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書こう。




「おかえり。言う事は、あるかい?」


「ごめんなしゃい」

「ごめんなさい」


「2人ともライブラリにいたよ、父さん母さん、おやすみなさい」



 じゃ、がんばって。と、私とカイルザークの頭をぽんぽんと撫でると、自室へと帰って行くセグシュ兄様。

 いつものように眉間にシワを寄せた父様と、ほっとしたように微笑んでいる母様。



「明日、城から帰ってからにはなるが…ライブラリを案内するから、それまでちゃんと待つ事!良いね?」


「「はい……」」


「ちゃんと待ってるんだぞ?」



 厳しい声の父様に、がしっと頭を掴むように抑えられて、わしゃわしゃされた。

 ……叩かないんだなぁ。

 抑えられた瞬間、これは叩かれるかなーとか思ってたわけです。


 めちゃくちゃ心配したあと、当の本人がひょっこり現れると、思いっきり激怒して感情のままに引っ叩く!なんて親御さんを前世(にほん)でよく見かけてたから。


 そう考えると父様と母様って、やっぱ育児に関して余裕があるんだなぁなんて……安心した私が甘かった…。

 わしゃわしゃわしゃ……わしゃわしゃが止まらずに、ひたすら頭を揉まれ続ける。

 そのうち、片手だけでは飽き足らずに、もう片方の手も参戦して、身体をくすぐられ始める。



「おとしゃま!ごめんなしゃーっ…やめっ……きゃあああ」



 頭を掴むようにして揉まれつつ、身体をくすぐられて絶叫中な訳ですが…何とか逃げようと背後に視線をやると、そこにはいつの間に移動したのか母様の背中。

 そして響くカイルザークの悲鳴のような声。



「かっ…かあさ……やめっ……!…やめて…あははははっ!」



 ……どうやらカイルザークもお仕置き中のようだった。

 くすぐりにかけてなら、母様は天下一品だ。

 父様のだってくすぐったいけど……まだマシだと思うことにしてとにかく謝る。



「うひぃぃ……ひゃあっ!…ぎゃはははははっ!」


「きゃああああ…あはははっ……や、やめっ……」



 起こしちゃってごめんなさい。

 心配させてしまってごめんなさい。



 ほとんど言葉になってなかったけど、多分伝わったはず!

 ……伝わったよね!?


 くすぐられすぎて息も絶え絶えになったところでやっと解放された。


 真夜中の薄暗い廊下に響き渡る、小さな子供達の悲鳴じみた甲高い笑い声。

 知らずに耳にしてしまったら、恐怖かもしれないなと……笑わされすぎて酸欠気味な頭でぼーっとしながら思った。



「ふっ……何もなくて良かったわ。2人とも」


「罰、と言うわけでもないんだが……ハンスから『夜中に抜け出す子への宿題』を預かってる……いないと思ったんだがなぁ」



 ふう。と満足げに一息ついている母様と、その様子に遠い目をしている父様と。

 そしてぐったりしている幼児2人に、まさかの追い討ち。


 私より体力があるはずのカイルザークが……絨毯が敷いてあるとはいえ、廊下に転がったままぐったりと起き上がれないでいるとか、母様……やりすぎです。

 そこにさらに宿題とか、酷い。



「ふふふっ…ちょうど2冊。ハンスの読みが当たってしまいましたわね」


「眠れないんだろうから、ちょうど良いか『明日の勉強会までには終わらせて提出するように』との事だから、頑張れ」


「「えっ?!」」



 ノート1冊……3歳児に。

 ペン、このぷくぷくの手で、ちゃんと使えるんだろうか?


 ぱらぱらとめくると、1ページに1文字ずつ文字が書かれていて、傍に小さく古代文字で、同じ意味に相当する文字が書き込まれていた。

 ……まぁ、あいうえお練習帳ですね。


 で、練習の最終ページには『反省文2ページ』と書かれていた。

 ……古代語で書いちゃダメですか?ダメですよね?


 ちなみに、ルークの流れる様なとても綺麗な字体でノートの表紙にエンブレムの様に書かれている古代語があって。

 父様と母様は気づかなかったようだけど、これ、エンブレムじゃなくて……『本は読めたかい?』と書かれていた。



(えぇ。全く読めませんでしたともっ!)



 ルークにはめられたっぽいなぁ……。

 思わず深いため息が出る。

 まぁ、文字を知る機会が早まったのは、実際ありがたい事なんだけどね。

 そう思いつつカイルザークを見ると、同じ心境なのか寝転がったまま憮然とした顔になっていた。



「カイ、わたしのへやでいっしょにやろう。エルおこしちゃうし」


「うん……これ、寝れるのかな?」



 起きれる?と、手を引いて起こしてあげた。

 父様と母様に再度、ごめんなさいをして、部屋の前で別れる。


 ぐったりと脱力してふらふら歩きのカイルザークの手を引きながら私の部屋へと移動すると、セリカが部屋の電気を明るく調節してくれて、応接机にペンとインクを用意してくれた。

 ひとまず、謎の小箱はベッドのそばのテーブルセットに置いて、応接机にノートを開いて作業を開始する。



「がんばる」


「うん……」



 ちなみに頑張って『あいうえお』の『た行』くらいまでは行ったと思うんだけど、その後の記憶がない。


 心配してた通りに、ぷにぷにの手ではペンを握るのも難しくて、カイルザークとぶつぶつと文句を言いつつ、お互いに寝ない様にと声をかけあって頑張ってたんだけどね……。


 気づけば夢の中だったようで、ユージアの調子はずれな歌のような挨拶が聞こえてきて、夢からさめた。

 いや〜夢の中でも勉強してたわ!

 夢だったから全く現実の宿題は進んでないんだけどねっ!



「朝だよ〜あっさですよ〜って……あーあ…完全に力尽きてるね。2人とも!起きなよ〜!それ終わらせないとダメなんでしょう〜?」



 ユージアに、がばっと毛布を剥がされる。

 剥がされたけど、今日は寒くなかった。

 ていうか、あれ?2人ともって?そういえば、いつの間にベッドに移動したんだろう?


 ぼやーっと起き上がると、私の背中にしがみつくような姿勢でカイルザークが寝ていた。



「ん〜……あれ?…あさ…?」


「うん、朝だよ?ノート終わらせないで良いの?」


「……ダメでした」


「朝の鐘まではまだ少しあるから、早く終わらせちゃいな〜」


「ありがとう……」



 ふらふらと執務机へと向かうと、インクはしっかり封がされていて、ペンも綺麗に収納されていた。

 きっとだけど、いつも夜中に様子を見に来てくれるセリカが、机で突っ伏して寝てる2人に気付いて、ベッドまで運んでくれたのだろう。

 深夜の幼児の自室脱走の捜索から、宿題のお手伝いと……仕事を増やしてしまって申し訳ない。




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