余談だけど。
ルークを見送った後、号泣してしまった私はユージアを父様に回収された後、セリカに連れられて湯浴みをした。
思いっきり泣いてしまったのもあって「少し顔を冷やしましょうね?」との事。
でも、泣くだけ泣いたらスッキリしてしまった。
ちなみに湯浴みの間、セリカはずっとルークの話していた。
男の人に使う言葉では無いのだろうけれど、綺麗という言葉が本当に似合う。
ただ、女性のように綺麗というわけでも無いから、男性としての美しさなんだろうね。
(あなたがトレイで殴ったり蹴り飛ばしてるユージアは、そのルークの息子さんだよ?と思ったけど、ここは突っ込んじゃいけないんだろうなぁ)
湯船に浸かってぼんやりとしていると、香油を取りに衝立の向こうへ行っていたセリカのびっくりする声が聞こえた。
「セシリア様っ……やっと元に戻りましたねぇ…」
「?」
セリカのほっとしたような優しい声に首を傾げていると、手を握られる。
……手が小さくなっていた。
あぁ、懐かしの3歳児!
ユージアを抱き上げられなくなっちゃうのは残念だけど、本来の姿がやっぱり一番だよ。
「もどった?」
「戻りましたね。いつものセシリア様ですよ」
うん、声も幼児特有の高い声に戻った。
でも、心なしか喋りやすい。
大きくなった時に喋り捲ったからかな?少しは練習になったのかな?
そっと抱き上げるように、湯船から出してもらっていると、視界の端にちらりと手を振るフレアが見えた。
「ふれあ、ありがとう!……がんばってね」
『頑張るから……助けてね』
金髪の少年がふわりと笑って姿を消した。
私の体を拭いていてくれていたセリカは思いっきり嫌な顔をしていたけど……。
「精霊に性別はないとは分かってるんです。セシリア様の精霊だという事も分かってるんです……でも、異性の姿で湯浴みに近付いて欲しくないです」
うん、それわかる。
思わず、私もうなずいてしまったら、セリカに笑われてしまった。
シシリーのいた魔導学園にも精霊使いが何人も在籍していたけど、やっぱり自身の身の回りの世話をさせる時だけは、性別を同性にしてる人が多かった。
まぁ、見栄えがいいから、あえて異性の姿で……と公言していた欲望丸出しの人もいたけどね。
ちなみに私は、そもそも暴走してたからそんな指定なんて全く聞いてくれませんでしたとさ。
身の回りの世話とかお願いした事もなかったから、不自由はしなかったけど。
それにしても、セリカの話が常にルークだ。
研究所の女性の後輩のようで思わず笑ってしまう。
ただ気になったのは『初めて見た』ということ。
あれー?どういう事だ?
顔を凝視されるのを嫌がってはいたけど、基本的な行事や祭典は昔はちゃんと出席してた。
今だって国の上層部で働いてるんだから、そういう断りきれない行事が沢山あるはずなのに。
父様と母様も、王子様達も同じようなことを言ってたし。謎だ。
今のルークの人物像って、どうなってるんだろう?
セリカに湯浴みへと連れてこられる直前、セグシュ兄様までもが面白い反応してたしなぁ。
お喋りなセグシュ兄様が、今日はやたらと口数が少ないな?とは思ってたんだよね。
どうやら背景に同化する勢いで気配を消す事に徹していたらしい。
『……緊張したっ』
ぷはー!という安堵の息がセグシュ兄様から聞こえた。
『セグシュ兄様……?』
『あ、ごめんね。ハンス先生……苦手なんだ』
『兄様にも苦手ってあるのね』
苦手、とはっきり言ってるし。
悪口になるような言葉をはっきりという人ではなくて、むしろいつもにこにこしていて優しいお兄ちゃんが真面目な顔で怯えるようにしているのが面白くて、まじまじとセグシュ兄様をみてしまう。
『……むしろ、あんなに和やかに笑ってるのを初めて見たんだけど』
すると不思議そうな顔で、セグシュ兄様にまじまじと見つめ返されてしまった。
『あれで、和やかなんだ?』
『そうだね……セシリアはどうしてそんなにハンス先生に気に入られてるんだろうねぇ?』
本当に、それはそれは不思議そうに聞かれた。
うん、むしろそれは私の方こそ聞きたいですよ?
正確には『花』だったから?でも、セシリアとの初対面の時に、『花』の香りを誤魔化せることができるって、香りを抑えてくれたくらいなんだから、香りに魅せられたわけでもないと思うし。
本当に不思議だよねぇ。
……ぼんやりと考えながら、セリカに手伝ってもらって、着替えを終える。
髪を乾かしてもらうのが気持ち良くて、気づけばうつらうつらしてしまう。
「セシリア様、大体乾きましたからベッドへ行きましょうね、歩けますか?」
「はぁい」
ふふふ。と嬉しそうなセリカの声が聞こえる。
これは真っ直ぐ歩けてないんだろうなぁ。
どうも、私の身体は、何よりも睡眠を優先するみたいで、眠くなると寝ながら歩くらしい。
一応起きていてもバランスが疎かになって蛇行するみたい。
それがとても可愛らしい!とセリカに嬉しそうに言われた事があった。
ベッドによじ登ろうとする前にさっと支えられて、寝かされる。
「おやすみなさいませ……明日もきっと賑やかですから、しっかり寝ましょうね」
セリカの優しく囁く声と、ぽんぽんと毛布の上から肩を叩かれて……すぐに意識が途切れてしまった。
いつもの熟睡だ。
目覚めもこのベッドでありますように。
もう、起きたら教会とかイヤだからねっ?!