一緒がいい。
「でもさ、カイもルークのとこから通う事になったら、ユージアも一緒で良いんじゃないの?」
「いや、僕は、帰る気はないからね?」
凄い勢いで拒否の姿勢をとるユージアに、カイルザークが不思議そうに首を傾げる。
「何でそんなにルークを毛嫌いしてるの?君の父親でしょ?」
カイルザークにとってのルークはとても優秀で尊敬に値する先輩だった筈だ。
まぁ、私から見ても優秀な大切な友達だったわけなのだけれど……あ、最近の暴走っぷりは無しとしてね。
「……襲われたらしいよ?行方不明だったって言ったでしょ?救出されて感動の再会!ってとこで」
「は……?」
まぁ、そんな場面にセシリアの母様も同席してたらしいんだけどね。
しかも、がっつりガン見してたっぽいし。おそろしや。
「その前にさ『同僚すら実験材料にした』とか『人を人とは思わない』とか『姿を見せることが滅多にない得体の知れない辺境伯』で有名なんだよ?こっ…痛い!痛いからっ!」
「噂だけで判断するのは良くない……」
こ。の次にユージアは何を言おうとしてたのだろうね?
話の途中で、会話を止めさせたかったのかルークからぐりぐりと拳骨を押し付けられている。
珍しく素手での攻撃に思わず笑ってしまう。
いつもは角砂糖とか飛ばしてたもんね。
「え……それって僕、五体満足で学校通ったり…出来るのかな…?」
「……そんなにイヤなら、うちに来る事にならないように頑張るんだな。2人とも」
ジト目になって茫然と呟くカイルザークの言葉に続き、いつもより低めの、不機嫌な声がその場に響く。
ぎくりと、声の主におそるおそる振り返ると、にやりと意地の悪い、しかし最高に楽しそうな笑みを浮かべているルークがいた。
少し歪んでいて、素直な笑みではないけれど、その美貌も相まって思わず見惚れてしまう。
何かの映画で見た、美貌の魔王様みたいだわ……。
******
……ふと気づけば、片手に持っていた水はお茶に変わり、膝の上には数枚のクッキー。
小春日和のほんのり暖かい日差しと共に、まったりと…とまではいかないか、情報共有ってことで魔力測定会の日の出来事から、セシリアが拐われてしまった事、拐われた先での出来事をさらっとカイルザークに説明することになった。
カイルザークの反応としては「お粗末すぎるでしょ」と、ぽつりとこぼしてたくらいだった。
まぁ、私が一方的に説明したしただけだから、現在進行形で教会への対応しているルーク特に口を開かなかったのを見ると、きっと他にも色々と悪事が出てきているのかなと思った。
(今度話してくれるって言ってたし、その時にはちゃんと説明してもらえるのかな?)
気になるところではある。
特に『籠』と呼ばれる、場所に長らく監禁されていた少年たちの事。
私の誘拐に関しては、そもそも魔力持ちの誘拐が恒常化していたようなので、今回の大騒ぎの原因は、感覚が麻痺しての結果だろうと思っているから、あえて言わなくても厳しく詳細が調べられるに違いないと思っている。
ただ、うまい具合に揉み消されることがないようにだけ、願いたい。
「あれって、さっきフレアが言ってたお迎えかなぁ?なかなか来ないと思ったら、あの大軍じゃあしょうがないよね」
「あ!……本当だ。来た来た」
野営広場の入り口の向こう、まだ少し離れた位置にぼんやりと、商隊と言うよりは軍隊!といった感じの、かなり幅をとった馬車のような隊列が見え始めた……。
随分進み方がゆっくりだなぁ……なんて思っていると、明らかに王家の馬車と、その護衛だとわかる軍団が土煙を上げながら、こちらに近づいてくるのが見えてきた。
いくら整備された街道といっても、さすがに一般の馬車より大型の車体の周囲を、さらに取り囲むようにして併走するとか、他の馬車とのすれ違いとか厳しいと思うんだよねぇ。
陽もだいぶ高くなり、時刻はちょうど昼前ぐらいだろうか?
本来ならば、私の徒歩移動であれば、まだまだ森の中だったのかもしれないから
到着時間としては遅すぎた、ということはないはずなんだけどね。
(そういえばお昼ご飯の準備しなかったなぁ……まぁ、お腹すいてないから良いかな。酔ってるし)
そもそも、フレアから『もう到着する』って聞いてたから、準備しなかったってのもあるのかな?
なんて、ルークからもらったお茶をちびちび飲みつつ、隊列が徐々に近づいてはっきりとその姿が見えてくるのをぼーっと眺めていた。
馬車とその護衛の軍団は野営広場の大きく膨らんだ部分で歩を止めると、私達に気づいたのか先触れと思われる騎士が馬から降りて近づいて来る。
ルークの姿を認めると、敬礼のようなポーズをとった。
白く磨き上げられた鎧がきらりと光る。
……メアリローサ国の騎士ですね。
「お待たせ致しました!お迎えにあがりましたっ」
格好いい!とか思いながらぽかんと見つめていると、後方に止められた馬車から小さな人影のようなものが転がり落ちるかのように飛び出し、なんだろう?と、目を凝らそうとし……あっという間に、目の前に近づいてくる。
「セシリアっ!……って1人増えてる」
エルネストだった。
エルネストも、やっぱ獣人なんだなぁ。速い。
そんなエルネストの表情は…心配してくれていたんだろうね、少し青ざめていた。
そんな顔はさせたくないと思う。
でも思いっきりさせてしまってたんだね、反省しないとだ。
こちらの世界では『行方不明→二度と会えない』なんてことが当たり前にあるのだから。
「「あ、獣…人…?」」
エルネストが一目散に駆け寄ってきたのと同時に、カイルザークの姿を認めると、不思議な顔をして固まってしまった。
不思議を通り越してあれは『不審』かもしれない。
カイルザークも、彼にしては珍しく、眉間しわしわにして見つめあってる。
「「獣人だね?」」
ユージアと私とでハモるように言ってしまったけど、とにかく2人の反応が面白くて、思わず笑ってしまった。
極端な反応なんだよなぁ、何かあったんだろうか?
転がり落ちるように馬車を飛び出してきたエルネストに遅れること少ししてから、馬車から数人の人影がさらに降りてきた。
「セシー!おかえり!って……1人増えてる」
「あ!、2人目っ!…ほらね、普通はこの反応するって…あははっ」
既視感!
ユージアは笑っていうけど、君も同じような反応したよね?
だから、これで3人目だからね?
馬車から降りてきたのはセシリアの父様と母様だった。
嬉しくて思わず顔がほころび走り出す。
「父様母様っ!」
「セシー!おかえり」
思わず父様へと駆け寄ると、その勢いのままに抱き留められる。
ぽんぽんと頭を撫でられる。
……やっぱり父様が1番落ち着く。
「頑張ったんだってね。話は聞いたよ?」
「セシリアはお友達いっぱいでいいわねぇ」
うふふ。といつもなら頭上から聞こえるはずの母様の声が、間近に聞こえた。
あぁそうだった、いつもの小さな姿じゃなかったんだった……。
思いっきり父様に向かって飛び込んでしまう格好になってしまったけど、と思ったけどびくともしなかったな……うん、頑丈な父様で良かった。
あやうくウッカリで父様にタックルをくらいかけさせた事に気づき、冷や汗が浮かびかけたところで、私のローブの裾をつんつんと引かれる感覚があり、振り向く。
「ねえさま……?」
「ねえさま、ですって!可愛いわぁ〜。セシリアはこの子のお姉ちゃんなのね?」
ひょこりと、私の影からカイルザークが父様と母様を見上げるようにしていた。
あざとい!あざといよ!カイルザークっ!
さっきまでの不遜な態度はどこ行っちゃったのさ……。
私よりしっかりした会話してたじゃないかっ!
「ハンス……この子は…?」
母様の表情は既に、とろけそうな程に緩んでいる。
カイルザーク、可愛いもんね。