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小さな小さな冒険。




 そろりそろりと足元がギリギリ見える程度までに照明の光が抑えられている薄暗い廊下を、一人で歩いている。

 ……まだ、夜である。


 時間的には、夜中。


 どうも興奮冷めやらずで、目が冴えてしまったらしい。

 一度目が覚めてしまうと、寝直そうにも全く眠くない。

 なので、こっそりと自宅内のお散歩中なのでした。



(こっそりついでにライブラリ行っちゃうんだ〜)



 思わずスキップになりそうな軽い足取りで、しかし音が立たないように、そろりそろりと歩く。

 ライブラリ……つまり図書館って事だもんね。

 前世(にほん)の民家で本がいっぱいある所っていえば書斎とか、本棚とかしか言わなかったし、図書館(ライブラリ)って言うくらいだから、それだけの蔵書があるんだろうね?

 しかもあの本の虫のルークが『王家に次ぐ』とか言ってたし。楽しみすぎる。


 私の部屋の奥、細めになっている廊下を更に進むと東棟の廊下へと繋がっている。

 角を曲がろうとしたところで、突然、冷たいものに肩を掴まれる感触があった。



「うっ…んむーっ!!」



 文字通り飛び上がって、思わず出かけた悲鳴とともに口をその冷たい小さな手で、塞がれる。

 私と同じくらいに小さな、幼児特有の、冷たい手。



「しーっ!大丈夫だから!僕だから!」


「んーっ!!!」


(僕って誰じゃあああああっ!?)



 大丈夫だと言われても、背後から口押さえられた上に、暴れないようにとさらに羽交い締めにされてたら……むしろ暴れますよ?

 ていうか誰だ!


 ひとまず反撃…出来なくても牽制のために杖…と思って呼び出すと、異常に重い。

 支えきれずに杖に引っ張られる。



「っ!?……痛っ!?…ちょ……っと」


「あれ?…おもい?…って、は?なんで……?」



 突然現れた、想定外のサイズと重さの杖を支えきれずに、自分すら巻き込んで倒れてきた杖に潰された。

 魔導学園から持ち出してきた杖は、アニメなんかによくある魔女っ子が使うような魔法のステッキ的なサイズだから、子供でもギリギリ持てるはずの物だ。


 ……でも、目の前にあるのは、子供では支えきれない大きな杖。



「とりあえず落ち着いて……?セシリア、だよね?」


「う……うん、カイ?」



 恐怖で強張った首を、ぎぎぎぎと音でも鳴りそうなほどにゆっくりと、背後へと視界を向けると、顔の間近にカイルザークの顔があった。

 大丈夫だから!と言ってる割には、カイルザークも顔を青く、表情も強張らせているし。


 ひとまずほっとしつつ、杖をじーっと見る。

 長杖……シシリー(わたし)が生前、愛用していた杖だった。

 鈴もシシリー(わたし)の魔力登録の証である、紫のリボンがついたままだったので、飛んできた?

 いや、そもそもこの杖、今までどこにあったんだ?


 なんだかよく分からないけど、今の体格では重すぎて持ち歩けないし、使うにも自分の身長の2倍近く長い杖とか無理だから……。

 ただ、このままにしてもおけないので収納を意識して、杖をしまう。うん、しまえた。



「あ〜怖かった!薄暗い廊下を小さな女の子がふわふわ〜って歩いてたから、オバケかと」



 カイルザークもほっとしたのか、普段では聞けない、軽く息を吐く音と共に、ずいぶんと間の抜けた声が、薄暗い廊下に響く。

 あまりに素っ頓狂で、じわじわと笑いがこみ上げてくる。



「オバケ……ふっ。あははっ!オバケって…もしかして…まだ、こわい?」


「アンデットの方が怖くないっ!」


「にたようなものじゃない…あははっ」



 オバケか……3歳児の姿の癖にやたら大人びた言動だったり態度だったカイルザークがお化けにビビってるとか、なんか可愛い。

 って、そうか、私の寝巻きは白いワンピースの様な形状だから、暗闇から遠目にみたらオバケだね。

 ビックリと恐怖の反動からか、どうにも笑いが止まらなくなる。



「それにしてもセシリア……ずいぶん縮んじゃったね?」


「あははっ……これがほんとう。さっきまでのは、ルナのいたずら……」


「小さいとは思ってたけど、ここまで小さいとは思ってなかったよ」


「そう?」



 カイルザークがじーっと、私を観察してたようだけど、笑いが止まらない。

 笑いすぎて涙まで出てくる。



「アンデッドよりオバケのほうが、かわいいともうけど…っふふ」


「アンデッドは倒せるからっ!オバケは倒し方知らないからねっ?!」



 ふんっ!と今にも頬を膨らましそうにして怒ってる姿が、余計に可愛らしくて…ダメだ、笑いが止まらない!

 カイルザークらしいといえばらしいけど、いつもの冷静さが…かなり減ってる気がする。


 これは縮んでしまった影響なのかな?

 それとも『先輩と後輩』という立場が無くなっての、本来のカイルザークの素なのかな?

 ……私としては大歓迎だけどね。


 今日のルークとの対応もだけど、やっぱり立場で線引きをされるのは苦手だ。

 途端に遠く離れてしまったような、今まで仲良くしていたのに、急に他人になってしまったような悲しさがある。


 うーん、やっぱり縮んだ時の感情やら行動パターン、身体の反応等、どうなってるんだろう?

 気になるな……と、考えこみそうになったところで、どん。と衝撃がきて、尻餅をつく。



「セシリア可愛い!」


「ちょ…と!おもいっ…」



 じたばたともがいてみるけれど、抱きつきというよりは拘束のようにがっちりと腕を締められたまま、倒れ込んでいる。

 可愛い!と全力でぐりぐりと顔を押し付けられてるわけですが……うん、ふにふにとほっぺが柔らかくて良いんだけど、重いよっ!



「えぇ〜、僕にもしてたじゃない!」


「……おしたおした、きおくはないよ?」


「押し倒すとか……あ、うん、倒してるね、ごめん」


「ですよね?いたいからね?」



 ぎゅっと抱きついただけのつもりのようだけど……勢い余ってますよ!

 あー……これが獣人と人族との違いってやつかな。

 こんな幼少の時点からすでに違うんだなぁ……。


 ま、あれだけ素早く動けるんだものね、それなりに力があって当たり前だよね。

 ごめんね。と助け起こされながら、その力の差に凄いなぁと感心していると、カイルザークはぶつぶつと独り言の様にいいわけを始めていた。



「……力の加減が、本当に難しいんだよね。エルに飛びつこうとすると軽く往なされて、そのまま投げられるし…ほんと、難しい」


「なにしてるの……」


「愛情表現?」


「えぇぇ…」



 どんな愛情表現なの……。




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