卵生?。
私を見上げている顔……言われてみれば似てるけど…。
ライトもつけずに薄暗い中では、なんとなく、としか分からないし…ていうか獣人の寿命って、人間とたいして変わらなかったと思うんだけど。
「うん……シシリーと同じ匂いがするのにね……」
疑問だらけで頭に「?」が浮かびまくりの私にカイは再度抱きついて話す。
表情は、顔を胸に押し付けてしまっているので、見えない。
ビックリしたついでに、涙が止まったのはいいけど、実は……ケモ耳としっぽがとっても気になる。
ぎゅーっと抱きつかれると、ケモ耳がですね…ちょうど顎や頰に触れるんですよ。
もふもふしたい……けど、我慢我慢。そう思いつつ話を続ける。
「私はセシリアだよ」
「僕こそ不甲斐無くてごめんね……守れなくてごめんなさい。それどころか、守られてしまったし、ルーク先輩にも、シシリーの番にも……酷いことをしてしまった」
「え……本当に、カイ…なの?って酷いことって?」
ぎゅーっと抱きついて肩と首のあたりにすりすりされる。
なんか、出会った直後のゼンみたいで、あのもふもふが恋しくなった。
……そういえば、ゼンは卵から生まれたってメアリローサ国の守護龍のアナステシアスが言ってた気がする。
そうなると、このカイも獣人のような姿をとってはいるけど、ゼンと同じような生き物なのかな?
「それと……助けてくれてありがとう。また逢えて、嬉しいよ」
「それは…嬉しいけど……ねぇ、それがもし本当なら……獣人なら……卵から、産まれないよ?君は精霊とか神獣とかの類じゃ無いの?」
この子が本当にカイルザークなら、あの血塗れぼろぼろのローブを見て私が感じてしまった、悲劇のような最期では無かったのなら、嬉しい……嬉しいけど、それはそれで聞かなきゃいけないことがいっぱいあることに気づいた。
「卵!?……ってなに?」
「え……君はそこにあった卵から、生まれてきたのでしょう?あれ?そういえば殻がないね?獣人は卵生…いや、卵胎生なのかしら……?卵胎生なら一見では胎生にしか見えないし……うーん」
「……悩むべきはそこじゃないと思う。今生まれたなら、胎児でしょ…この姿では生まれないよ?」
「いや、本当に卵だったんだよ?だから保温の座布団に乗せて……」
とても不思議な…理解に困った!という顔で私を見上げてくるんだけど、『そこ』とカイルザークの衣類が置かれていたサイドチェアを指差す。
だって寝る前に、保温の座布団と一緒に卵、置いたよ?
おやすみなさいって言ったし。
……でも今、保温の座布団の上に乗っているのは、血濡れの衣類。
「えぇと……少し、情報の整理が必要かな……あの日シシリーが……君がね、倒れた僕に回復の魔法をかけてくれて命を繋ぎ止めてくれたんだよ。それは覚えてる?」
全力で首を横に振る。
……全く記憶にございません。
『子供を助けようとした』という記憶と『カイルザークが一緒にその場にいた』という情報しか、ありません。
ていうか、さっきサラッとシシリーの番って言ってるし、その時点でシシリーが『花』だったどころか、番を知ってたってことになる。
「で、それから目が覚めたら、今……なんだけど。えぇぇ」
「私は……シシリーが死ぬ直前の記憶が無いの……そこにあった卵を守って、死んだってルークが。他にも詳細を知ってるみたいなんだけど……」
ルークが後日説明の場を作ってくれると言っていたことを話すと、何か納得したような何とも言えない顔になってから、ふわりと笑う。
「そう、じゃあ良いや!詳細はその時にでも。もしくは君がもうちょっと育ってから、かな?」
「あ…カイは、わかるの?」
この口調、懐かしいな。
本当にカイなのかな?
カイであってほしいという期待と、でも、本当にカイだったなら、さらに申し訳ない気持ちにもなる、そんな感情がごちゃ混ぜになってしまった。
まだ酸欠なのかな……。
「ん〜何となく。何で背伸びしてるのかまではわからないけど、本当は僕の今の姿と、同じくらいなんじゃない?」
「うん……精霊が暴走した結果です…」
「相変わらずだね、あははっ」
相変わらず……ですよね。
学生時代も、研究所に移ってからも、あの精霊たちは大暴れだったから……。
カイは私のそばにいることが多かったから、その惨事を……というか一緒に巻き込まれたりも多々あったし。
契約直後は先生たちから『高位で希少な精霊と契約した』って絶賛されたのにね。
高位であるがゆえの扱いにくさに加えて私の制御下手から、契約しているにも関わらず、全くもって私の思うようには動いてくれなかった。
というか、精霊自身の意のままに、自由気ままに動きまくってくれた。
あっという間に『なぜ契約してしまったのか?できてしまったのか?』と、頭を抱えられて、問題児扱いになったし。
「カイはどうして、縮んでるの?」
「さぁ?起きたら縮んでたし、魔法や呪いの類でもないみたいだし、お手上げなんだよね」
お手上げって……まぁ私も、この成長状態をなんとかしなくちゃいけないし、人のことは言えないんだけどね。
それにしてもしっかり者のカイルザークがお手上げって、なんだかとっても不思議な光景で、それと可愛い。
うん、可愛い。
あ、そうじゃなかった!でも可愛い。
出会った頃のカイルザークそのままな感じで、可愛い。
私を『先輩』と呼ぶようになったカイはすごいしっかり者で、成績優秀者で、なんか完璧!って感じになっちゃったけど、今のカイは、出会った頃の雰囲気にすごく近い。
「……また、一緒に学校行きたいね」
「セシリアは『また』じゃないでしょ?……でも、良いね。楽しそう」
またみんなで楽しい時間を過ごしたい。
こうやって楽しかったって思える、学生生活にできるかな?
今度は、大切な人達と……平穏無事に過ごせるかな?
思わずにやにやしていると、楽しそうな鼻歌とともに、ドアがノックと共に開く。
『いい湯でした』と言わんばかりにほんのりと頰を紅潮させた10代の姿に戻ったユージアが、にこにこと入室しかけて、私の膝上にいるカイルザークを見つけて、止まる。
「セシリア〜って、あれ?1人増えてる……?人体模型の次は、まさか本物まで造っちゃった……?!」
「え、最初の反応がそれなんだ?」
「僕、愛玩か何かなわけ?」
ちょっと待って?!
ユージアから見たセシリアってどんな人間なの?