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読む。

 



「やっぱり貴女(シシリー)らしい(・・・)考えだね。……そのまま歪まずに育ってね」



 カイルザークは、くるりと振り向くと私にされたように頭を撫で返してきた。

 目を細めるようにして笑みを浮かべている。



「なにしょれ?」


「なんでもな〜い」



 そういうと、また先行するように廊下を進み始める。

 緩やかに、ゆらりゆらりと柔らかそうに風を孕みながら揺れる、カイルザークのしっぽ。

 動作としては『嬉しい』の、感情の時に出てしまう揺れ方だった。

 ……それが、気になってしょうがない。


 丁寧に磨き上げられた床張りの廊下は、明かりを抑えられた魔石の照明で、色の濃さを増し、対照的に銀髪に近い藤色のカイルザークの頭髪、そしてしっぽの存在を強調するかのように浮かび上がらせていた。

 それもあって……という理由にしておくけど、どうしてもガン見してしまう。触りたい……!



「…あ、そういえば、さ。この背格好だと、僕って……弟?…じゃないよね?」


「お…おなじくらいだとおもう」



 無意識に、思わず手を伸ばしかけたところで、視界からしっぽが消え、唐突に聞こえたカイルザークの声にびくりとする。

 微妙に伸ばされた私の手の意図に気付いていたみたいで、一瞬…思いっきり遠い目をされたような気がしたけど、気にしない!



「だよね……シシリー(まえ)は僕よりずっとお姉さんだったから、一緒に勉強できるのが楽しみだよ!」


「たのしみだよねぇ……どんなおべんきょうするんだろうね?」



 って、やっぱ思いっきり気付かれてたのか、しっぽをしまわれてしまっていた。残念。

 少しがっかりしつつ、視界を前方に移すと、細めの廊下が終わって広めの廊下へと合流するところだった。

 カイルザークの歩が止まったのも、この先をどう進むのかがわからなかったからだろう。



「ねぇ、セシリア……もしかしてライブラリ行こうとしてる…?」


「あ、うん……めがさめちゃったから」


「場所、わかるの?」


「たぶんね、むこうのとうなんだけど……」



 ……何も言わずとも、私の行動ってバレバレなんですね。

 なんでだろう?

 シシリーの時(むかし)から私の行動を先読みするかのように、カイルザークに場所の確保や機材の準備をされてしまう。

 お願いをしてたわけじゃないんだけどね。


 シシリー(わたし)としては、私の研究室の研究員として在籍しているのだから、自分の研究をメインに進めてもらって構わなかったのに、自分の作業を器用にこなしつつ、私のフォローも何故か完璧にこなしていたので、他の研究室から『秘書として』の打診が多々あった。


 ……カイルザーク自身は、打診の手紙を見るなり毎度機嫌が悪くなってしまうのだけど。

 まぁ、研究員で在籍しているのに、それをやめろと言われているようなものだから、失礼極まりない内容ではあるのだけど。

 そもそも獣人自体が研究員になれるほどの知識や魔力保持という意味での実力者がほとんどいなかったために、その条件を満たしている獣人であるカイルザークが、研究員として在籍している事自体を知らないままに『今いる研究所より報酬を上げてやるからこっちに来い』と打診してきている、というものがほとんどだったからだ。


 いろいろな意味でとても優秀な子だった。

 優秀じゃなかったとしても自慢のお友達なんだけどね。

 幼馴染み……っていうのかな?


 これからもそんな感じだと……歳の差がない分、フォローどころか私がカイルザークのおまけ的な位置になってしまいそうだと思い、唸りそうになる。頑張らねば!



 気を取り直して、こっちこっち!と指差した方向にある、棟へと向けてカイルザークの手を引いて歩き出す。


 この先には小サロンがあるのだけど……あ、サロンっていうのは、えーっと、だだっ広い部屋?

 板張りだし、体育館みたいな感じって言えば良いかな?


 貴族の家には、こういうサロンって言われる部屋が、何部屋かある。

 1つだけじゃないんだよ……すごいよね?

 少なくともだけど、大体2部屋以上は準備するものらしいよ?



(自宅でパーティする時に使ったり、それこそ屋内でできる格闘の訓練や筋トレに使ったり……ダンスの練習用にピアノも置いてあったりするし……ってやっぱ前世(にほん)風にいうと体育館だわ!)



 ……で、この先のサロンは吹き抜けのようになっていて一面に本が収納されているというのを、聞いたことがあった。

 多分ここのサロンのことだと思って、ここに来たの。


 サロン用の扉って無駄に重厚で大きくて……とにかく重い。

 しかも両開き!


 なんとか必死にドアを開けていく。

 ……まぁ実際はといえば、カイルザークが顔を真っ赤にして押してくれて、なんとか開いていく程度で、私の力ではびくともしなかった。悲しい。


 子供1人がなんとか通れる程度の隙間を作ると、小サロンへと順に身を滑り込ませた。


 小サロンって言ったって、お屋敷の棟の一つを丸ごと使っているのだから、前世(にほん)の学校にあった体育館よりもずっと広い。


 うーん、住居っていう意味だと、関東でよく見かける新築分譲的な戸建ての敷地の広さ……建物じゃなくてね、土地全体の広さが40坪くらいだっけ?

 そこに建蔽率とか、家を建てるためのルールに則って、二階建ての家を建てると総面積35〜40坪くらいの家が建つ。

 あ、総面積ってことは1階+2階部分の広さの合計だからね?


 って事で、確か近所にあった市の体育館が500坪の広さだったから、この時点で一般的な住宅の土地の10倍。この小サロンの広さは、軽く見積もってその体育館の倍以上はある。

 つまり1000坪以上(!)の広さの図書館。

 個人で所有するレベルの施設じゃないよね……。



「これはっ……流石というか、見事だね」


「しゅごい…ね」



 壁一面、天井に至るまでびっしりとはめ込まれるように作られた本棚と、収蔵されている本達が見える。

 ここは2階部分なのだけど、部分部分で上階へと吹き抜けになっていて、本棚は上へ上へと続いていた。

 広さもあるし高さもある。

 この部屋だけで隠れんぼしたら、半日は逃げ通せる自信がある。


 所々にテーブルセットが置かれていて、手にとった本をそのままその場で読めるようになっていた……ていうか、これ、カテゴリ別で並んでるんだろうし、遠くまで持ち出してしまうと

 戻す時に迷子になりそうだものね……。


 アンティークな雰囲気と、建築としての構造の美しさに思わず見惚れる。

 ……見惚れつつも、蜘蛛の子を散らすようにカイルザークも私も、一目散に自分の目的としている書物があるだろう場所を探して移動を始めて……ふと、とんでもないことに気づいてしまった。



「ねぇ、すごくだいじなことわしゅれてた」


「僕も。すごいうっかり」



 びぃぃん…と、お互いに思い思いの場所へと移動してしまったために、聞こえるようにと、ちょっと大きめに発した声が天井付近で木霊のように響く。

 奥へと進むと、少し視界がひらけたところに大きめのカウンターがあった。


 日中はもしかして司書さんのような人もいるのだろうか?

 本の補修作業に使う道具と、劣化し傷みかけている本が積まれていた。

 そんな古い本ですら……読めない。



「えっと……ごめん」


「僕の方こそ……まさかのオチだねこれは」


「いや……ユージアがわたしのもじを『こだいご』っていってたし、よめなかったのがふしぎだったのだけど」


「……もう使われてなかった、と」


「うん……」




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