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いざ。

 



 カイルザークはルークの言葉に擬似窓の明かりを見て、颯爽と執務室を後にした。

 当時(むかし)の自分の部屋があるからね。

 寮まで走っていったんだと思われる。



「私は、顔洗ってくる……ルーク、あなた……荷物がかなり増えてるんだけど、これ、持っていけるの?」


「……研究室の資材置き場から、いくつか失敬してきた。なんとかする」



 ルークの背後に荷物の山が見えた。

 少なくとも旅行カバン2つでは済まない量で……まぁ、旅行カバンなんてこの世界に存在しないから、どうやって持ち出すんですかね?

 大きめの登山リュックが欲しい感じ。


 それでも2つ分かなぁ……背中は1つしかないけどね。



「あ、ユージアとカイの衣類をいくつか貰っていかないと!顔洗ったら、ついでに貰ってくるから、後よろしくね」


「……ごゆっくり」



 私も大浴場へ向かう。

 顔を洗うとは言ったものの、寝汗が酷くてね、できれば汗を流してさっぱりしてから出発したい。

 温泉も入り納めだしね。


 今回は大浴場の入り口で、貴重品ロッカーに持ち出して来たカイルザークに贈った、魔石付きのリボンタイとメモ帳を入れる。

 女湯には、魔道具(マジックアイテム)の持ち込み禁止だからね。


 ついでにこのロッカー、浴場の中のカゴと同じでクリーニング機能が付いている。

 まぁ簡単なものなんだけど、ちょっとした汚れならすぐに綺麗にしてもらえる、便利機能付き。



(……これで汚れが綺麗に落ちればいいんだけど。魔物の返り血程度なら綺麗に落とせてたし、多分いけるはず)



 って、顔洗うのとシャワーでは使う時間が違うからね、猛ダッシュで服を脱いで、シャワールームへと向かった。



(帰りに温泉に飛び込むぞっ!)



 そう意気込んだ通りに、シャワーを浴びるとバスタオルを身体に巻いたまま、温泉の湯船に飛び込んだ。


 バスタオル越しだから、温泉のお湯がじんわりと伝わって来て、これはこれで気持ちが良い。

 入り口付近にある時計に目をやって『クリーニングがあと5分くらいで完了だし、その頃に出よう』とか考えていると、



「あれー、これは……凄いな」



 って、子供の声が聞こえるんですけどね。


 まさかのお風呂ドッキリですかね?!

 どう見ても、今度はカイルザーク。


 きょろきょろと何か楽しそうにしてるのが見えるわけですが、やっぱり女湯って気になるんですかね?

 入り口からでは、ユージアの時と同じで湯気で私の姿が見えないみたいなので、このままこっそり観察し続けるのも…まぁ面白そうだけど、カイは気付いてないみたいだし、私の方こそ覗き犯になりかねないので、一応声をかける。



「カイ〜。ようこそ女湯へ」



 びくっと文字通り小さく飛び上がると、硬直している姿が見えた。可愛い。

 本当にびっくりしたらしい。

 目をまん丸にして、周囲を必死にきょろきょろしている様子が見える。



「あ……ごめん、いると思わなくて…」


「別に良いよ。昨日、同じことをユージアもやらかしてたし」



 あはははと思わず笑っちゃうんだけどね。

 まぁ、痴漢としてユージアが捕まってたって事は言わないでおこうかな。

 湯船から出ると、カイルザークへと近づいていく。

 湯の音で気づいたのか、今度はしっかり私の方を見ていた。



「え…いや、あの姿だと男湯に行くでしょ?」


「魔力切れ起こして縮んでたから、女湯(こっち)に来てたよ」


「縮むって…やっぱりあの子も小さいんだ?大人なのか子供なのか、両方の匂いしてたんだよね」



 私の姿を認めると、じりじりと入り口へ向かってバックし始めるカイルザークが見えたので、捕獲しつつ会話を続けた。

 狼狽からか、照れからか、顔がりんごのように赤くなっていて可愛らしい。



「うん。カイと同じくらいかな?……あ、身体洗うの手伝うよ?もう、時間無いし」


「じゃあ……背中、お願いしても良い?」


「1000年分の垢落としですよ。頑張る」



 ぴくりとカイの動きが止まった。

 そんなことはお構いなしに私はフェイスタオルで石鹸を泡立てて、背を洗い始める。

 ……ユージアみたいな大量の垢は出てこなかったけどね。


 カイルザークは浄化魔法を普通に使えるから、お風呂は気分での利用だったんだろうし。



「は?1000年?!」


「うん。カイは1000年と少しくらいかな?寝てたんだよ」


「長寿…ね、なるほどね」



 ユージアの言ってた長寿の意味に思い当たったんだろうね。

 本当に申し訳ない。

 ここにカイがいるって知ってたら、すぐにでも起こしたかったよ。

 それをフレアに任せたまま、フレアに任せた事すらすっかりわすれてたとか、本当に申し訳なさすぎる。

 ……後でしっかり謝りたい。



「起こすの遅くなっちゃってごめんね」


「ううん、子供からやり直すにしても、セシリアと一緒なら楽しめそうだから、良いよ」



 にこっと笑いながら鏡ごしに私と目があって、ぱっと目を逸らされる。

 その反応に、なんだなんだ?と思ってるうちに、顔が真っ赤に……って、そうだった。

 私、タオル巻いてるだけだもんね。

 恥ずかしかったか。可愛いね。



「さて、終わったよ〜。私は先に出るけど、カイも温まったら早めに出てくるんだよ?」


「うん、ありがとう」



 返事と共に癖なのか、私を見てくれるのだけど、ぱっと目をそらして顔を赤くする。

 律儀というかなんというか……可愛すぎるね。


 お風呂から出て、颯爽と着替えると、念入りに髪を乾かす。

 髪と格闘している間にカイルザークも出たのか、私が女湯前の貴重品ロッカーにいく頃には、私以外の気配を感じることはなくなっていた。


 ちなみにロッカーの中身、カイルザークのアクセサリーとメモ帳は狙い通りに綺麗に洗い上がっていました。

 まぁ、さすがに破けてしまっているリボンは、元に戻ってはいなかったけれども。



(リボンタイは新しく探そう。主役はリボンタイにつけてある……装飾で魔道具(アクセサリー)だからね)



 しかし、なんでカイルザークを守ってくれなかったんだろう?

 故障なのかなと、じーっと見つめていると気づいた。


 発動状態になっていない。つまり電源オフになっている状態。

 なんてこった。

 壊れている以前の問題だった。




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