準備。
あぁ、謝らなければいけないことが、もう一つ増えちゃったね。
もう、自分にあきれ果ててどうしようもない。
軽く頭を抱えつつ、アクセサリーを『発動状態』にする。
(まぁひとまずの問題は解決したってことで、次は着替えを準備しないとね)
謝ることだらけで、本当にどうしようもないけど、まずは帰ることを一番に考えなきゃだ。
魔導学園の衣類の方が、古いのに性能が良いってのも何とも言えないけどね。
肌着の幼児サイズが、私の4枚と、ユージアとカイルザークのと……。
ヘビロテするにしても最低限4枚は欲しいからね。
薄目のTシャツも長袖半袖と2枚は欲しいかな。
それと子供用のローブ。
これは魔法付与されているから、絶対に欲しい。
(子供用で魔法付与されてるとか、魔導学園では当たり前だけど、メアリローサでは、まず有り得ないものなのよねぇ……みんなの安全を考えると、絶対に選択肢から外せない逸品ですよ!)
あとは……2人の普段の装備としての制服。
デザイン的にも普通に子供用のスーツにしか見えないし、そもそも魔導学園自体の認知度が、今の世界では無きに等しいから、着ていても制服だと不便することはないと思う。
むしろこの制服にも魔法付与がされているから、利点の方が大きいと思うんだ。
衣類をまとめる布袋を3つ用意して、それぞれにぎゅうぎゅうと詰め込んで移動する。
量的に、サンタさんのようになってしまった。
なんだか、季節の変わり目のバーゲンで、子供たちの衣料を買い漁った前世での記憶と重なって、ちょっと楽しくなってしまった。
『少しでも、みんなが過ごしやすくなりますように』
そういうのを考えて買ってたんだよ?
……速攻で穴を開けて帰ってきたりされたけどね!
懐かしいなぁ。
にやにやと昔を思い出しながら移動しているうちに、執務室へと到着した。
「ただいまーって……2人とも、何なのその荷物っ!……うわっ!」
「キミも人の事言えないだろう……」
ドアを大きめに開けて中に入ろうとしたら、荷物が引っかかり、盛大に尻餅をついてしまった。
それを思いっきり見てしまったのか、ルークが口元を隠すように手を当てつつ、近づくと、もう片手で私の手を引いて立たせてくれた。
ドアにハマっていた荷物もふわりと3個順番に私の頭上を浮いて、応接のソファーの後ろに整列するように移動していった。
でもさ……口元隠してても、肩が思いっきり震えてるからね?!
目も楽しそうだし、笑ってるのバレバレだからね!
「ありがとう……」
「ふふっ。お土産いっぱいだな」
結局我慢できなかったのか、普通に笑ってるし。
……やっぱり、身体のサイズというか感覚が幼児のままだから、こういうところでの大きな失敗が多いかもしれない。
背伸びはよくないね。
「これは2人の着替えとかだよ?……メアリローサのより上等だから、使いやすいと思って」
「決死の脱出っていうよりは、バザーの帰りのおばちゃんみたいだよね〜」
まぁ、中身はお婆ちゃんだからユージアの例えは、あながち間違ってないと思うよ、うん。
4人中、ほぼ手ぶらなのは、みんなの様子を見ながら、からからと笑っているユージアだけでした。
本当は『自分の衣類くらい自分で持ちなさいよ』ってしたかったんだけど、ユージアはともかく、カイルザークまでルークに負けず劣らずの大荷物っぷりで、途方に暮れてしまった。
そもそも、あの身体であの荷物、ここ迄すらよく持ってこれたなと思うような量だった。
「ちなみに2人の荷物の中身って、何が入ってるの?」
「私は資材だな…薬草がメインだが」
「じゃあ、かさばってるだけで軽いんだ?」
「だな」
荷物が詰め込まれた麻のような荷袋をぽんぽんと軽く叩くと、ぽよ〜ん。と断衝材の感触があった。
採取後の薬草の劣化を防ぐ為に、乾燥保存されるのが基本だから……持ち運びの際には外部からの衝撃で粉々にならないように、品質の保持のために乾燥剤と共に断衝材を添付するのが基本となっていた。
「それなら魔石便が、使えないかな?」
「その発想はなかったな。機能すると助かるな」
魔石便……シシリー達が暮らしていた時代にあったお便利機能の一つだね。
何でこれまで廃れちゃったんだろう?と思うくらいに便利なんだけど……って、そうか、魔石便の発送自体が魔導学園からだったんだっけ……。
そりゃ、発送元が機能しないんだから、廃れるしかなかったか。
前世でいう、小物の宅急便って感じの物で、貴重品は送れない。重いものも無理。
それこそカタログや試供品、数冊の冊子等を送るのに適した、移転装置を応用・利用した機能だった。
小物と言いつつ、実際のところは大きさに制限はなくて、重さで使う魔石の量が変わるだけだったから、その設定をうまく調節して、貴重な薬草の取り寄せなんかを研究室でも利用してた。
「あとは、どこに届くかだよね。で……カイは」
「僕は私物だよ……ここで暮らしてたんだから。いきなりまとめるにしてもね…」
そうか、あの日、魔物の氾濫にのまれる直前まで、魔導学院が生活の基盤というか自宅だったんだもんね。
必要なものはいっぱいあるか……。
でもね、私もちゃんと準備したよ!
満面の笑みで、袋から例のブツを取り出して見えるように振ってみる。
「スリッカーは準備したよ!」
「えぇ……僕に必要なのってスリッカーだけなの?」
ぴ。とケモ耳が生えた。しっぽも、ぶわっとはえた。可愛い。
びっくりすると何故か隠蔽が解けるカイの癖。
相変わらずだね。
そして、ケモ耳もしっぽも萎れるように下がる。
あれ、なんかがっかりさせちゃったのかしら?ちゃんとエルの分も予備もしっかり準備したのよ?
季節もさ、これから夏だから、ふわっふわの冬毛がいっぱい抜けるんですよ!
頑張っちゃうよ?
視界の奥で、ルークが顔をしかめるようにして激しく呆れた顔をしてるけど、しーらないっ。
カイルザークもエルネストも子供だもんね!
これで咎められる事はないよね?
「そろそろ生え変わりの時期だもんね〜!ばっちりですよっ」
「あれ、もう冬…?」
「いや、これから夏っていうか、今が春になったところだよ」
カイルザークが少し遠い目をしつつ季節の確認をし、ユージアがにこにこと答える。
そうか、長期間眠ってたから、そういう感覚もズレてるんだもんね。
ユージアの返答にカイルザークは何故かほっとしたような顔になって……ケモ耳としっぽが出てることに気づいたのか、さっとしまってからソファーに座り直す。
「じゃあ……生え変わらないんじゃないかなぁ?僕は……夏仕様だよ」
「なんと……」
がっかりだ。
がくり。と脱力し、ソファーの背もたれへ沈み込みつつ、両手で顔を覆ってしまった。
楽しみだったのに!
あのふわっふわの毛並みに、思う存分もふれるんですよ?
しかも子供とか、大人よりもさらに柔らかくて気持ちいい毛並みなんですよ?
「凄い落胆だな、どれだけ楽しみだったんだか」
ルークの酷く呆れた声と共にかちゃかちゃと音が聞こえると、テーブルに軽食…毎度お馴染みのローストビーフやポテトサラダ、野菜のはさまれたサンドイッチやほかほかと美味しそうな湯気をあげるスープが並びはじめる。