんが多いんだよね。

 しかも魔力が高いほど、美人さんになるのですよ。

 ゼンナーシュタットは、さらっと他人(レイ)の姿を借りたり、魔道具(マジックアイテム)を齧って解除しちゃうほどの子だもの、きっと人としての姿は美人さんになるはず!

 ……と、密かに期待してたんだけどなぁ。


 これは次回のお楽しみかな。



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