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巻き込み確認。



「誰も、巻き込まないように、気をつけます」


「これからは、ちゃんと守れるように頑張るから!」



 がくりと父様が肩を落としたのが視界に入る。

 そうじゃないんだよ……と、その姿勢が語っている気がするが、あえて見なかったことにした。

 だって、誘拐とか強制転移とかさ、不可抗力だよね……。

 そうなると、あと気をつけるべきは『誰も巻き込まない』これしかないと思うんだ。


 1人は怖いけど、頑張るよ!



「セシーは誰かに守られなくちゃいけない環境へ飛び込まない事!カイルザークも、絶対に無理はしない事!」


「「はい……」」



 父様がふっと顔を上げたあとに、父様の号令のようなはっきりとした声で、再度怒られた。

 ……その声量にびびって思わず、はいと返事してしまったけど、自ら危険な環境に飛び込んだ事はなかったと思うんだ……。



「でもね、今度は誘拐されても、すぐに助けに行けるよ!セシリアの元へ跳べるから」


「そんな簡単に、誘拐させないからっ!」


「私って…そんなに誘拐されやすいの……?」


「ふふっ。セシリア……あなたは魔力測定の後に意識が戻ってから、自宅のベッドとお外と、どちらで寝た数が多いか、数えられるかしら?」



 母様の朗らかな声が、車内に響き渡った。

 何故か楽しそうなんだけど、言われてみれば……自宅のベッド…寝てないな?


 意識が戻って、一回、寝たきりじゃないかな?

 起きたら教会だったし、その次は監獄、その次は離宮と王宮……で魔導学園のシシリーのベッド。

 そう考えたら無性に、自分のベッドが恋しくなった。



「あははっ!そうだよね……自宅…ね。聞いた話だと、まだ帰ってないよね?しかも仮住まいの離宮の屋根も吹き飛ばしたって…」


「全部、不可抗力だからねっ!?」



 母様につられて楽しそうに笑うカイルザーク。

 ……私がトラブルメーカーみたいな言われ方してるけどさ、狙われたり巻き込まれただけだと思うんだよね。


 でも、無事に帰れて、良かった。

 こうやって、みんなで笑い合えて、良かった。


 早くお家に帰って、退屈だと思えるほどに平和な日々に戻りたい。

 そんな平和こそが、今は1番の幸せに思えた。


 3歳にして遭遇してしまった大冒険。

 お友達がいっぱいできたけど、やっぱり恋も冒険もまだまだ早いと思うんです。

 もうちょっと待っててね。そう実感する事が多かった。


 窓の外の景色を眺めながら、ほっとしてしまったのか途端に眠くなる。

 まぁ、本当なら3歳児のお昼寝の時間だものね。


 父様も母様も、みんなもいるから大丈夫!と、今回ばかりは抵抗せずに素直に睡魔に負けることにした。







 ******








「あらあら……子供達は全員寝てしまったようね。可愛らしい」



 夕暮れ時の馬車の中、セシリアの母親が今にもとろけそうな優しげな笑みを浮かべて、すやすやと安らかな寝息を立てている子供達の寝顔を見つめている。

 王都は目前まで迫っていたが、いかんせん、大型の鈍足の馬車である。

 到着は城門ギリギリの時間になるだろう。



「3人、か…いきなり3人も子供が増えてしまった」


「あら、賑やかで良いじゃないですか。ふふっ」


「いや…構わないんだが……今でも子沢山公爵と言われてるのに、さらに拍車がかかるとなると」


「どうせ嫉妬なんだから、そんな事どうでも良いわ。この子達が楽しく過ごせるように頑張りましょうね」



 母親はにこりとセシリアの父であり自分の夫へと笑みを向ける。

 ……この夫婦は昔から知っている。

 セシリアの母親に至っては、生まれる前、彼女の母親の腹の中にいた頃から知っている。


 現在の王の末の妹にあたる。

 降家するまえは末の王女だった。

 成長とともに光の属性に強い相性がある事がわかると、大聖女と呼ばれるようになった。


 その大聖女の夫は国の宰相であり、魔術師団の団長である。

 つまり、私の同僚だ。

 職場でも久しぶりに授かった末娘の可愛さをにこにことアピールしていたのだが、最近はその末娘に振り回されて、常に眉間を押さえていたり、頭を抱えている。



(……私も巻き込まれた口なのだろうか)



 私の子は全員成人済みだ。

 孫どころかすでに曽孫までいる。

 その曽孫が辺境伯の当主に就いた祝いが記憶に新しいところか。


 ただ、長男のみ、幼少時に里の襲撃に巻き込まれ行方不明になっていた。



(長男のみが私の血を色濃く受け継ぎ、エルフの因子を持って生まれていたのだが……)



 長男以外の襲撃後に拐われていった者達は全員保護されたというのに、精霊の力を持ってしても長男だけは、探し出す事ができなかった。



(もし……生き延びていられたのならいつか会えることもあるかもしれない)



 国としての捜索は早々に打ち切られてしまったが、そんな希望にすがり、個人でずっと探し続けて50年が経過していた。



「しかし……1番のトラブルメーカーが実子の娘(セシリア)というのがなんとも」


「セシリアはトラブルなんて起こしてませんよ?とっても良い子よ?トラブルは巻き込まれただけ。それもちゃんと自力で解決して帰ってこれる。頑張り屋さんだわ」


 また頭を抱えるようにしている宰相ににこにこと微笑みかける大聖女。



(そうだ、どうした事か、その話題の末娘が我が子を連れ帰ってきた……末娘に奴隷契約を施されて)



 とんでもない巡り合わせだ。







 ******









 時刻は黄昏時、そろそろ陽が完全に沈む。

 そこまで時間が経過してもなお、宰相と大聖女のマシンガントークは続く。

 この夫婦の仲の良さは、この途切れる事のない会話にあるのだそうだが、正直ついていけず、軽くため息をつく。


 良いタイミングで風の乙女(シルヴェストル)が書類を受け取ったとの気配を感じ、取り寄せる。

 知らない者から見れば、いきなり数枚の書類が私の手に現れたように映るだろうが……。

 仕事を迅速にこなすには、とても便利だ。


 魔石のランプの明かりを強め、書類に目を通し始める。



 この宰相と大聖女夫妻の居宅が夜更に襲撃され、在宅中であった息子の1人が重傷を負い、3歳の末娘が拐われたのだという。

 傷に付着した魔力の残滓から、我が子……ユージアはその実行犯の一人となっていた。


 精霊を使っての捜索は、非常に正確だ。

 人のように視覚のみの捜索ではなく、個人が無意識に発する魔力の痕跡を辿っての捜索となるからだ。


 生命活動を終えた遺体ですら、微量な魔力の痕跡から簡単に見つけだせるというのに、その捜索網にすら引っかからなかった我が子。

 その我が子の魔力の残滓が、公爵家の子息の傷から見つかった。



 ……この書類は『ガレット公爵家襲撃』に関する事のあらましが大まかに書き上げられた物だった。

 内容に間違いがないかを確認し、追記が必要な部分にはチェックを入れていく。



(しかし……遺体が見つからないのであれば、当然生きているのであろうと続けていた捜索ではあったが……まさか国内、すぐ近くの建物に囚われていたとは思いもしなかった)



 環境的な予想はしていたが……封印された間に永く囚われていたようだった。


 ……封印された環境のおかげか、瘴気にもあてられずに里の外でも無事に育つ事ができたのだろう、身体のみは。

 健やかに、とは口が裂けても言えない環境だったようだが。


 思考と書類のチェックに、ひと段落付けたところでふと顔を上げると、眉間をしわしわにし、目元を隠すように項垂れる宰相が目に入る。



「……珍獣コレクターだそうだよ。うちのセシーは」


「珍獣って…ふっ」



 最愛の娘である公爵令嬢に、いきなりとんでもない通り名がつけられてしまったと頭を抱えている宰相に、さも楽しそうに微笑う大聖女。

 思い当たる節があるのは明確だが……。




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